見出し画像

ダンジョンレシピ~Dragon#227より~

「ダンジョンとは、部屋とモンスターとトラップと宝箱をゲーム展開的に配置すればいいってもんじゃない!」というのがこの記事(The Secrets of Successful Dungeon Building)です。

スクリーンショット 2021-06-26 16.23.45

ダンジョンが生まれてくる歴史と必然性に思いを馳せながら、製作の過程を追っていきましょう。 

ダンジョンが作られた目的を決めよう

「建物は意味もなくそこに建っているわけではない。必ず、何らかの理由があってそこに建設されたのだ。」
まず、これから作ろうとしているダンジョンが何故あるのかを考えましょう。砦でしたら街道沿いの国境付近に建てられますし、ドルイドの寺院は森の中に建てられることでしょう。冒険者の侵入を前提に作られたわけではないのですから、本来の目的にふさわしい立地条件を考えてみましょう。

ダンジョンを作った人を決めよう

いろんなダンジョンが考えられますね。
・魔法使いが研究所として建てた塔?
・気紛れな貴族が建てた別荘にドラゴンが住み着いた?
・光の神の廃教会にゴブリンが住み着いた?
ここで考えるべきは「ダンジョン製作者の意図」です。上の例で言えば「魔法使い」「気紛れな貴族」「光の神の神官」を言います。嫌われ者の魔法使いの塔がひねくれた構造をとっているなら納得がいきますが、光の神の教会が地下に、それもトラップだらけの迷宮を作るはずもありません。まず製作者を決定し、これからは彼の目線で考えていくことにしましょう。

今後、例として光の神の廃教会を取り上げていきます。

例:戦争の最中にある村が焼き討ちにあい、村人も神官も逃げ出していた。やがて戦争も終わり、復旧作業にかかろうとしたところ、教会の建物の中にゴブリンの群れが住み着いていることがわかった。冒険者たちの目的はゴブリンを追い払い、復旧作業の安全を確保することである。
製作者=光の神の神官+村の大工
意図=村にある教会としての機能:礼拝堂など

ダンジョンにあるものを決めよう

ダンジョンの中にどんな部屋・物があるかを決定します。ここで注意するのは「どんなものでもただではない」ということです。古代の王の墓に意味もなく巨大なだけの広間をつくるでしょうか?「何もない空き部屋」というのは本来存在しないはずのものです。あなたの家に何も置かない、何の用途にも使わない部屋がありますか?使わない部屋は物置にしたりしますよね?ダンジョンで「何もない部屋だ」っていうのも本来奇妙な話なんです。製作者としてはそんな部屋作ってたらコストがかさむだけですし。全ての部屋もそれぞれの役割を持っているはずなので、そこまで踏み込んで部屋の配置を決定してください。

例:教会は大きな入り口を入るとすぐに大きな礼拝堂に出る。脇の部屋には旅人の臨時の宿や、病人をあずかる小部屋が並んでいる。それ以外には神官が暮らす部屋と倉庫があるくらい。

ダンジョンにある重要ものを決めよう

そのダンジョンの存在理由ともいえる部屋があります。そこをまず決めてしまうと、後が楽になります。魔法使いの塔では「魔法の研究室・実験室」になりますし、古代の王の墓では「遺体・副葬品の安置所」になります。また、この部屋をどこに配置するかも重要な課題です。礼拝堂のようなたくさんの人が頻繁に利用する施設を奥に配置したりしませんし、逆に王の宝は墓深く、盗掘に遭わないような場所にするでしょう。常に目的を意識してダンジョンの部屋割りを決めてください。

ビジュアル面を考えてみよう

今現在、そのダンジョンがどのような状況にあるかを想定し、雰囲気の出る描写を考えましょう。100年前の王の墓に入れば、かび臭いにおいがしているかもしれません。魔法の力が強く、100年前の状況そのままのダンジョンかもしれません。人が寄り付かなければ辺りは動物の巣になっていたり、草木が生い茂っているはずでしょう。この辺りの小道具もうまく使ってシナリオに雰囲気を出すようにしましょう。

例:焼き討ちにあったものの、教会自体は作りがしっかりしていた為、崩れている箇所は見当たらない。しかし、ゴブリンたちが住み着いたためか、あたりにはところ構わず残飯などのゴミが散らかしてある。部屋の中では元・礼拝堂にゴブリンたちが集まって騒いでいる。倉庫にしまってあったワインでも飲んでいるのか、陽気なだみ声が聞こえてきた。 

トラップを設置する

ダンジョンの冒険ではトラップとは「冒険者がこえるべきハードル」のように扱われています。しかし、実際にトラップを仕掛ける側にたって考えてみると「その場所に近づいて欲しくないからトラップを仕掛ける」はずです。むやみやたらとトラップを仕掛けるなんて狂気の沙汰です。トラップだってただで仕掛けられるわけではないのですから。よって、トラップを仕掛けるのにふさわしい場所は獲られてはならないものがある場所(宝物庫など)です。宝物庫の前の扉や廊下にはトラップはつき物でしょう。侵入者の存在を想定しなければならない場所に設置しなくてはなりません。台所の鍋ややかんにトラップを仕掛けても無駄でしょう。人通りの少ない又は無人となる場所など、人がよくいる場所にはトラップは仕掛けません。警備兵が詰めているところにトラップを仕掛けても事故がおきるだけです。階段にトラップがある場合もありますが、それも「宝物庫に続く」階段に限るわけで、日常的に使う階段に滑り台の罠をつけても怪我人が増えるだけです。逆にいえば「トラップがある」ということは「ダンジョンの主が近づいて欲しくない場所に来ている」ということなのです。「トラップ」も使いようでダンジョンの物語のキーワードになり得ます。一歩間違えばただの風景になってしまいますので、注意してつかいましょう。

スクリーンショット 2021-06-26 16.24.03

例:賢しいゴブリンが鳴子を仕掛けていた。人間たちよりも、野犬などを警戒して教会の周りに張ってあったようだ。教会内部はトラップは存在しないはず。本来罠など設置されていないし、ゴブリンたちも人間が来るとわかっていながら夜な夜な宴会を繰り広げたりはしないだろう。 

描いてみよう

ここまで決まったら一旦マップを描いてみましょう。まず、ダンジョン製作者になった気持ちで作りましょう。(本来の用途で)そしてその後変化があったのなら、それにふさわしいアレンジを加えましょう。

例:焼き討ちにあったときに、ステンドグラスは割れてしまっている。ゴブリンたちは邪魔になった机などをとっとと薪にして使ってしまったらしい。周囲に焦げた木屑が散らばっている。

モンスターを配置しよう

いよいよダンジョンシナリオの華の一つ、モンスターを配置します。もちろん、モンスターがそこにいるのにも理由があるはずです。ここではモンスターを3種類に分類して解説します。

オリジナル・モンスター
ダンジョンを作ったときから存在するモンスターです。宝物庫の番人のゴーレムや、死せる王を守るスケルトンウォリアーなどです。魔法使いがゴブリンやオーガを操ってダンジョンを作り、そのまま護衛として住まわせているケースもありますね。

アクシデンタル・モンスター
偶然そこに住み着くようになったモンスターです。低級ヒューマノイドや昆虫・動物の類がダンジョン内で繁殖した場合です。例でのゴブリンなどがこれにあたります。また、自然にできた洞窟にモンスターがいる場合はこのタイプになるでしょう。こういったモンスターもただ単なるワンダリングモンスターで終わらせるのではなく、
「このダンジョンにはこの昆虫が繁殖しやすい環境になっているのだろう」
「魔法で保護された迷宮のはずなのに、動物がいるということは、どこかで結界が破られているのではないか?」などと、物語のヒントを与えることもできるでしょう。そこに来るきっかけは偶然でも、住み着くのは必然です。理由をしっかり考えて配置しましょう。

意図的に住み着くモンスター
そのダンジョンに自分の意思で赴き、住み着くようになったモンスターです。ヴァンパイアなどが良い例でして、彼らは自分の棺桶を置くスペースがあり、且つ冒険者や神官に簡単に侵入されない場所を求めています。そのため、巨大昆虫や動物が住み着いている廃墟などを探してさまよっています。また、スライムやミミックは冒険者がやってきそうな場所を目指して移動しています。彼らを使う場合も、そこが住み着くのにふさわしい環境になっている必要があります。

モンスターもただ単純に強さを見て決めるのではなく、きちんと理由付けをして配置するようこころがけましょう。

宝物を配置しよう

ダンジョンに入る理由の一つに、「財宝ゲットだぜ!」があると思います。財宝を隠したとされる場所に探索に行くのはシナリオとして面白いものでしょう。しかし、実際のシナリオになると、「財宝が、モンスターを倒しトラップを回避したご褒美になっている」という事態が発生します。財宝は財宝として存在します。わざわざ来るかもしれない侵入者に対してご褒美を準備するたわけた者などいません。ここでは宝物を2つに分類します。

警備されている宝物
ダンジョンに入る目的のものです。王の墓では副葬品として金銀財宝が眠っているかもしれません。魔法使いの塔では妖しいポーションやスクロールが手に入るでしょう。もちろん、これらを得るには守護するモンスターを退治し、トラップを解除する必要があるでしょう。

強奪するもの
「みぐるみを剥ぐ」という言い方がふさわしいですね。ヒューマノイドだったら錆びたショートソードと銅貨数枚くらいは持っているでしょう。宝物庫の番をする古代の剣士を倒したら、彼が使っていた魔法の剣が手にはいるかもしれません。ここで手に入るものは「必然性があって身に付けているもの」に限定されます。いくら強いブラックベアを退治したからといって、彼から+1の武器がもらえるわけではありません。スライムが魔法のスクロールの入った宝箱かかえて襲ってくるわけでもありません。「あんなにがんばってモンスターを倒したのだから、何かあげないと」と、考えてしまいがちですが、甘やかしてはいけません。自分がきちんと理由まで考えて配置したモンスターです。引いては負けです。 

まとめ

リアリティのあるダンジョンを作るには「製作者の意図」「今このダンジョン内に住む者の意図」が不可欠です。ダンジョンをハック&スラッシュの場とだけ考えるのではなく、ダンジョン全体を通して一つの物語を作れるように、語れるように設計してみてください。味気なかった部屋の数々が、魅力あふれるダンジョンに生まれ変わることでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?