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fm GIG主催「ショートショートバトル」作品集

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イベントスペース・パームトーンで開催された「fm GIG ミステリ研究会〜ショートショートバトル」の作品集。 第1回:2019/1/19開催。タイトル「陽だまりの鳥」 第2回:2…
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2020年9月の記事一覧

ショートショートバトルVol.7〜「アタシはバリア」金軍(谷津矢車、今村昌弘、佐久そるん)

タイトル「アタシはバリア」 (お題:アリバイ)(ムード:キュンキュン) 【第1章 谷津矢車】 孵化することのない夢を抱えたまま、麻衣の一日は終わりを告げた。 「ぜーんぶ、終わっちゃった……」  誰もいない公園で、近くのコンビニで買った缶コーヒーを口につけた。ひどく熱い。暗い空を見上げたその時、冷たい風が麻衣のベージュのコートを揺らし、体の熱を奪っていった。  指先がひりひりする。火傷したようだ。息を吹きかけながら、屈辱のオーディションの様子がフラッシュバックした。

ショートショートバトルVol.7〜「アタシはバリア」土軍(田井ノエル、川越宗一、尼野ゆたか)

タイトル「アタシはバリア」 (お題:住吉大社)(ムード:キュンキュン) 【第1章 田井ノエル】 「うちら、住吉大社で結婚式挙げるんや」  少女はそう言いながら、桜色の服を揺らした。  風に広がった裾と、両手を広げた彼女の姿があまりにまぶしくて。そして、彼女が発した内容に呆気にとられ、ぼうっと口を開いたまま僕は立ち尽くしてしまう。  少女――サクラは僕に背を向けながら、ふふっと笑った気がした。一段高くなった縁石から飛びおりると、やはり桜色の裾がぴょんと揺れる。 「

ショートショートバトルVol.7〜「アタシはバリア」木軍(木下昌輝、大山誠一郎、延野正行)

タイトル「アタシはバリア」 (お題:ディスコ)(ムード:キュンキュン) 【第1章 木下昌輝】 京都マハラジャ、ディスコというよりも廃墟のようになった建物の中で斎藤は扇を手に踊っていた。建物の隙間から漏れる雨を全身に浴びつつ、目から滂沱の涙を流しつつ必死に踊っていた。 「馬鹿め」 京都マハラジャの陰から、アタシは吐き捨てた。 「あの斎藤はダメだな。天界の雫がなんのことかわかっていない」 アタシの背後でいったのは、斉藤だ。一斉のセイの斉の字を使った斉藤だ。 今、マ

ショートショートバトルVol.7〜「天界の雫」水軍(我孫子武丸、稲羽白菟、円城寺正市)

タイトル「天界の雫」 (お題:ときめき)(ムード:ドキドキ) 【第1章 我孫子武丸】  美月ちゃんが学校を休んだ。なんだか病気らしいけれど、詳しいことは先生も知らないようだった。  翔は心配で心配でたまらなかった。何しろ今は怖い病気が流行っているからだ。  美月ちゃんの家は同じマンションなので昔から仲が良く家族ぐるみのつきあいだ。もしかしたらお母さんに聞けばあの病気なのか違うのか、知っているかもしれない。もしかしたら転んで怪我をしたとかそれだけのことかもしれない。  で

ショートショートバトルVol.7〜「天界の雫」火軍(山本巧次、水沢秋生、緑川聖司)

タイトル「天界の雫」 (お題:ときめき)(ムード:ドキドキ) 【第1章 山本巧次】 薄暗い空から、雨がとめどなく落ちてくる。 傘から溢れた雨水に肩を濡らしながら、斎藤はその建物の前に立った。 消えて、半ば壊れかけているネオンの文字が、食い込むように斎藤の目に入る。 「京都マハラジャ」。斎藤は首を振り、ネオンから目を落としてドアに向けた。ゆっくり、押し開ける。 中は、当然のように静まり返っていた。斎藤は左右に顔を振る。暗いだけで、何も見えない。埃っぽい空気が、鼻を