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【連載小説】「恋するスピリチュアル」⑮~時代劇、時代劇、ああ時代劇

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早速、私は、時代劇の勉強を始める事にした。

始めると言っても、雲をつかむような話で、何から手をつけていいのか分からなかった。
とりあえず、私は、図書館で手当たり次第に、江戸時代の文献を探した。

それは多岐に渡った。

武士の生活、幕府の組織、農村の生活、
江戸の女の一生、着物や衣服の事、経済や生活、風習、習俗に至るまで、
さまざまな本を手当たり次第に読み始めた。

そして、忘れてはならないのは、この作品の根底に流れる、
「女三界に家無し」の思想を紐解く事だった。

当初、私が考えていた時代劇の構想は、小、中学校の頃、歴史の教科書で学んだ、女の一生を表わした言葉、

「家にあっては父に従い、嫁(か)しては夫に従い、老いては子に従う」という思想を打ち消す事だった。

子どもの頃に、この文章を読んだ時に、女子である私が、いや~な気持ちになったのは言うまでもない。なので、いつか、この思想を打ち壊してみたいと考えていたのだ。

今度の作品では、この思想まんまの忍従する女性が、最後には自分の意思で歩いてゆく、というテーマにしたかった。

ところが、図書館でいくら探しても、この文言を書いてある文献には行きあたらなかった。
私はてっきり「女大学」に載っているものだと思い、貝原益軒の全集を手に取ってみたが、それらしきことはどこにも書いていなかった。

今、思えば、この考えは、儒教によるもので、「女大学」とは関係なかったのだが、前時代的な悪の遺物として世に名高い、「女大学」が源だと勘違いしていた私には、それが分からなかった。

その代わり、「女大学」に載っていたのは、

〝女は容姿じゃないよ、心だよ〟とか、
〝嫁いだら、実家の親よりも婚家の親を大事にしろよ〟や、
〝無駄話をするなよ。人の悪口を言わないで〟などの19か条にわたる教訓だった。

もちろん、中には、
〝妻は夫を主君と思え〟や、
〝夫に対して嫉妬心を抱くな。冷静に話し合え〟や
〝勤勉であれ。歌舞伎などに行ってはならん〟などの、

今、見ると、「なにそれ?」というのもあったけれど、
おおむね賛同できるものだった。

むしろ、江戸時代ならこれくらい当たり前か、と思うようなものばかりだった。
江戸の生活様式を今にあてはめ、断罪する訳にはいかなかった。

それに、私は文献を読むうちにだんだんと気づいたのだが、
こういった〝教訓〟が出るという事は、殆どの人が、
こういったものを守ってはいなかったのだろうという事だった。

おそらく、大多数の人が、現代と同じで、好き勝手に生き、
それを嘆いた教養人がこういった教訓を出したのだろうと思った。

だから、「女大学」に目くじら立てることもなかったのだ。
そもそも、これを書いたのは、貝原益軒ではなくて、妻だったという説もあるくらいだ。これを女性が書いたとしたならば、妙に細部にまで行きわたるこの訓示は、納得できるものだった。

しかし、そうなると、私の作品のテーマが違ってくる。
私の作品の主人公は、「女三界に家無し」を払拭する人物だ。
なのに、肝心のその思想がないなら、どうすればいいのだ…。(まあ、実際にはあったのだけれど、その頃の私には分からなかった)

うーん、どうしよう…と悩んだ末に、なら、これを逆手に取ってやろうと考えた。

そうさ、女は顔じゃないさ、心だよ。
婚家の親だって自分の親と同じくらいに大事だよ。
人の悪口なんて言わないで、楽しくやろうよ!

というような女性を主人公にしようと。

そうやって、徐々に、この時代劇の肉付けが出来ていった。


つづく


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