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フェスでもらえる!赤ちゃんめがねはどう生まれたの?

赤ちゃんめがね(※商標登録出願中)は、赤ちゃんの視界を疑似体験することができるアイテムです。赤い厚紙でできた3連のフレーム(枝豆みたいなかたちです)に、3か月、6か月、12カ月と、月齢に合わせて違った見え方をするように、異なる枚数のクリアファイルと同じ素材のシートが重ねてはめこまれています。

これまで赤ちゃん研究所が開催してきたワークショップでは、手作りの赤ちゃんめがねを着用して、ママ・パパに赤ちゃんの見え方を体験してもらっていましたが、今回「教えて!赤ちゃんフェスティバル」では、紙でできた赤ちゃんめがねを量産して、来場する方に配布。イベント入口にある「出会いの道」で赤ちゃんの視界を体験し、フェスの導入部分とする予定です。

しかしどうして赤ちゃん研究所はこの不思議なアイテムを配布しようと考えたのでしょうか?枝豆のような独特なフォルムも気になります…。

ピープル赤ちゃん研究所の、まごうことなき代表的なアイテムといえるこの「赤ちゃんめがね」がどのように生まれたのか、製作に関係した人々にお話を伺ってみました!!

ラップぐるぐる巻きで作ったプロトタイプ

まずお話を伺ったのは、赤ちゃん研究所のこいたさんです。

ーー「赤ちゃんめがね」は赤ちゃん研究所にとって、一つのキーアイテムになっていますよね。そもそもこの赤ちゃんめがね、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

こいた:このプロジェクトが今の形に落ち着く前、私とひらいの二人でいろいろと考えていたころのことです。ひらいも含めて若い子たちがうちに遊びにきてくれたんです。

うちの息子はそのころ割と低月齢だったのですが、そのような赤ちゃんに触れる機会というのはなかなかなくて、若い子たちにとっても良い経験になりますし、社員の子供だから自由に触れ合うこともできるよ、ということで。

そのころちょうど私とひらいの興味関心が「赤ちゃんの気持ちになりきる」みたいなところにあって、「赤ちゃんってどんな風に見えているんだろう」と床に転がって、赤ちゃんと同じ目線になって、メリー&ジムというおもちゃを見上げてみたんです。

だけど「赤ちゃんってこんなに見えてるわけないよね」と気づいて。だったら眼鏡にラップをぐるぐる巻いてみようか、とやってみたのがはじまりです。

ただ、ラップのぐるぐる巻きはあまりにもかっこ悪すぎるから、ママ・パパたちにやってもらうのは難しいかな…と思って、何か良い材料がないかなと考え付いたのがクリアファイルでした。

ーーそれで、クリアファイルのレンズが入った3、6、12か月の眼鏡を作ってワークショップで使うようになったんですね。

こいた:はい。赤ちゃんの視力の変化のターニングポイントは3、6か月といわれていて、それを経て1歳ぐらいにはどれだけ見えるようになるんだろうというのを体験していただけるかなと思い、3パターン作りました。

ーークリアファイルとは、随分身近なもので作られたんですね。

こいた:今回赤ちゃんめがねを量産する前に、小児の弱視や斜視の視能矯正・視機能の検査をおこなう「視能訓練士」という資格者の方に相談したのですが、弱視の人の視界を体験するのにクリアファイルを使っているとおっしゃられていて、身近なものでそういった体験をするのはありなんだなと思いました。

ーー赤ちゃんめがねを使うと随分見えなくて驚かれる方が多いですよね。私自身赤ちゃんって、こんなに見えていないの!?と驚きました。

こいた:そうですよね。一般の方に向けたワークショップを始める前、私たちがいろいろ試行錯誤をしているときに、赤ちゃんめがねを社内の人たちにかけてもらったことがありました。

ピープルの社内には、商品がズラッと並んだ商品棚コーナーがありまして、赤ちゃんめがねをかけてみんなでその棚を見てみたら、それなりに目立つんですよ。ピープルの商品は独特な色使いをしているんですが、そこに意味があったんだ、うちの商品ってめっちゃいいね、と新しい気づきにみんなで盛り上がりました(笑)

これはお母さん達にも新しい気づきが生まれるかもね、という話をして、私たちも自信をつけていったという経緯があります。

持ち帰って家でも好奇心のきっかけとして使ってほしい

ーーフェスではその赤ちゃんめがねを配布するんですよね。

こいた:はい。イベントの導入部である「出会いの道」で体験してもらうんですが、フェスのなかだけで終わってしまうのではなくて、日常においてもフェスで感じたことや体験したことを思い出してもらいたいと思っていて、配布することにしました。

赤ちゃんめがねを持って帰っていただいて、おうちや外で「6か月はどういう風に見えているんだっけ?」とか、「すごい泣いてるけど何が見えてるんだろう?」と使っていただくことで、親御さんの好奇心のきっかけになるといいなと思っています。

ーー赤いフレーム、枝豆のような三連の形が印象的です。

こいた:今回、フェスの全体設計をするにあたり、多摩美の菅俊一さんの研究室に伺って、会場で何をどんなふうに体験してもらうのかを一緒に考えていただきました。

(※注:菅俊一さん 多摩美術大学 統合デザイン学科の准教授。「まなざし」「観察の練習」などの著書がある。2014年までピープル株式会社にて乳幼児向け知育玩具の企画開発に携っていた)

そのときに、では会場でどのような動線を通っていただこうか、何を体験してもらおうか、そのときに必要なめがねの形はなんだろう?とその場で紙を切ったり貼ったりしながら菅先生と一緒に作り上げていきました。

そのアイデアをもって、最終的なデザインは鈴木友唯さんにお願いしたという流れです。

(※注:鈴木友唯さん アートディレクター。ピープル赤ちゃん研究所関連のイラストなどをすべて担当。こちらの記事も参照

最終的なモノづくりの工程は、篠原紙工さんにお願いしています。コスト・納期はもちろん、量産しやすいかたちかどうか、赤ちゃんやお母さんにとって使いやすくて、安全性が保てるか、なども配慮したものになっています。

(※注:篠原紙工さん 次項のインタビュー参照)

レンズを三連にして、片目で覗くようにしたのは、もともと手軽に体験してもらうためという意図だったのですが、こちらも視能訓練士さんによると、赤ちゃんは立体的に見る力がないから、片面でのぞくように世界が見えているんじゃないかっておっしゃっていて。

それを体験するにも三連で片目ずつで見ていくという形には意味があったんだと、私たちも驚いています。

ーー(笑)。セレンディピティというか、偶然に乗っかっていく力を、赤ちゃん研究所さんの活動からは感じますね。

こいた:私たち、めがねを本腰入れて作ることになったとき、何につながるかはわからないんですが、「めがねとは」を学ぶために鯖江にまで行ってきたんです。

こいた:鯖江はめがねモチーフのものがいっぱいあって、実際にめがねを作るワークショップにも参加してきました。それもインプットになったかなと思います。

ーー鯖江にまで!情報量が多くて濃すぎです!
本当にたくさんの人が関わって、考え抜いて作られた形なんですね…。

こいた:私たちにお付き合いいただいている方々って、皆さん好奇心をもって協力してくださっているなとすごく感じます。

私たち自身の赤ちゃんに対する好奇心でこの事業が成立しているし、赤ちゃんの好奇心を中心に物事を決めていくので。

ーー赤ちゃん研究所という場自体に、好奇心を湧き立たせる何かがあるんでしょうね。さらに赤ちゃんそのものが好奇心の中心にいる、そんなイメージでしょうか…。

簡単に作れる設計にこそ価値がある。

さて、モノとしての赤ちゃんめがね製作を担当しているのが、先程こいたさんのインタビューにも登場した篠原紙工さんです。

篠原紙工さんは、製本会社でありながら、チャレンジングな製本や、紙モノの製造を行っていて、お名前を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

同社は製本会社でありつつ、その中でも基本的な設計や進行のプランニングに特徴があり、(1)本質を探る、(2)お客様とチームになって働く、(3)チャレンジするという、3つのことを大切にしています。作り手、依頼主双方の思いを大切にしながら、さまざまなクリエイティブに関わっていらっしゃるそう。

その篠原紙工さんは今回「赤ちゃんめがね」にどのように関わっていったのでしょうか。お話を伺ったのは、赤ちゃんめがね担当の吉永久美子さんと岩谷太郎さんです。

岩谷さん(写真左)と吉永さん(写真右)

ーー今回の「赤ちゃんめがね」という、世の中に存在していないモノを作る話を聞いた時、率直にどのように感じられましたか?

吉永:私はこどももいるので、赤ちゃんめがねという名前だけで、とても興味がありました。

赤ちゃんの視界を親御さんが体験するためのものであるとか、フェスがあるとか、赤ちゃん研究所がピープルさんの社内で自主的に立ち上げられたプロジェクトだとかのお話を伺って、そのようなものに関われるということに、まず楽しみを覚えました。

打ち合わせのときに、(ワークショップで使っている)赤ちゃんめがねをためしてみたら、本当に見えなくて(苦笑)。私のこどもは、今は割と大きくなったのですが、小さいときに目をあわせているつもりでいたけれど、あっていなかったんだ!と衝撃を受けましたね。

「これはもっと早くほしかった…!」という感じです。これから親になる方にも、こういうものがあるとより良いなと思うので、出来上がりも楽しみにしています。

ーー赤ちゃんめがねに関する相談をはじめてうけたときは、まだもやっとした状態だったのではないかと思うのですが、モノづくりの側面からはどのように感じられたでしょうか?

岩谷:吉永はグッズの製作が得意分野で、これまでも私と吉永の2人で本以外のものを作る機会が多かったこともあり、シンプルに、楽しい仕事と感じました。

私は実際の製造工程や設計を担当しているのですが、厚紙を2つ折りにしてフィルムを間に挟むというアイデアがはじめにあって、(コストや納期、赤ちゃんが使うものであるなどの)さまざまな条件の中、どれだけスムーズに、きれいに作れるよう設計できるかというところに注力しました。

実は大学時代に文化祭のようなイベントで、厚紙で眼鏡を作ったりもしたこともあり、その時のことが思い起こされたりもしました(笑)。

吉永:厚紙に挟み込まれるクリアファイルのレンズの枚数が、月齢によって違っているので、どうすればぴったり張り付いて、動かないようになるだろうかと岩谷と相談しまして。

つながった紙を4つのじゃばらに折って、レンズの部分を丸と四角で抜き、タック加工と言って、シールみたいな状態の加工をあらかじめしておいて。そこにフィルムを挟んで、張りつける、というような方向性に落ち着きました。それが多分1番スムーズに、綺麗にできるだろうというところで。

四角のところに、四角く切ったクリアファイルを置きます
最後に外形を抜いたら完成となります。

岩谷:以前似たようなものを作ったことはあるんですが、2つ折りにした紙の間に何かをはさむと、中に挟んだものの厚みで、剥がれてしまうという事象が結構あったんです。

紙という薄いものを挟むだけでもそのようになってしまうので、今回のように2つ折りの厚紙にフィルム状のものを複数枚挟んだら間違いなく壊れるということは容易に想像できました。

そこで、厚紙をジャバラ折にすることによって、クリアファイルを挟む部分にマチをつくるという方法を考えたんです。

モノをいろいろ量産する際には、器用な人にしか作れないような設計はなるべくやらないようにしようということを大切にしています。超絶技巧で作りました、みたいなところには意外とこだわりはなくて、いかに簡単にするか、ということの方が結構難しかったりするんです。

手先が器用な人であれば、めがねの形に抜かれた紙を、丸のアールに沿って丁寧に貼り合わせて…という作り方ができますが、コストや納期のことを考えると、誰でもサクサク作れるということが非常に大切になってきます。そういうアイデアにこそ価値があると考えています。

そこで、今回は、ジャバラに折って、ミシン目を入れるというような加工をあらかじめすることで、誰でも製造できるというような設計にしています。

これまで自分たちも、それなりに変わったものを作ってきていますので、その経験が生かせたんじゃないかな、というのがありますね(笑)。

ーー簡単に作れる設計にこそ価値がある。目から鱗です…。
仕上がっためがねを手に取るときに、そんなことにも思いを馳せてみたいと思います。

赤ちゃんという”得体のしれない生き物”とのコミュニケーションツールとして

最後に、こいたさん、吉永さん、岩谷さん、それぞれに、赤ちゃんめがねをどのように活用していただきたいかについて伺いました。

こいた:よくワークショップのなかで、お母さんたちが「え、こんなに見えてないの」っておっしゃるんですよ。

でもそこだけで終わらなくて、「こんなに見えてないのに頑張ってお母さんのこと見てくれてたんだね」とか、「こんなに見えてないのに試行錯誤して世の中を楽しんでるんだ」って受け取り方をしている方がいて、ああ素晴らしいなと思って。

赤ちゃんは見えていないし、大人から見たら不利な部分があると感じるかもしれませんが、その中で赤ちゃんはどう過ごしているか、みたいなところまで想像力をもって赤ちゃんと楽しい時間を過ごしていただけると本当に嬉しいし、そういう姿を見ることに私たち自身もワクワクするなと思います。

吉永:まず赤ちゃんめがねというモノ自体がかわいいので、イベント会場で「きゃーかわいい!」というように楽しんで使っていただけたら嬉しいなと思います。

強度もしっかりしてるものになりそうなので、数年後に3歳、4歳とかになったお子さんと、こんな風に見えてたんだね、みたいなコミュニケーションのツールにもなってくれるといいですね。

岩谷:赤ちゃんめがねは、本当にシンプルに、機能とそこにまつわる発見のためのツールだと思います。赤ちゃんという、得体のしれない相手に近づくツールですよね(笑)。

イベントで使っていただいて、家に持ち帰って、イベントにこられなかったおじいちゃんおばあちゃんにも共有していただくとか、そのような使い方をしてもらえると嬉しく思います。

一粒で二度も三度もうれしい「赤ちゃんめがね」。
「教えて!赤ちゃんフェスティバル」の会場で現物に触れられるのが私も今から楽しみです!


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