「春の虫々」

何かが書かれるはずだったページで口を拭う
そこに憎しみの語彙を書き付けると
春の風がそれを吹き飛ばした

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春風に蕾は揺れて
その振動に愛は蠢きだす

愛とは、あなたと新しい物語を始めたいと思うこと

あなたとの物語の真新しい一ページ
そこに触れたインクの滲む形を知りたくて
この胸は弾むのだ

ああ!鼓動を抑えなくてはならない
春に蠢く愛は狂気を孕むから
眠っていた虫々は腹を空かせている

手を重ね指を絡めてペンを持つ
空腹を悟られてはならない
手は震えている

愛について語る語彙は憎しみの語彙よりも少ない
言葉を尽くすことは、よく噛んで食べることに似ている
愛は憎しみよりも胃もたれを起こしやすい

愛の語彙を与え過ぎれば
水をやりすぎた花のように腐敗が進む
腐りかけの甘い汁に虫が群がった

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