妊娠中の女流棋士における将棋への影響
2024年8月の女流棋戦
今月20日に清麗位を防衛したばかりで、明日31日からは白玲戦七番勝負に臨む福間香奈女流五冠について、昨日将棋連盟が妊娠(のため白玲戦が椅子対局で着物非着用となること)を発表。また今月は、3月に妊娠を発表していた室谷由紀女流三段が産休に入る直前の倉敷藤花戦挑戦者決定戦トーナメント準決勝で上田初美女流四段に勝利している。冒頭の引用はその上田女流四段の3年前記事より、これらの報にふれて想起したもの。
妊娠中に出場したパラリンピアン
スポーツだと妊娠中の選手がトップレベルの大会に出場することは稀だが、パリパラリンピックにもエントリーされているシッティングバレー女子米国代表のローラ・ウェブスター選手は、2012年のロンドンと2021年の東京出場時に妊娠中だったとのこと。
なおパリパラリンピックのシッティングバレーボール女子米国代表は今日、一次リーグの初戦を迎えるようだ。
妊娠中の将棋への影響
マインドスポーツである将棋では、妊娠中の影響はどうか。上田女流のコラムによると着物での違和感や将棋盤の前で考えるのが辛かったとのこと。
加藤挑戦者を退けた先日の清麗戦では、対局中も終局後の加藤女流の涙を前にしても微塵もスキを見せなかった福間女流五冠であったが、実のところ本来の体調ではなかったのかもしれない。
いずれも個人差があることだが、妊娠初期と安定期でもまた競技(将棋)への影響は違ってくることだろう。上田女流は1人目2人目の安定期の通算成績は14勝1敗だったとのこと。「指し盛り」に陰りなし。上田女流はホルモンが安定していたことを好材料として挙げている。
室谷女流もタイトル戦登場5回の強豪ではあるが、順位戦はC級での対局が続いていた中で、今回の倉敷藤花戦挑戦者決定戦進出(つまり棋戦において3位以上)は近年にない好成績と言える。対局姿勢が苦しいといったことはあるのだろうが、存外にネガティブな影響ばかりでもないのかもしれない。
2021年の上田女流の考察の続き
上田女流は冒頭のコラムの掲載時に、noteでも追記している。こちらの記事では、文春オンラインのコラムでは触れなかった妊娠中の将棋以外のこと、不戦敗についての補足と、もし(男性と同じ一般棋戦に臨む)女流棋士が現れて妊娠したらという考察が述べられている。
(余談)棋士・奨励会を目指す女性、目指さない女性
福間女流五冠に、西山朋佳女流三冠が挑戦する白玲戦七番勝負は明日から。西山女流三冠は9/10からは棋士編入試験にも並行して臨むこととなる。
ここからは妊娠の話題から逸れる。
10台の女性将棋指しには、棋士を目指す人とそうでない人がいる。
上田女流は1988年生まれ(35歳)で、2001年の女流プロ入り。
福間女流は1992年生まれ(32歳)で、2004年の女流プロ入り後、2011年から2018年まで奨励会にも在籍。
西山女流は1995年生まれ(29歳)で、2010年に奨励会入会し、2021年に奨励会を退会して女流プロ入りした。
奨励会に入会していた女性としては、中井広恵と林葉尚子、奨励会三人娘(碓井(千葉)涼子、矢内理絵子、木村(竹部)さゆり、ここまで敬称略)、近年では福間、西山とともに4強と称される加藤桃子女流と伊藤沙恵女流も奨励会経験者である。
一方で上田女流のように奨励会を経ずにタイトル戦で活躍するまで力を伸ばす女流棋士もいる。2017年の上田女流のインタビューにおいて、2013年当時は福間女流(当時の里見香奈女流名人)を強く意識していたと振り返っていている。それが結婚や出産など将棋以外の経験により、それ以前に比べ「重圧のようなものもなく、一歩引いた感じで臨める」とも。ただしこれは専ら出産や育児に依るものとも言えず、どういった道程であれ4年の年月を重ねたことによる成熟と見るべきだろうか。
更に遡り十代の上田女流の将棋への向き合い方については、夫の及川拓馬七段とのインタビューで語られている。
奨励会の年齢制限は、級位者は21歳、段位者は原則26歳。奨励会を経ていてもそうでなくとも、多くの女流棋士にとって指し盛りと大きなライフイベントを迎えるのは、この年齢以降の十年ほどの期間となっている。指し盛りもいよいよ最盛期の感のある福間西山番勝負を楽しみにしたい。
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