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特にオススメはしないけど私が好きなハヤカワSF文庫から5作品紹介します。

最初に断っておくと、私は決して読書家というわけではない。読書量は月に一冊から多くても三冊くらいだし、読む本もかなり偏っている。つまり、書店に平積みされているようなベストセラー本を読むことはほとんどない。でもまぁ、そこそこ読書好きではあると思う。なぜ胸をはって読書好きと言えないかというと、私の周りの人たち、会社の同僚たちはみんな結構本を読む。本を読んでいる時間が一番楽しいといい、休日には本屋へと足を運び、図書館にも足繁く通う。彼女らを見ていると、ああ、活字中毒とはこういう人のことを言うのだな、としみじみ思う。もちろん、読書量も半端ではない。もう何でも読むし、見るたびに違う本を読んでいる。そんな同僚の一人は三島由紀夫の金閣寺が一番好きだそうで、もう何回も読み直しているけど、読むたびに違う発見があるというのだからすごい。

「何読んでるの?」

「金閣寺」

「また? 読むものないならこれ読む?」

そのときたまたま読み終わったばかりのブレイク・クラウチの本を差し出したら、普通に読む読む~と、嬉しそうに受け取っていた。……雑食だ。

そういう人から見たら決して読書家とは言えない私だけど、おこがましくも読書感想文、あるいは読書推薦文?みたいなものに挑戦しようと思う。

と、いうわけで私がいいと思うハヤカワSFから5作品を紹介します。

まずはこちらから。『レッド・ライジング―火星の簒奪者』

ピアース・ブラウン著。

え、今さら火星開拓物語? 古っ!!と思ったらとんでもない。その圧倒的スケールと世界観に見事にハマりました。主人公のダロウは16歳の少年で火星の地下で過酷な労働に従事している。この世界は支配階級のゴールドをピラミッドの頂点にする厳格な階級社会。ダロウはレッドと呼ばれる最下層の労働階級に属し、人類の未来のために火星をテラフォーミングしていると信じている。だけど、ダロウの妻で同じく16歳のイオは自分たちが開拓者などではなく、奴隷なのだと気づいていた。16歳の夫婦って若い!と思うけど、火星では女は14歳、男は16歳になると結婚する。支配階級のゴールドとしても労働力が欲しいからその辺は調整しているのだと思う。火星の鉱山では、鉱夫たちがウサギのように繁殖するようにフェロモンを空調機で循環させている、と続編の黄金の後継者の方に書かれていたし。

で、ある悲劇が起きて、ダロウの目の前でイオが絞首刑になって首を吊られてしまうのだけど、火星では重力があまり強くない。だから首の骨を折るには両足を引っ張る必要がある。支配階級のゴールドは、その役目を近親者にやらせるのだ。ダロウはイオを苦しませないためにそうした。物語はここから始まる。復讐を誓ったダロウは謎のテロ組織に加わり、彼らの支援を受け、徹底的な肉体改造を行い支配階級のゴールドの一員に成りすます。もう、ゴールドとレッドでは肉体のスペックがぜんぜん違う。同じ人類から派生しているとは思えないほど違っているんだな。

ゴールドはみんな高身長で色属が示す通り全員が金髪。そして、階級を示す刻印が頭蓋の中に刻まれている。

第一巻はゴールドの次代の艦隊司令官や惑星総督を選抜するエリート養成校に潜入し、生死をかけた壮絶なサバイバルが始まるわけです。もうハンガー・ゲームかバトルロワイアルか、みたいな凄惨さと泥臭い戦闘とチェスのゲームが混ざったようなトンデモ試験を耐え抜き、いや、生き抜き、だな。最終的には養成校の寮生は半分以上が最後まで生き延びられず死んでしまう。支配階級の中で、さらに昇り詰めるためには過酷な試練に耐えられなければいけないんだね。ダロウは見事ゴールドの次世代エリート少年少女たちの中でリーダーシップを取るようになる。

この小説の構成というか、話の核みたいなものは、ギリシャ悲劇とか古代古典の匂いがする。SFなんだけど、神話を彷彿させるところがあるんだよな。

で、二巻の レッド・ライジング―黄金の後継者 上下 に続くんだけど、完結していません。いや、続きを翻訳出版する気ないでしょ? ハヤカワ文庫……。

このシリーズはアメリカでは大変人気があるようで、原題『RED RISING』『GOLDEN SON』『MORNING STAR』へと続き、そして新シリーズの『SONS OF ARES』という本も出版されているようです。ぐぬぬ…読みたい……!

海外でもこの作品のファンは多く、イラストサイトやYouTubeなどでファンアートをアップしている人も結構います。ユニバーサル・ピクチャーズが7桁の金額で映画化権を獲得したという話だけど、いつかスクリーンで見られる日が来るのだろうか―――

そして、頼む、続きをお恵みくださいハヤカワ書房様……!


では、続いてこちら。『共和国の戦士』

スティーヴン・L・ケント著

こちらの舞台は26世紀、人類は統合政体のもと統一されていて、合衆国憲法とプラトンの〈国家〉を基本とした民主制度が敷かれている。しかし、民主制度といっても、銀河系各地に派遣される兵隊はすべて同一のDNAを有するクローンという歪な一面も持つ。主人公のハリスは両親の事故死により、孤児院でクローンたちと共に育てられ、卒院後、海兵隊員として砂漠惑星ゴビに配属される。プラトンが〈国家〉で提唱した三階級〈支配階級〉〈市民階級〉〈戦士階級〉制の中で、主人公ハリスはこの戦士階級に組み込まれている。

これ、けっこう骨太な感じのミリタリーSFです。そして、とても哲学的な表現があったりする。物語が進む中でハリスの出生の秘密が明かされるのだけど、実は彼は、あまりの残忍さと戦闘能力の高さから過去に製造禁止となった、リベレーターと呼ばれる軍所属のクローン体だったんですね。出自を知ったハリスの葛藤は淡々としているのだけど、どこか哲学を感じさせます。

で、軍に幻滅し、一度は海兵隊からも去ってしまう。そして銀河を股にかけた凄腕の傭兵、レイとつるんで暴れまわったりするんですが――― おや、もしかしてここからスペース・オペラ風になっていくの!? と思いきや、銀河を巻き込む陰謀と戦争に再び軍に戻って戦うことになるのです。

作者はハワイ育ちだそうで、なるほど、と思う箇所が度々出てくる。ハリスの乗艦している戦艦の名前がカメハメハだったり、休暇で行く場所がホノルルだったり。あと、日本人の描写も妙にリアルで笑える。シン・ニッポンの知事でヤマシロというキャラクターがキーパーソン的な役割で登場するのだけど、とてもいい味を出している。ハリウッドで映画化するなら、ぜひヤマシロ知事の役には渡辺謙さんを起用してほしい(笑)。

この本はハヤカワ文庫から全3巻出版されています。が、アメリカでは7巻まで刊行されてます……( ノД`)シクシク… いや、全3巻でもきれいに終わってる、って言えばそうなんだけど……でも、続きが気になります!!!!ハヤカワ書房様!! だって3巻目の最後の文章読めば、ここからが本番だよね!? 今までは序章よね!? これから人類は未知なる敵と宇宙の覇権をかけた戦いに突入していくのよね???? でも、続き翻訳出版する気ないでしょ……ハヤカワさん。3巻は2011年の刊行だもんね。もう今さらね……アマゾンでも中古しか売ってないし、重版もされてないってことよね……。100巻越えのローダンシリーズは執念で刊行し続けてるのにね。こっちは収益が見込めないからかな。あまり売れなかったのだろうか? でも私はこの小説、すんごく面白いと思ったです。


では次行きます。『くらやみの速さはどれくらい』

エリザベス・ムーン著

こちらは21世紀版『アルジャーノンに花束を』と言われている近未来SFです。医療技術が発達し、自閉症が治療可能となった近未来。主人公の青年ルウは自閉症者の最後の世代。ルウは認識能力がずば抜けて高く、その能力を活かして大企業で働いている。その部署は、才能ある自閉症者のみで構成されていて、それなりの業績も上げている。ルウは健常者とのコミュニケーションに戸惑いながらも、うまく社会に適応しているのだ。

しかし、自閉症者を雇うために特別な環境を整えたり、一般社員とは異なる待遇を与えることが無駄な経費だと考えるようになった直属のボスに、大人の自閉症者を治療する人体実験に参加するように強要されてしまう。

しかし、最終的に、ルウは自分の意志で健常者になるための治療をすることを選択する。

光の前にはいつも闇がある。だから暗闇の方が光よりも速いはず―――

ルウはそんなふうに考える独特の感性の持ち主だ。

自閉症者独特の感性を、一人称の文章で書かれている本作は素晴らしい。それは作者の息子が自閉症者だからかもしれない。タイトルの『くらやみの速さはどれくらい』とは、実際に息子が作者に向かって投げかけた疑問だそうだ。

ルウの仲間である同じ部署の自閉症者たちも、とても魅力的に描かれているが、ルウを取り巻く健常者の皆さんがとてもステキなのだ(クソ上司は除く)。うん、うん、ルウには親切にしたくなるよね。とくに事件の捜査でルウと接触する刑事さん。いい人だー。

本書はSF界の権威あるネビュラ賞を受賞している珠玉の名作である。しかし、SFとしてではなく、人間ドラマとしても名作である。むしろ、ガチSFだと思って読むとガッカリするかもしれない。


では、次行ってみよー。『あなたの人生の物語』

テッド・チャン著

これね……超難解です。いや、私があんま頭良くないせいかもしれないけど。読んでいて思うのは、この作者さん何者?頭いいんだろうなーと。この本は表題作を含めて全8編の短編が収録されてます。表題作の『あなたの人生の物語』は非常に珍しい二人称の手法で語られています。ポエムくらいのごく短い文章なら二人称でもいけそうですが、これだけの話を二人称で書くのって、単純にすごいです。

ある目的を持って地球を訪れた二体のエイリアンとコンタクトし、言語解読を試みるよう軍から依頼された言語学者のルイーズが娘に語りかける文章で話は綴られていきます。時間軸が飛んでいたり、時間の概念がずれていたりするのが分かりづらいけど、それには意味があります。パズルのピースがうまくハマると、ああ、なるほど!!と唸らせられる作品です。この作品はネビュラ賞受賞作品ですが、日本のSFマガジン(早川書房)でも海外SF短編部門でオールタイム・ベスト賞1位に選ばれています。と、いうかハヤカワさん、テッド・チャン氏のこと、凄く押してますよね? noteの記事でも宣伝してたし(笑)。ちなみにこの作品『メッセージ』というタイトルで映画化されてます。監督はSF界の巨匠、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督でキャストも豪華です。しかも私の押し俳優のジェレミー・レナーが出演している💛 映画、すごくいいですよ~。やっぱり二時間の枠に収まる映画の原作って、短編くらいが丁度いいのかな。原作に上手く肉付けしてあってラストが秀逸です。

で、この本に収録されているもう一つの短編、『地獄とは神の不在なり』。全8編の中でこの話が一番ツボでした。後味は悪いんだけど……いわゆるメリー・バッドエンドってやつになるのか? この作品もSF界で権威あるヒューゴー賞を受賞しています。なんかすごい作家さんなんですね~。そもそもデビュー作の『バビロンの塔』もいきなりネビュラ賞受賞してたみたいだし……その他の作品も(すべて短編)何らかの賞を総なめしている感じです。アマゾンのレビューもみんな大絶賛だし。……みんな頭がいいんだな。


ではラストです。『宇宙兵志願』

マルコ・クロウス著


こちらは本格的なミリタリーSFです。舞台は22世紀、第三次世界大戦後のアメリカでは、人口過多になった人間を移住させるために植民星の開発が急ピッチで進められています。大多数の国民は福祉都市に押し込められ、配給に頼って生活しています。そこでは〈福祉ネズミ〉と蔑まされる人々がギュウギュウで生活しており、デモや殺人事件も日常茶飯事です。この辺りの設定、ちょっとディストピア小説っぽいです。荒廃した地球に嫌気がさしていた主人公のアンドリューは、21歳になったのと同時に北アメリカ連邦軍に志願する。5年間の兵役を終えることができれば高額の退職金に市民権が与えられるから。

何やら重苦しく、深刻で暗い話なのか!?と思いきや、そんなことはありません。いえ、状況は深刻なんですけどね。テンポよく読みやすい文章でサラサラ読めます。自分的に押しキャラはファロン上級曹長です。名誉勲章受章者で英雄の誉れも高い女性なんだけど、こんなカッコイイ女性キャラってあんまりいないよね。

作者のマルコ・クロウスはこの作品がデビュー作だそうです。といっても、書き上げた作品を持って出版社と著作権エージェントのところを回っても、誰からも相手にされなかったそうです。信じられん!!!!こんなに面白いのに!! そこでマルコ・クロウスはアマゾンのキンドルで電子自費出版に踏み切ります。これが売れたことによりエージェントがつき、電子版は契約を結んだ出版社から販売されるようになったとのこと。……これ、最近よく聞くよなぁ。まったく相手にされなかった原稿をキンドルで出版してベストセラー、あとから出版社が権利獲得って。アンディ・ウィアーの『火星の人』なんかもそうだよな。で、絶対こういう小説って面白い。

この『宇宙兵志願』は現在2巻まで出ているけれど、続き、いつ出版してくれるんですか?ハヤカワ書房様?? もう3年も待っているんですよ?? 北アメリカ連邦軍と中国ロシア同盟との闘い、異星人の播種艦の来襲と、物語はこれから佳境ですよ? キンドル版の英語で読むのは、頭の悪い自分には無理(笑)。横文字のペーパーバックをスラスラ読んでる同僚が羨ましい。

だから、お願いします。神様仏様ハヤカワ書房様


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