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「時間が解決してくれる」ということばの内実

空虚な励ましのことば

なにか乗り越えがたい出来事に直面し、そしてそれによって心を折られたとき、あなたの周囲の人たちはどんなことばをかけてくれるでしょうか。

その代表例に「時間が解決してくれる」というものがあるような気がします。

こう言ってくれる人はおそらく、「時間が嫌な思い出を洗い流す乃至稀釈してくれる」だろうというふうに、気を遣ってくれているのでしょう。

が、これはよく考えればアタリマエなことを言っているに過ぎないことに気が付き、そしてなにかアドバイスをしているようでいて全然そんなことはない、ということも明らかになります。

この記事では、このことについて書いていこうと思います。

外から見た”わたし”

誰かがあなたにアドバイスをくれるとき、その人はあなたの様子を見つつ言葉を選びます。

ここでいう「あなたの様子」というのは、例えば「落ち着きがない」「泣き腫らした目をしている」「憔悴し切っている」といったものです。

これらは、あなたの外見(主に、顔)や声によって得られる情報になります。

ここで強調したいのは、あなたにアドバイスしてくれている人はあなたの内面を完全に覗き込んだ回答をしていないということです。

より厳密には、しようと思ってもそうできないのです。

”他者はあくまで他者”だからです。

直面している問題の当事者は誰か

あなたの悩み乃至それを引き起こしている問題は、あなた自身のものであって他の誰のものでもありません。

なぜなら、その悩みというのは、あなたを中心とする空間の中でのみ”悩み”として機能する性質を持つからです。

言い方を換えれば、あなたが”悩み”だと思っているものは、誰かにとっては取るに足らない可能性があるということです。

だから、前節でも言ったように、あなた以外の人があなたの悩みの本質を把持することは原理的に不可能なのです。

”悩み”の源

前節までで、「あなたの悩みはあなた自身だけのもの」「他者はあなたの表面しか観測できない」ことを説明してきました。

この二点を念頭に置いて、以下読み進めていただけると分かりやすいと思います。

ここでは、次節の議論に備えて、一点目「あなたの悩みはあなた自身だけのもの」について、”悩み”を分析しておこうと思います。


あなたが思い悩んでいることは、他の誰にも共有されえません。

ですから、あなた自身でその悩みに何らかの折り合いをつける必要があります。

そのためには、その悩みの原因を探らなくてはいけないのですが、私が思うにはそれは、あなた自身が選択をしなかった末の結末に満足していないからです。

もしあなた自身が積極的にその選択をしにいったのだとしたら、折り合いをつけるのも比較的容易でしょう。

なぜなら、その結末はあなたが責任を負うべきであることは明晰判明であり、そのことはあなた自身が痛感しているだろうことだからです。

だからこそ、そのときあなたは颯爽と折り合いをつけて次なる選択に備えることができるのです。

しかし、あなた自身が選択をしなかったときには、その選択への責任者が途端に曖昧になってしまいます

そうすると、「自分が悪かったわけではない。置かれた環境が悪かったのだ」と、自己責任を逃れ、折り合いをつけることからいつまでも逃げてしまう姿勢が生まれる隙を自分に与えてしまうことになります。

では、この場合はもう折り合いをつけて悩みから解放される術はないのでしょうか。

こうした場合、”時間”が関係してきます。

”時間”は、あなたの内にしか流れない

いよいよ、「時間が解決してくれる」ということばの分析に移りましょう。

この節では特に、”時間”に焦点を当てて見ていきます。

前節で、「自分で選択をせずその結果に不服の意を持つときに、なかなか折り合いがつけられず、悩みが生じる」という私の考えを紹介しました。

そして、その悩みを払拭するのに”時間”が関係してくると書いて締めました。

そもそも、折り合いをつける、というのはどういうことでしょうか。

端的に言ってしまえば、「過去の選択に対して、自分が納得できる意味づけを行うことに成功する」ことを指すと思います。


ここまでの議論を振り返るためにも、ここでひとつ具体例を掲示します。

例えば、独身なあなた。あなたには、かつて意中の人が居ました。ですが、その人にはどうやら既に結婚前提で付き合っている人がいたようです。そのため、あなたはその人を諦めたとします。ですが、歳を重ねても独身のままなあなたは、そのことを大変後悔しているとしましょう。

あなたの選択と悩みを軸に、簡単に内容を整理します。

[選択]意中の人を諦めた

[悩み]意中の人を諦めなければよかった(せめて、告白だけでもしてみるべきだった)

この選択は、自発的なものでしょうか。それとも外発的なものでしょうか。

答えは明白―外発的なものですね。

なぜなら、この選択は「意中の人と付き合っている人」の影響を色濃く受けたうえでのものだからです。

その外発性ゆえに、あなたは悩みを抱えることになってしまっていることが分かります。

この場合、どのような折り合いの付け方があるでしょうか。

一例としては、「かつての意中の人よりも素敵な人を求めて邁進する」「かつての意中の人のことは忘れるくらいに多忙な日々を送る」などがあるでしょうか。

そうすることによって、かつての意中の人を選ばなかった(選べなかった)という過去の選択に対して、(程度の差こそあれ、)あなたは納得することができるのではないでしょうか。

これは全て、あなた自身が行わなくてはならないことです。

なぜなら、「あなたの悩みはあなた自身だけのもの」だからです。


そして、そうして折り合いをつけている間に、陰鬱としていたあなたの様子は次第に明朗な様子へと変化していく。

他者は、そんなあなたの表層的な変化の流れを、”時間”ということばで形容しているにすぎません。

あなたの悩みを「時間が解決してくれた」というのは、さしずめ「自分の中で、何とかして折り合いを付けられた」ということに外ならず、

このアドバイスの内実は、時間が過ぎ去れば勝手に悩みが解決されるなどという希望的観測などではなく、あなた自身が悩みと決別するプロセスを表層的に表現していることばに過ぎないということがお分かりいただけたと思います。

まとめ

最後の方は、非常に分かりづらくなってしまったかもしれません。

内容を簡単に要約しておくと、

・あなたの悩みは、あなただけのもの。あなたが解消するしかない

・あなたの周りの人は、あなたが過去の選択に対して折り合いをつけたのを見て、「時間が解決してくれた」と言う

・「時間が解決してくれる」と言うときの”時間”は、あなた自身の折り合いの付け方を表面的に捉えているに過ぎず、時が経てば解決されるなどという甘っちょろい話ではない


なにか釈然としない箇所等ありましたら、お気軽にコメントをお寄せください。お待ち申し上げております。


では、また次の記事でお会いしましょう。お疲れ様でした。

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