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石神井「照姫まつり」と再開発

 今年も石神井公園周辺では「照姫まつり」が開催された。室町時代の石神井城主・豊島康経と娘の照姫の伝説にちなんだ行事である。一番の見せ場は時代装束と甲冑を身にまとった照姫行列だが、太田道灌に攻められて石神井城が落城した際、康経と照姫が三宝寺池に入水したという逸話は近代のフィクションとのことだ。始まりは1988年で、祭りとしての歴史もまだ浅い。
 石神井公園内では池の周囲の遊歩道沿いに、二人を祀る「殿塚」「姫塚」が築かれている。こちらは祭りの賑々しさとは一線を隔し、見逃しがちだ。辺りはひっそりとして、私もこれまで通り過ぎていた。

 照姫まつりが、毎年四月の第四日曜日に行われるのは変わりないが、昨年との大きな違いは、石神井公園駅南側の景観の変化だ。ここには高さ100メートルのタワーマンションと中層ビルの二棟が建ち、間に幹線道路を通すらしい。
 パン店「サンメリー」と「星乃珈琲」があった付近は年末頃から一斉に閉店した。ここには再開発や高層ビルの建設に反対するのぼりやポスターが見られたが、現在、現場は仮囲いされ、中の様子はよく分からない。地元の人も、祭りのために初めて石神井で降りた人の目にも、そばを通って物騒な感じを覚えたのではないか。
 長年地元で親しまれてきた和菓子処「新盛堂」や「丸石化粧品」などは、現在、仮設店舗で並んで営業をされている。去年の写真を振り返ると、最近まであった街並みが写り込んでいて、複雑な気持ちになってしまう。

覆われた再開発エリア

 今年三月、東京地裁は一部地権者の申し立てをもとに、練馬区に対し、土地の受け渡しを一時的に停止する決定を下した。「仮処分決定書」なるものを読んでも素人ではぼんやりとしか分からないが、報道によれば、「高さ制限の緩和」と景観への影響が争点のようである。いずれも地域での従来からの取り決めがあり、それを反故するかのような練馬区の姿勢が、「強引過ぎる。待った!」ということなのだろう。
 石神井のみならず、各地で行われている高層ビルありきの再開発の進め方に一石を投じられるのか。五月に出される一審判決に注目したい。

新盛堂の「照姫饅頭」

 照姫まつりは「小雨決行」の決まりがあるが、照姫行列は時代装束をまとうだけに、当日の天気がポイントとなる。週間予報ではずっと雨マークがついていて、キャストの方は気に病んでいただろう。にもかかわらず、その日はおおむね持ちこたえた。
 照姫、豊島康経、奥方の三役は区内在住の方からのオーディションである。今年は石神井池(ボート池)のほとりで見物したが、心持ちほっとした表情にも見え、開催が出来て本当に良かったと思う。華やかな行列が通り過ぎると、それを追う見物客が駅前までの道に広がり、容易に進めないほどだった。

「豊島康経」役

 今年はあっという間に桜が終わり、その後はツツジやフジ、三宝寺池側の「水辺観察園」では、カキツバタの花が咲いた。小雨が降り、湿気を帯びると緑がより瑞々しく見える。
 そんな景色を背景に、ブースや店前の飲食をあてにして、地元以外からもかなりの人が来た。石神井全体で、これほど活気づく日もない。

「奥方」役


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