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石神井の「武蔵野うどん」

 久しぶりに「石神井公園ふるさと文化館」内の「むさしの エン座」で食事をした。最後に行ったのは昨年七月、ふるさと文化館で田中小実昌の企画展を見た時以来になる。
 ここは人気のうどん店だが、もともとは近くからお引越しされてきた。今の場所は石神井公園を散策する際にぴったりだし、夏であれば隣のプールに行ってからもよい。休日はやはり込んでいるが、待つようであれば、ふるさと文化館の二階で展示を見て過ごすことも出来る。
 エン座のうどんは美しい。緑の部分練馬大根の葉が練り込まれ、赤い部分はトウガラシを使ったとのことだ。ニンジンの場合もあると聞いた。
 メニューの「糧(かて)うどん」の他に、地元の野菜を使った総菜などが用意されている。もコロナが収束したら、ここで一杯やるつもりだった。うどんであれば、麦酒(ビール)がよいのか。寒かったので日本酒を頂いた。

メニューにある「豆乳ぶっかけうどん」

 関西で働いていた頃、「東京のうどんは不味いね」と言われたことがある。関東出身の私に言われても困るが、各地さまざま特徴があって、好みが出るのは仕方ない。「武蔵野うどん」は、武蔵野台地でとれた小麦粉を使い、一般的にはコシが強い手打ちうどんのことらしい。エン座の壁にも「武蔵野一帯は『うどん処』」との文章がある。関東の郷土食と言えそうだが、このような呼び名があることを最近まで知らなかった。

 下石神井商店街を新青梅街道を越えたあたりまで歩いたところにも、「正太郎うどん」という、うどん店がある。最寄りは西武新宿線の上井草駅。道路の先にポツンとあって、周りは住宅街だ。
 決して交通の便はよくないのに、その正太郎うどんは、東京の「武蔵野うどん」の人気店としてネットで取り上げられている。店の前を通ると、たいてい誰かカウンターに座っていて、SNSのお陰ばかりではないにしても、近隣以外からも訪れているのではないか。
 大皿に盛られた正太郎のうどんは太くてコシが強い。「かたい」と言った方がいいかもしれない。それを豚肉の入った熱いつけ汁でいただく。「並」で450gという分量には驚くけれど、隣で大盛700gを食べている人も見た。かたければ腹にたまりそうだが、実際は逆のようで飽きがこない。これが武蔵野うどんの醍醐味なのだろう。

「並」でのこの迫力

 正太郎うどんの並びには、以前、駄菓子屋さんがあった。小学校が近く、子どもが集まれる場所が無くなったことは残念だ。
 これもうどんとは何の関係もないけれど、近くには「ちひろ美術館」があるので、上井草駅で降りたら、ぜひ訪ねて欲しい。

 石神井ではないが、西武池袋線の東村山に「こせがわ」という店がある。亡くなった志村けんさんが通ったというどんのお店だ。駅からは距離があって、かなり道に迷った。行ったのは一昨年の夏のことで、最近の様子は分からない。
 信州に行くと美味しいそばに出会う機会が多いが、遠からぬところに、やはりそば畑がある。こんなところに店はないだろうと思うと、車でやってきた客が並んでいる。今関東にどれだけ麦畑が残っているか分からないが、本来は「地産地消」的に食べられてきた料理にちがいない。店によって個性が出る所以なのだろう。

「こせがわ」のうどん


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