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読書感想文【まいにちが嵐のような、でも、どうにかなる日々。 】

読書感想文【まいにちが嵐のような、でも、どうにかなる日々。 きなこ著 KADOKAWA 】

Twitterやnoteを通じて筆者であるきなこさんを知らなかったら、この本と出会うことはなかっただろう。
そういう人は多いのではないだろうか。
私はそんな一人だ。

この本の感想を簡単に纏めるとすれば、「ふふふと笑って、あたたかな気持ちになる」だろうか。

そりゃきなこさんのツイートやnoteを見てきた一ファンとすれば「好き!たまらん!むほっ!」という勢いだけれども、少し冷静になってこの本の感想を書きたいと思った。

あまり多くの本を読んで来なかった私なのでアテにならないかもしれないが、いわゆる疾患や障害のある人(子)の家族が書いたものとしては、この一冊はこれまでにない作品であると感じている。

何が違うか。

それは、この本の帯に書かれている
母が描く「大変だけどふっと力の抜ける日常」
という文言が全てを現していると思う。

一般的に見れば、きなこさんやお子さん(特に先天性心疾患のある娘ちゃん)の日々は「ふっと力の抜ける日常」とは言いがいたい。

小さなときから入院や手術を経験するのは明らかに非日常であるし、例えば在宅酸素も「あー、在宅酸素ね、小さい子ならあるあるだよね」なんてことにはならない。

それでも確かにこの本の中には娘ちゃんやきょうだいさん、きなこさんの日常がある。

非日常と思われる毎日の積み重ねが彼らの日常なのだと、自然に感じさせてくれるのだ。だから「大変だけどふっと力の抜ける日常」なのだ。

この本を手に取る人ときなこさんたちご家族は、確かに違うことはたくさんあるけれど、生活を営んでいるという根本的は部分は同じなのだと感じるだろう。
もちろんしみじみその点を自覚するかは人によるだろうが、この気づきは実はとても大切だと私は考える。
それが他者を知ることだし、今風に言えば多様性というものへの理解に繋がると思う。
…とか、偉そうに言ってみる。


また、疾患や障害のある人(子)の家族を含む当事者たちが執筆したものというのは、少なからず世間や自身の置かれている状況に対する不満…恨み節の一つや二つは出てしまうものだ。
出版物になる文章と比較するのはおこがましいけれど、私のnoteにしても(気をつけてはいても)そういう傾向になりがちだ。
だってその困難や苦労、努力といったものを含む状態を知ってもらいたいから。
そして過去を振り返るときには、その当時の周囲の環境や状況、人間関係に至るまでをも知って欲しくて、何だかこう…重たい文章になっているものも多いように感じる。

ところがこの本は違う。
きなこさんは日々の、娘ちゃんたちの思いも寄らぬ事態に対して戸惑いを口にしてはいても、何かを恨むことはない。
医師や周囲の人に対して思うことだってあるだろうに、最終的に感謝の言葉を述べていて、それって出来そうで出来ないことだと私は思う。

実際、娘ちゃんを取り巻く環境というか、出会いというのはとても恵まれているだろう。
例えば本書で出てくる理学療法士さん。
熱心な理学療法士さんはたくさんいるにせよ、みんながみんなハルタさんのように親身になってくれるわけではない。
(私は娘ちゃんがハルタさんと出会えて良かったねと嬉しくなったし、こうした出会いが今後も続けば良いと願っている。)

こういう一つ一つの出会いの積み重ねが娘ちゃんの今に繋がっているのだろうし、だからこその感謝の気持ちであり言葉なのだろう。でも、それにしてもユーモアいっぱいで、読んでて思わずウフフと笑ってしまうのだ。

本来なら重苦しくなりがちなことなのに、その重さがない。
それこそがきなこさんの素晴らしさだろうし、皆を惹きつけてやまないところだろうと感じている。

もう一つ、この本では娘ちゃんのきょうだいさんについても当たり前に書かれていて、この作品が娘ちゃんの話だけに止まらないところが好きだ。
疾患や障害のある子のきょうだいというものは、どうしても後回しにされがちで。
だからお兄ちゃんお姉ちゃんが書籍という形になっても当たり前に登場していて、勝手ながら安心した。

この本を読んだ人たちの多くがきっと、きなこさんのことを「強い人」「前向きな人」と認識するだろう。
それは確かにそうだと思う。
けれどそれが「そうせざるを得ない」状況であったろうことも心に留めて欲しいなと読みながら感じた。

疾患や障害のある子の親であったり、大きくなれば娘ちゃん本人が
「すごいよね、私が同じ状況なら耐えられない」とかいうことを言われがちだ。
ええそうなの、私だからこうして当たり前に暮らせるのよあなたたちとは違うの、さあひれ伏せ崇めよ讃えよおーほっほ!…なんてことは、ある程度振り切れない限り思えないだろう。

泣けばどうにかなるのなら、こちらもいくらでも泣くのだ。
しかし泣いて解決などしないことを知っている。
泣けば先天性心疾患の場合むしろ呼吸が荒くなって余計にしんどいだけだ。

現状を受け入れて現実を受け止めて、今を乗り切る。
それの繰り返しだ。
そして周囲との関係を考えるとき、しおしおしてばかりだと「あなただけが辛いんじゃないんだから」という雰囲気を感じることもあり、ならばとできるだけ明るく対応する。
明るくしている方が周囲との関係が円滑なことは多いし。
それに辛気臭いより笑っている方が、人生少しは楽しいことが増えそうに私は思う。
強く、前向きであることは処世術とも言える。

もちろん、きなこさんが本当はどんな気持ちでいるかなんて、誰にもわからない。
この文章をきなこさんに読んでもらえたとして「いや何言ってるの」とドン引きされる可能性もある。ちょっと怖い。
ただ、きなこさんの強さや明るさ、前向きさは、元来持っている性格によるものだけではないだろうと思うのだ。


今後、娘ちゃんにどのような出来事が待っているかはわからないが、彼女が少しお姉さんになって、更に大人になって、彼女なりの豊かな人生を歩んでいけますようにと強く思う。
そしてきょうだいさんたちも、それぞれの人生を歩んで欲しいと思う。

そんな子どもさんたちの傍らで、きなこさんは穏やかに微笑んでいると良いな。


そんなこんなで、私の感想はおしまい。

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