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「子育ての正解」を類人猿に学んでみる|完結編:子育ての「正解」と「ツラさ」

これまで、「子育ての正解」を類人猿に学んでみるシリーズ(#0,#1,#2,#3,#4)として、人間に近い動物である、チンパンジーなどの類人猿の子育てスタイルの特徴について書いてきました。

今回はシリーズの完結編として、「動物としてのヒトの子育ての特徴」=「子育ての正解」についてと、昨今問題となっている「子育てのツラさ」の原因について書いていきます。

いきなり結論から書きますと、ヒトの子育ての「正解」は

母親ひとりでは無理ゲーなので、父親やおばあちゃんなど、周囲の人の積極的なサポートのもとで子育てする!!

ということ。

類人猿とくらべながら、ヒトの子育ての特徴をみてみると、

授乳は主に母親が担当するが、現代では粉ミルクなどのおかげで父親やその他の人でも代わることができる。

複数の子どもを同時に育てることができる

③両親やきょうだい・親戚など、周りの多くの人が子育てをサポートする

④オトナとしてのふるまいや子育てのしかたは、周囲のオトナやきょうだい・友人などに(現代では本や動画などで)学ぶ

⑤女性は閉経後に数十年生きることも多く、「おばあちゃん」が子育てにとって重要な存在である。

赤ちゃんは母親(オトナ)がずっと抱いていなくても落ち着いていられる

といったところが挙げられます。

どれも類人猿にくらべると、あまりにも独特で特徴的なわけですが、特に注目したいのが①②⑤⑥あたり。

この特徴は、類人猿どころか400種類以上いる「霊長類」(いわゆるサルの仲間+類人猿+ヒト)の中でも、ほぼヒトだけが持っているものです。

言い換えると、これこそが「人間の子育ての特徴」であり、「子育ての正解」や「子育てのツラさ」を考えるうえでの大きな大きなヒントなわけですね。

それでは、詳しく見ていきましょう!


ヒトは「同時に子育てをする動物」だ!


ヒトの子育ての大きな特徴として、「まだ手のかかる子どもを同時に育てる」というものがあります。

他の類人猿は、

「子どもが乳離れして、育児の負担が減るころに生理(妊娠の準備)が再開するので、子育ての時期が重ならない

というのが基本です。

テナガザルでいえば、乳離れが1歳半、妊娠期間が7か月なので、自動的に子どもは2~3歳差。

オランウータンでは、乳離れが7歳、妊娠期間が8か月なので、子どもは8~9歳差くらいになるわけですね。

そもそもヒト以外の動物には「避妊」や「次の子どもは何歳差にしよう!」というような考え方や仕組みがないため、栄養状態や体の機能などに問題がなければ、大体は同じペースで妊娠・出産・子育てを繰り返すことになるんですよね。

つまり、

「子どもの乳離れにかかる年数」+「妊娠期間」=「次の出産までの年数(子どもの年齢差)」

というのが、多くの動物にあてはまる、基本的な子育てのペースなわけです。また、多くの動物にとっては、「乳離れ=手がかからなくなる」なので、乳離れさえしてしまえば、次の子育てに集中できるというわけなんですよね。

対してヒトはというと、

「子どもが乳離れする前から生理が再開することもあるし、『年子』に見られるように短い間隔で出産することが可能なので、子育ての時期が重なる

というのが特徴。もちろん、現代では1歳差で子どもを産む人もいれば、中には20歳差で産む人もいますが、一般的には

子育ての時期が重なりながら、短い期間でまとめて子どもを育てあげる

のがヒトの子育ての大きな特徴だとされています。

「まだ手のかかる子どもを同時に育てる」

というのは、他の動物には見られない変わった特徴なんですね。

ヒトの「手がかからなくなる」を10歳くらいだと考えると、10年に1人しか子どもが産めない・・・というのは、それはそれでなかなか大変ですしね・・・


子どもは何歳差がちょうどいいの問題


さて、次に考えたいのが、「子どもは何歳差がちょうどいいの?」ということ。

年子や2歳差だと一気に子育てが終わるからラク、とか、3歳差だと中学校や高校が被らないからいい、とか、年の差が大きいとお兄ちゃんお姉ちゃんが下の子の面倒を見てくれるからいい、とか、いろいろな考え方があるわけですよね。

もちろん何歳差だろうがメリットやデメリットはあるわけですが、ここでは「動物としてのヒトは、何歳差で子どもを産むものなの?」という切り口から考えてみましょう。

大きなヒントになるのが、「乳離れの年齢」です。

現代の日本では、両親の仕事やそれにともなう保育園への入園などで、1~2歳くらいで乳離れ「させる」ことが多いわけですが、「ヒトという動物」の自然な乳離れの時期って何歳ごろなんだろう、というところを考えてみます。

これにはいろいろな説や考え方があるのですが、日本の縄文時代(つまりヒトが近代的な生活をはじめる前)などの調査から、

もともとヒトは3歳くらいで完全に乳離れする動物

というのが有力とされています。「完全に」ということは、それより前(大体1歳ごろからという研究が多い)から離乳食がはじまるものの、3歳くらいまでは時々おっぱいを飲んでいる、というニュアンスです。

とはいえ、現代の日本では3歳まで授乳する方は多くないでしょうし、なにも「1歳や2歳で乳離れさせちゃダメ!」というわけではありません。

要は「赤ちゃんの成長に必要な栄養をとれるかどうか」が大切なわけなので、きちんと年齢にあわせた離乳食を食べていれば問題はありませんしね。

つまり、

ヒトはもともとは3歳ぐらいで乳離れをする動物だけど、現代では質の高い離乳食を用意しやすいので、1歳で乳離れさせることが可能!

といった感じ!

現代社会にくらすヒト以外の動物では、食べ物をやわらかく煮込んだり、すりつぶしたり、そもそも離乳食にむいている食材を安定して手に入れたりすることができないので、乳離れ時期前の赤ちゃんに栄養をとらせられないんですよね。

なのでおのずと、乳離れまでに時間がかかってしまうんですね。

さてさて、ヒトの乳離れについて分かったところで、本題の「子どもは何歳差がいいの問題」について考えていきましょう。

結論から申し上げますと、

動物としてのヒト基準だと4歳差くらいが無理のないペースと思われるけど、現代社会では何歳差でもOK!ただ、1~3歳差くらいの短い間隔を選ぶなら、特に周囲からの手厚いサポートがあることが前提だよ!

というところでしょう。

「動物としての適切な出産間隔」的に考えれば、

「子どもの乳離れにかかる年数」(3年)+「妊娠期間」(10か月)=「次の出産までの年数(子どもの年齢差)」(4年)

で、「子どもは4歳差」という数字が浮かび上がってくるわけですが、現代の人間社会には、母親の仕事復帰やそれにともなう保育園などへの入園、晩婚化による高齢出産のリスク回避など、

「乳離れを早めにしよう!」「短い間隔で産もう!」

といういくつもの理由や事情があるんですよね。

このあたりの価値観や選択は、もちろん家庭ごとの自由であり権利でもありますので、他者がどうこう言うこと自体ナンセンスだと思います。

ただひとつ気をつけたいのが、

あえて短い間隔にするなら、その分大変なのは事実なので、周囲からの十分なサポートを受けられるかを事前に確認してみてね!

というところです。「周囲からのサポート」については、くわしくは後述します。


「みんなで育てる」のがヒトの子育て


そもそもヒトは、周りからサポートを受けながら「みんなで子育てをする」ように進化してきた動物です。

それを裏付ける大きな特徴が、

女性が閉経後すぐに寿命をむかえない=おばあちゃんが存在する

ということと、

赤ちゃんは母親が24時間抱いていなくても落ち着いていられる

ということの2点。

1つめの「おばあちゃん」についていうと、類人猿のメスは閉経=寿命を迎える時期なので、そもそも類人猿には「おばあちゃん」が存在しないわけです。

(生きている間に自分の子どもが子どもを産む=いわゆる「孫」ができることはありますが、そもそも自分の子どもは妊娠できるくらいの年齢になると群れを離れていますので、「孫育て」をする機会がないということです。)

この「おばあちゃん」が子育てを手伝うことで、ヒトの赤ちゃんは生きのびやすくなっているのだ!おばあちゃんは子育てを手伝う大切な役割を担っているのだ!という説もあって、これは

「おばあちゃん仮説」

と呼ばれています。

大昔から、子育てにはおばあちゃんの協力があったわけですね。

2つめの「赤ちゃんは抱いていなくてもいい」ということについても、類人猿とくらべると、その特徴がよくわかります。

類人猿の赤ちゃんは、24時間何かに(ふつうは母親に)抱き着いていないと落ち着かず、鳴き声をあげながら手足をじたばたさせます。

そもそも、類人猿をふくむ霊長類の赤ちゃんは、よほどのことがないかぎり鳴き声を出すことがありません。逆にいうと、24時間母親に抱き着き、抱かれているのが当たり前なので、母親から一瞬でも離れると泣き叫ぶわけです。

それにくらべてヒトの赤ちゃんは、24時間母親が抱いていないと落ち着かない、ということはなく、ひとりで落ち着いて寝たり、遊んだりすることができます。

(もちろん、それに近いくらいお母さんが抱き続けないと泣いてしまう個性の赤ちゃんもいますし、そんな時期もふつうにあるので、抱いてないと落ち着かないのは異常!というわけではありません。)

また、産まれたばかりの赤ちゃんの一般的な体脂肪率をくらべてみると、

チンパンジー → 4~5%

ヒト → 20%

と、ヒトの赤ちゃんは多くの体脂肪につつまれているのがわかります。

これは、母親に抱かれていなくても、ある程度は体温を保つことができることを示していて、母親に密着していないと体温がどんどん下がっていってしまう類人猿の赤ちゃんとの、大きなちがいです。

これらの「赤ちゃんが母親から離れても(ある程度は)大丈夫」という特徴があることで、母親だけでなく、周囲にいる家族や親せきなどが子育てに手を貸していた、と考えることができるわけですね。

他にもいくつか特徴はあるわけですが、ざっとこれらの特徴からも、「ヒトは母親だけが子育てをする動物ではない」ということが言えるわけですね。

また、前述のとおりヒトは「まだ手のかかる子どもを同時に育てる」のが特徴なわけですが、離乳しても手のかかる子どもを、短い(縄文時代の例から考えられる4歳差でも、類人猿と比べて間隔が短い)間隔で次々に産むのが基本ペースだとすると、とても母親ひとりじゃ育てられるわけがないんですよ。

そんなもろもろの状況を総合すると、ヒトは周りからサポートを受けながら「みんなで子育てをする」ように進化してきた動物だということがわかるんですね。


まとめ|ヒトの子育てはなぜツラいのか


さて、ここまでつらつらと、「動物としてのヒトの子育て」の特徴を書いてきました。軽くおさらいしておくと、

「ヒトはまだ手のかかる子どもを同時に育てる動物」

「動物としての考え方だと、子どもは4歳差くらいが無理のないペース」

「母親だけじゃなく、みんなで子育てする」

の3点がおもなところでしたね。

さて、そこで最後に考えたいのが、「なぜヒトの子育てはツラいのか」という問題。

子育てって楽しいことも幸せな瞬間も確かにあるんですが、なかなかどうしてイライラしてしまったり、余裕がなくなってしまったりと、そのツラさに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。これって私は、

「現代の子育てが、ヒトの『本来の子育てスタイル』からズレているからこそ、ツラいんじゃない?」

と考えています。

現代の日本は核家族化が進んでいるので、おじいちゃんやおばあちゃん、または親戚などから子育てのサポートを受ける機会がとても少なくなっています。

これに加え、父親の育児参加率の低さ(最近ではショッピングモールなどでおんぶひもをつけた若いお父さんを多く目にするようになって、そのたびに「ああ、良いなぁ」とほっこりしていますが)から、子育ての負担の多くは母親にのしかかっています。

こんな状況なのに、ヒトは「まだ手のかかる子どもを同時に育てる」という性質から、短い間隔で2人目、3人目、と、次々に子どもを産むことが「できてしまう」わけです。

それも、いろいろな事情などによって仕方がないものの、比較的負担が少ないと思われる4歳差以上よりも短い間隔で。

つまり、現代の日本では、

周囲のサポートが受けられない状態で、大昔よりも短い間隔で子どもを産んで、ひとりで育てているお母さんも多いのでは?

と考えられます。

この場合、ヒトがもつ「本来の子育てスタイル」から、おおいにズレちゃってるんですよね。そりゃあ子育てが大変なはずです。ツラいはずです。こんなの無理ゲーです無理ゲー。

もちろん、核家族で子育てをすることや、短い間隔で子どもを産むことが「悪」なわけでは断じてありません。(実際わたしも、バリバリの核家族状態で子育ての真っただ中ですし。)

ただ、その状況で子育てをすることは、動物としての限界を超えかねないレベルの負担になりかねないということだけは、知っておいて損はないと思います。

もしも、子育てをする環境や、子どもの年齢差に選択の余地がある場合は、「ヒトという動物」の子育てスタイルを参考にしてみてください。

つまり、

母親ひとりでは無理ゲーなので、父親やおばあちゃんなど、周囲の人の積極的なサポートのもとで子育てする!!

というのが、私の考える「動物としてのヒトの子育ての『正解』」です。

ただ、いろいろな事情や考え方によって、この「動物としての正解」との間にズレが生じるのも仕方がないことです。

それでも、少しでも負担が大きいと感じる場合は、どうしたら父親の育児参加を増やせるか考えてみたり、地域や行政などのサポートを受けてみたりと、できるだけ「みんなで子育てをする」環境に近づくことを目指してみてほしいと思います。


「霊長類に『子育ての正解』を学んでみるシリーズ」はこれで終了です。読みづらいところもあったかと思いますが、ここまで読んでいただけた方がいたら、とてもうれしいです。ありがとうございました。


ここまで読んでもらえたことが、なによりうれしいです!スキをぽちっとしていただくと、30代の男が画面のむこうでニヤニヤします。