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fm GIG主催「ショートショートバトル」作品集

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イベントスペース・パームトーンで開催された「fm GIG ミステリ研究会〜ショートショートバトル」の作品集。 第1回:2019/1/19開催。タイトル「陽だまりの鳥」 第2回:2…
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2019年7月の記事一覧

ショートショートバトルVol.3〜「夜明けの月に」西軍(木下昌輝、水沢秋生)

(お題:謝罪) 第1章(木下昌輝) 「誠に申し訳ありません」  俺は、月に向かって叫んだ。そして、深々と頭をさげる。  マニュアル通りの斜め四十五度。前髪が夜風にゆれる。すぐそばにあるどぶ川の香りが鼻をつく。そして、心の中で十秒数えてからゆっくりと上体をおこす。深呼吸をひとつして、ゆっくりと家の倉庫から出してきたパイプ製の折りたたみ椅子に座る。  これでいいのだろうか。この謝り方でいいのか。これで許してくれるのか。わからない。もし、許してくれなければどうなるのだろうか。

ショートショートバトルVol.3〜「夜明けの月に」東軍(円城寺正市、延野正行)

(お題:炎) 第1章(円城寺正市)  黄埃万丈、月光を遮り、衆生の喚声、驟雨の水事の如くなり。  耳を劈きし雷鳴の如き響動の中、黒煙は昇り、砂礫は降り落つ。  炎に巻かれ崩落せしは、江戸城本丸近くの田安の御門。その瓦礫の上を踏み越えながら、「見事! 見事!」と宣いながら踏み越えしは異形の若武者なり。  さらしにて顔を覆い、その隙間から覗けし肌は赤黒く腫れ上がりて痛々しい。其の手甲にのみ赤備えの名残を残す真田の残党。信繁の一子、真田幸昌。俗に大助と呼び慣らわす。