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儚い完全体

ほっそりとした腕や脚が
乙女心をくすぐるワンピースから伸び
振り向く度に髪や眼差しが揺れ動く

そんな美しい完全体を手に入れた私は
あなたを見つけようと駆け出すの


ほとんど二人だけだと
宣言してもいいほどの世界線で

私たちは限られた動作と
あやしまれない程度の会話と
じっと見つめ合うことで
愛を伝え合ったんだ


初めてのあの日
ぎこちなくカウンター席で
隣り合ったかと思えば

並ぶ提灯が妖艶な花街の片隅で抱き合い

永遠に伸びて行くかのような線路と
輝く緑が眩しい地で青春の真っ只中


橙(だいだい)色の空を浜辺に並んで眺めた後に
制服姿で海の中はしゃぎ合い

ピアノを連弾した街で
二人ひっそりと寄り添ったのは建物の壁際


どこかの海上別荘では
桃色に染まる雲と海波の輝きに見惚れ

色とりどりの電飾が
宝石のように光を放つツリーのもと
向かい合い甘えるように頭を預け合った


そして私たちは
天蓋カーテンが透けるベッドに辿り着く

夢から醒めるまで
夢から醒めるまで

誰も見つけないで
誰も見つけないで

完全体の儚い私たちを

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