見出し画像

石神井と「散歩の達人」

 今月号の「散歩の達人」(交通新聞社)の特集は、「みんなの練馬」だった。首都圏の沿線やエリアに絞って街歩きを指南する雑誌だが、気になった場所だけ買うこともあるだろうし、病院の待合室などにあって、ぱらぱらとめくった方もいるかもしれない。
 今回は「江古田」「練馬」「光が丘」「石神井」「大泉学園」をカバーしている。新宿、渋谷のような繁華街であれば、毎日通ったとしても、一生入ることもない店が大半だろう。石神井ならまずまずのところに収まると思ったが、「ちひろ美術館」や人気店の「辰巳軒」は分かるにせよ、知らない店も多かった。通り過ぎていた場所のいくつかには、これを機会に行ってみよう。掲載された結果、混んで入りづらくなる店も出るだろうから難しい。

「豊田米店」のおにぎり

 散歩コースとしては、石神井池(ボート池)の北側や三宝寺池周辺がまず思い浮かぶ。石神井池の方はジョガーの姿もよく見かける。車も少なく、走りやすい。三宝寺池側は木道が整備されている。木道はとても快適で、他の公園でも採用したらどうか今年の初めころ、地下水の汲み上げ装置が故障したせいで、三宝寺池のあたりは底が見え悲しい風景であった。修理が終わると再び水が満ちて、今は元の姿を取り戻している。
 公園内は緑が多い。起伏もあるので、ちょっとしたハイキング気分が味わえる。紅葉の季節など素晴らしいけれど、一年中、何かしら泳いでいる水鳥の姿を見るのはストレス解消になり、かなりの確率でカワセミに出会えるのは有難い。ちなみにカワセミは急ブレーキをかけるような声で鳴く。

三宝寺池側。しばしばカワセミの姿も

 先日、石神井公園駅前の再開発事業を巡り、東京高裁が東京地裁の3月の決定を取り消し、申し立てを却下した。再開発事業とは、駅南口の土地に高さ100メートルと35メートルのビルを着工する計画で、反対する地権者が土地の明け渡し請求を止めるよう求めていたのだ。
 報道を読む限り、「明け渡し請求の停止が必要なほど、重大な損害は認められない」との判断らしい。今後の展開は予断を許さないものの、都内のあちこちで起こっている「建てたもの勝ち」の傾向にくさびを打つにはいたっていないようだ。
 先の「散歩の達人」では、再開発のあおりで閉店したスーパー(「まなマート」)についても触れられていた。情報誌では異例な主張とも思えたが、「利便性があがっても、ほっとする石神井公園らしさはなくなりませんように!」とも書いている。
 都内各所の巨大工事の現状と比較すれば、駅前に一本の高層ビルを建てるぐらい端数のようなものだろうが、散策の指南書としては嘆息、危惧せざるを得ないのももっともだ。

石神井公園駅南口再開発エリア

「散歩の達人」の表紙では、しばしばアイドルや芸人さんの起用もあるのに、今回は石神井池の風景のみというのは残念だった。練馬区に縁のあるタレントさんもいるだろうに、そこは少し寂しい。
 それと、ふだんは写真撮影禁止の「豊島屋」が取材場所の一つになっている。大正時代に開業された茶店だが、この号を読めば、のんびりとした、タイムスリップしたかのような店の様子が分かると思う。散歩中の休憩所としては、一番かもしれない。
 豊島屋の前は「水辺観察園」が広がっている。昨年「かいぼり」も行ったばかりだ。この場所に大正時代に「府立第四公衆遊泳場」という日本初の100メートルプールが造られた。練習した水泳選手は1932年のロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲ったらしい。プールが閉場すると跡地は一時、釣り堀に。今の形になったのは1989年だが、昔の様子は想像もつかない。細かな歴史を知ることで、散歩は面白くなる。

四月頃の「水辺観察園」、今は草でいっぱい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?