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fm GIG主催「ショートショートバトル」作品集

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イベントスペース・パームトーンで開催された「fm GIG ミステリ研究会〜ショートショートバトル」の作品集。 第1回:2019/1/19開催。タイトル「陽だまりの鳥」 第2回:2…
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#小説

我孫子武丸 顧問「作家大集合!書き出し小説バトル」作品集〜水沢秋生、 川越宗一、山本巧次、稲羽白菟、円城寺正市、谷津矢車、佐久そるん、緑川聖司、脳髄筋肉

タイトル「
失恋魔術師」
 ●谷津矢車 たぶんぼくはあのとき、一度死んだのだ。そう思う。
 ●緑川聖司 黒いシルクハットから飛び出したのは、ハトでもウサギでもなく、死んだはずの彼氏だった。
 ●山本巧次 
魔術師は恋をするかって? それを俺に聞くのかい。
 ●井上哲也 
どんな恋でも成就させると云う噂を聞いて、この街へやって来た。
 ●佐久そるん 
今日も転生。振られるたびにやりなおす。累積経験値だけは負けてねえ。
 ●円城寺正市 
恋愛禁止法が制定されて早十年。

ショートショートバトルVol.6〜「まつげボーン」南軍(緑川聖司、尼野ゆたか、延野正行)

(お題:ほんま本)(ムード:キュンキュン) 【第1章 緑川聖司】  20回目のコールを聞いて、わたしは電話を切った。メールもラインも返事がないし、電話もどうせ居留守に決まっている。一応の締切はとっくに過ぎ、本気の締切も過ぎ、本気の本気の締切も過ぎようとしているというのに。  わたしは大きくため息をついて、栄養ドリンクを一気に飲んだ。  憧れの出版社に就職して五年。念願叶って文芸部に配属され、男子高校生があべのハルカスと恋に落ちる話で大阪ほんま本大賞を狙っているのだが、

ショートショートバトルVol.6〜「まつげボーン」北軍(最東対地、遠野九重、天花寺さやか)

(お題:修羅の家)(ムード:キュンキュン) 【第1章 最東対地】  これは、とある少女の「変身」に至る物語である。  神寺(かんでら) みつき、空中で衝突する音に耳を塞ぎ、今目の前で起こっている出来事を整理した。  がぎん、と空気を破(わ)る音が衝撃と共に耳を掠めていく。  と、思えば風が高い音で前髪を浮かせた。  見えない。見えない。見えない。  一体なにが起こっているのだ。 出来事を整理するもなにも、見えないものを整理しようがない。 「わけわかんない!」  

ショートショートバトルVol.6〜「スマホのカラ」西軍(大友青、稲羽白菟、水沢秋生)

(お題:シャーペン)(ムード:ドキドキ) 【第1章 大友青】  私のスマートフォンがぶるぶると震える。  ディスプレイにはメッセージの着信を知らせるポップアップが表示されていた。  送ってきた相手は見なくてもわかっていた。  私は溜息をついた。  お願いだから静かにしてほしい。  私は今、大好きなRPGゲームをしている。いくら彼氏だからと言って、私の時間を邪魔しないでほしい。私とクラウドとの時間を邪魔しないでほしい。  スマートフォンが再び震える。気づいてほしい。

ショートショートバトルVol.6〜「スマホのカラ」東軍(円城寺正市、川越宗一、今村昌弘)

(お題:熱中症)(ムード:ドキドキ) 【第1章 円城寺正市】  私は、手の中のスマホをじっと眺める。  SNSのタイムライン。  昨日、デートした田井中くんとのやりとりが残されている。  彼は、私がずっと、ずーーっと片思いをしてきた男の子だ  散々ちゅうちょした末に、ついに昨日、私は彼をデートに誘った。そして、一緒にあべのハルカスに買い物に出かけたのだ。  手を繋いで一緒に買い物した。私は夢見ごこち。彼はどこか上の空。  たぶん緊張していたのだと思う。  彼はずっと顔を

ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」西軍(川越宗一、誉田龍一)

(お題:亀)(ムード:ワクワク) 第1章(川越宗一)  川越宗一は、ニヤニヤと笑っていた。まずその理由を話そう。 「コブラ」という漫画がある。週刊少年ジャンプに連載されていた人気漫画だ。アニメになり、そちらでは「スペースコブラ」といいうタイトルであり、なにか大人の事情があるのだろうなと幼心に思っていた。ガンダムに出て来た「エルメス」なるメカがプラモになった時「ララァ専用モビルアーマー」になったような。   コブラは作品のタイトルであり、ハードボイルドな主人公の名前でも

ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」東軍(最東対地、円城寺正市)

(お題:科学の申し子)(ムード:ワクワク) 第1章(最東対地)  空に人型の大きな影が太陽を遮った。  遠くの山からそれとは別の巨大な影が立ち上がる、顔はイルカ、体はゴリラ、尻尾はワニというデタラメな怪獣が威嚇するように咆哮をあげる。 「ぐばらごごごんばあー!」  おっと、叫び声までデタラメだ。  キュィイーン。。。という空気が張り詰め、収束していく音がする。  初めて聞いた時は超音波かと思った。  一斉に外に飛び出した子供たちの中で、僕だけが耳を塞ぎうずくまってい

ショートショートバトルVol.3〜「夜明けの月に」西軍(木下昌輝、水沢秋生)

(お題:謝罪) 第1章(木下昌輝) 「誠に申し訳ありません」  俺は、月に向かって叫んだ。そして、深々と頭をさげる。  マニュアル通りの斜め四十五度。前髪が夜風にゆれる。すぐそばにあるどぶ川の香りが鼻をつく。そして、心の中で十秒数えてからゆっくりと上体をおこす。深呼吸をひとつして、ゆっくりと家の倉庫から出してきたパイプ製の折りたたみ椅子に座る。  これでいいのだろうか。この謝り方でいいのか。これで許してくれるのか。わからない。もし、許してくれなければどうなるのだろうか。

ショートショートバトルVol.3〜「夜明けの月に」東軍(円城寺正市、延野正行)

(お題:炎) 第1章(円城寺正市)  黄埃万丈、月光を遮り、衆生の喚声、驟雨の水事の如くなり。  耳を劈きし雷鳴の如き響動の中、黒煙は昇り、砂礫は降り落つ。  炎に巻かれ崩落せしは、江戸城本丸近くの田安の御門。その瓦礫の上を踏み越えながら、「見事! 見事!」と宣いながら踏み越えしは異形の若武者なり。  さらしにて顔を覆い、その隙間から覗けし肌は赤黒く腫れ上がりて痛々しい。其の手甲にのみ赤備えの名残を残す真田の残党。信繁の一子、真田幸昌。俗に大助と呼び慣らわす。