見出し画像

薄青い冬空とお肉屋さんのコロッケ

急かされるような用事の電話から戻った私を
迎え入れてくれたのは、
コロッケ四つにハムカツ二つが入った
小さなビニール袋を手から提げている
私の愛しの彼だった



薄青く晴れ渡った冬空の下
昔ながらのお肉屋さんのコロッケを
数人の行列に並んで手に入れてくれた彼

まるで遥か遠くの地から
帰還を求めるかのような
緊急事態の内容の電話に対応し、
泣く泣く新幹線の乗車予定時刻変更を
通話相手に伝えた私

二人に残された貴重な時間は
残りわずか三十分となったのであった



彼が当時旧友と語り合った小さな公園で
彼が当時食べていた小さな山芋コロッケを
彼が当時の思い出話をしてくれながら
共にほくほくと食べている

彼が当時見ていた景色にはいなかった
近所に住んでいるのであろう子供たちが
はしゃぎながら追いかけ合いっこをしている

彼の隣に当時は存在していなかった
彼のことが大好きな私が
彼の隣でコロッケを食べている


どこかから私たちを
眺めているであろう神様

どうか
生まれ変わったら

もっと早くから
彼と私を

出会わせて頂けないでしょうか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?