見出し画像

夢が織り重なった先に

それは逢瀬の終わり際である夜更け

愛する男女が
違う方角に舳先を向けている
細長い二艘の小舟に
それぞれ足を踏み入れる時刻まで
あと僅かとなっておりました

彼らは川に揺られて
もといた地に戻るのです

まるでこの夢が織り重なったような
不思議な一刻(いっとき)が
何事もなかったかのような感覚になる
もとの日々へ


彼女はおぼろげに心を決め
その舟乗り場へ歩を進めます

彼はそんな彼女をゆるやかに引き留め
まだ僅かに残された時を告げて
舟乗り場の近くから
展望台のような場所へ伸びる
木製の階段に誘(いざな)いました


『この残された僅かな時でさえも
まだ私との何かを刻んでくださろうと
するのですね…』

目指す地に向かう道すがら
心の熱が涙のように滲む彼女


そして到達した二人
闇夜の中
視界が開けた先に広がっていたものは
遠くの地で咲き乱れる
桃色の発光花でありました

彼が最後に二人で
あの桃色の煌めきを
目に焼き付けようとした意思と

彼女が最後にそっと
そんな彼の横顔を
目に焼き付けようとした乙女心


その時期にしか現れない
幻想的で儚げな桃色の発光花が
いつしか時を経て
伝説のような花になってしまったとしても

強い意思と可憐な乙女心が宿る
男女の魂の中で

その花々はきっと永久に
発光し続けるのです


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?