旅の借りは旅人に返す ~日常生活に照らして~
「本は読めないものだから心配するな」
というタイトルの本を発売日に書店で買ったきり、全く開いていないのをふと思い出して読み出した。
最初の方で、宮本常一という人物の本を取り出して、このように語っている節があった。
「旅の借りは旅人に返すという、暗黙の前提」
この節を読んだとき私は、この精神は日常生活の多方面に活かされうるものだと思った。
ここでいう「旅」とは、なにも「旅行」に限った話ではないように思えてくる。
例えば、商売をしていると「お客様は神様だ」とよくいう。
これは、自分がお客としてある店でよくしてもらった恩返しという側面を含むものではなかろうか。
ろくすっぽ自分はまっとうに真面目にサービスを提供してきたわけでもないのに、自分がサービスを提供してもらう側になった途端に踏ん反りかえるのは、厚顔無恥以外のなにものでもないように感じる。
自分が日頃お客様に誠心誠意を以て応対してきた。
その恩返しが巡り巡って自分のところに相手からの誠意として返報されるのであり、その逆も然りであろう。
自分が汗水垂らして真剣に働くのは、この意味で自分もそのようなサービスを受けることを期待してのものだともいえるだろう。
労働とは、単に資本主義に縛られた無機質なものとして語られがちであるが、その根底には本来このような精神があったはずではなかろうか。
夏目漱石の考えに、「則天去私」。その意味で「他人本位」ということばがある。
「天に則り私を去る」
つまり、他者(天)のことを想い、「我が我が」とならず自律の思いでふるまうことの重要性を説いたのである。
旅の借りは旅人に返す
この精神は、なにも旅行に限ったことではないだろう。
社会では、直接・間接を問わず、必ず他者と関わる機会がある。
そして、そこでは他人本位の気持ちでサービスの授受が行われるのが本性的なあり方であるように思われる。
この意味で、自分の家から一歩でも出れば、それはもう「旅」といえる。
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