見出し画像

※R18注意【有料記事】Die Reise geht weiter.【「堕ちた神父と血の接吻」番外編】


※「堕ちた神父と血の接吻」の後日譚です。念の為ネタバレに気を付けてください。
※こちら、三部作の一話目になります。


 それは、廃坑内でヴィルと暮らし始めてから、数ヶ月が経った頃。
 私は片腕でシーツを握り締め、身体の底から湧き上がる渇きに耐えていた。

「ぁ……あ、……っ、く……ぅ、うう……」

 血が欲しい。血が欲しい。血が欲しい。血が欲しい……

 ここまで激しい吸血衝動は久しぶりだった。本能が糧を求め、苦痛が全身を這い回る。
 ……ヴィルはエルンストの手伝いに出ている。「何かありゃ、すぐに呼びに来ていいんすよ」とは言われているが……

「ぐ……ぅ、ううう……っ」

 シーツを握り締めていた手を、ロザリオに伸ばす。
 吸血衝動と呼べば深刻な響きだが、言ってしまえば空腹と似たようなものだ。
 その程度のことで、呼びつけるわけにもいくまい。

 エルンスト宅……つまりは私の実家と、この廃坑の距離はそう遠くはない。
 普段であれば、ヴィルは休憩時間のたびに帰って来ては私にしつこく「何もなかった?」「体の調子どう?」などと聞いて再び仕事に戻っていく。
 この程度のこと、耐えていればいい。耐えていれば、いずれヴィルは帰ってくる。

「が……っ、ぅぐ、ぁあ、あぁあぁ……!」

 しかし、その日に限って、ヴィルはなかなか帰って来なかった。
 飢えているから長く感じるのか、本当に時間も経っているのか、自らの感覚が何一つ宛にならない。

「はぁ……っ、は……ぁ……っ、ぁ、ぐ……ぅ、あぁぁぁっ」

 肉体が本能に従い、ベッドから降りて地上を目指し始める。
 ダメだ。誰かを傷つけてはならない。どれほど飢えていたとしても、ヒトを害するわけにはいかない。

 ……ああ、そうだ。祖父は動物の血をよく飲んでいた。
 糧とするには養分が足りないとはいえ、気休めにはなるはずだ。

 幸い、ネズミやコウモリといった類の獣であれば、少し探索すれば見つかるだろう。
 逸る感情をどうにか抑え付け、開拓前の洞穴へと向かった。


 ***


 どうにか、酷い飢えを凌ぐことはできた。
 再び寝台に身を横たえ、渇きが落ち着くのを待つ。

「……っ、う、んん……っ」

 ……しかし、どうしたものか。
「そちら」から与えられることも多かったからか、吸血衝動と連動するように……その、何と言うのか……食欲の裏に、また別の欲求が潜んでいるのに気が付いた。

ここから先は

2,510字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?