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緩和ケアとは?

《一般の方向け》《医療関係者向け》

● 定義について
 これからこのnoteで扱っていく話題は緩和ケアにまつわることですから、「緩和ケアとは?」という主題は避けて通れません。まずは、メインテーマの定義について触れるというのは常道であり、各論の前に話しておくべきと考えるのが一般的です。
 とは言え、「緩和ケア」の定義を知らないと、それに関連するものを読んでも理解できない、とか、それにまつわることを考えても意味がない、とか、実生活でそれに携わることはできない、とか、そういう訳ではありません。
 定義づけの役割は、現場や社会で既に起きている動きや事がらを整理することだとわたしは考えます。人間の営みの中でもやもやと立ち上がっている曖昧な実態に、ある種の括りをつけるのが定義です。

★ つまり、定義が先にあるのではなく、現実が先にある。★

 純真な眼で現実を的確につかんでいれば、定義はかえって邪魔になることもあります。また、いったん定義をしてしまうとその枠にとらわれて、思考や発想が羽ばたかなくなってしまうこともあるので、注意が必要です。定義文にこう書かれているから、緩和ケアはこうあるべきだ、とか、これは緩和ケアではない、とか、自分たちのケアはこうしなければならない、など、まず定義ありきで考えを進める、あるいは、定義を指針として行動する、ということは避けた方がよい、というのがわたしの考えです。老婆心かもしれませんが、そのことを忘れずに、緩和ケアの定義をとらえてほしいと思います。

● 緩和ケアの歴史と、その広がり方
 緩和ケアの定義を引用する前に、もうひとつ書いておきたいことがあります。それは、

★ 緩和ケアの定義は、年表と一緒に理解する。★

ということです。
 どんな言葉であっても、文字通りの意味をとるだけでは、その包含する内容まで理解することはできません。あるいは、数行で書かれた定義文を読んだ結果、かえって本態がわからなくなるということもあります。特に、専門的な要素を含んだ言葉は、その傾向が強いものです。「緩和ケア」も、そういう類の言葉です。なぜなら、言葉にも、人と同じで、生き抜いてきた歴史があるからです。言葉の真意を知るためには、長い年月にわたって背負ってきたものを知ることが欠かせません。
 そこで、緩和ケアに関する年表を見てみます。

1967年:イギリス・ロンドンで聖クリストファー・ホスピス開院

1975年: カナダ・モントリオールのロイヤル・ビクトリア病院に緩和ケア病棟開設

1977年:日本死の臨床研究会が発足

1981年:聖隷三方ヶ原病院聖隷ホスピス(院内独立型)

1984年:淀川キリスト教病院ホスピス(院内病棟型)

1990年:緩和ケア病棟施設基準制定、緩和ケア病棟入院料導入

2002年:緩和ケアチームによる診療の加算(緩和ケア診療)が新設

2008年:緩和ケア病棟の対象患者を終末期の患者に限定せず、すべての悪性腫瘍、後天性免疫不全症候群の患者に拡大。併せて、在宅療養中の患者を診ている医療機関に対する後方支援などの要件が加わる。

2012年:外来緩和ケア管理料(緩和ケアチームによる外来診療に対する加算)新設

 1967年は、シシリー・ソンダースが現代ホスピスを建てた記念すべき年です。それまでの医療では関心をあまり向けられなかった終末期のがん患者に光をあてたのがこの時期のホスピスであり、そのキーパーソンがシシリー・ソンダースです。彼女がいなければ、今、世界中で行われている緩和ケアは存在しません。
 1975年には、シシリー・ソンダースの元で学んだバルフォア・マウントが、病院内にホスピスケアを提供する病棟を作り、その新しいケアの場を緩和ケア病棟と命名しました。
 1980年代は日本の緩和ケアの黎明期であり、聖隷三方ヶ原病院と淀川キリスト教病院に緩和ケア病棟が作られます。1990年代以降、日本では病院内に併設した病棟を中心に緩和ケアが普及していくことになります。2000年代に入り、緩和ケア病棟中心だった活動の場は一般病棟へ、さらには外来、地域へと広がります。その際に、大切な役割を果たしたのが、緩和ケアチームです。
 このように普及した理由の根底には、緩和ケアが、文字通りですが、キュアではなくケアを指向していることがあると思います。人が生きるのを支援するという医療の性質上、キュアを目指すだけでは埋められない隙間みたいなものが、現場のあちらこちらにあるのです。
 広がりをみせたのは、活動の場だけではありません。対象時期は、がん患者の終末期から病期全般に変わりました。また、患者のみならず、その家族も対象にするのは当たり前になっています。最近の日本緩和医療学会の学術大会では、がんに留まらず、難治性疾患全般が話題として取り上げられることも増えています。
 1980年代から現在に至るまでの緩和ケアの広がりをまとめると次の通りです。

緩和ケアの広がり


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