毒花咲き乱れる地を駆けて

意思の疎通とは

伝えたいこととは

聴いて欲しいこととは

知って欲しいこととは

「今の相手にとって
私の存在は迷惑なんじゃないか」
という感覚とは

いつも心のどこかで
怯えていることがあった

だからあなたの温かい胸の中に
安心安全な空間に
一刻も早く飛び込みたかった

だけど私がその日聞かされた、
あなたが待ち受けてくれるその居場所に
私は愕然としてしまったの

「そこはダメだよ…」

どうして伝えることが
出来ていなかったのだろう

そこは私の種族にとって
致死率の高い毒を含んだ花が
至る所に咲き乱れ始めている地であった

あぁ私は今日までずっと
使命多きあなたの日々を
自分なりに見守り支え応援しながら
邪魔にならないようにと過ごしてきたの

「あぁ、今日はこんな嬉しいことがあったな」

「あぁ、今日はこんなことを頑張ったな」

取るに足らない自分の日々の気持ちを
忙しいあなたに伝える価値を見出せず

それらの気持ちは海底から水面へ
泡のようにぶくぶくとさせて
通り過ぎるお魚さんだけに
見てもらっていたの

そうしていたら

「風の向きが変わったから
もしかしたらあの毒花の種が
向こう側に飛ばされてしまうかもしれない」

という深刻な状況に
いつの間にか流れが変わってきていた

だけど私は
忙しかったあなたに対して
すぐに声を発することができず

今、私は毒花咲き乱れる地を駆けて
あなたの元へ向かうことになったの

温かい胸の中とは
安心安全な空間までの道のりの過酷さとは

意思の疎通とは
伝えたいことを伝えるのを
はばかられる関係とは

「迷惑な存在」になることを
回避したかった心と
毒花で身体が蝕まれることを
回避できなかった私の

何かをどこかで間違えた物語