見出し画像

初夏の街路樹、幻に目がくらむ

街路樹が煌めく都会の中心
その土地の象徴のようなTV塔がまるで
初夏の日差しを好んで浴びている人々の
居場所を与えているかのように
そこに存在していた

僕らはその居場所の片隅で
景色の一部に同化するかのように
カフェの影にある木製テーブル越し
秘かに身を寄せ合うことに決めたんだ

腰を落ち着け微笑み合った僕らは
君が紺地に花柄舞う日傘をさしたことで
より一層街の一部と化し
向かい合って手を繋いだままキスをした


きっと僕らは大丈夫だと思った

また離れ離れになってしまうけれど

もしかしたらまた彼女に
心の嵐がきてしまうかもしれないけれど

いや、その瞬間には
「心の嵐という現象が起こる未来なんて
信じられない」と

そう彼女は微笑んだんだ

きっと、その言葉に嘘はなかったのだろう

信じて疑わない程に確信に満ちた
遮るもののない完全な二人

街の片隅で気配を消しながらも
その年の初夏を逃さなかった二人

お互いに
奇跡のように目の前にいる相手の笑顔を
心に焼き付け合った二人


それは
幻だったと言われても頷けてしまうような
眩しさに目がくらむあの日


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?