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「子育ての正解」を類人猿から学んでみる|チンパンジー編

「『子育ての正解』を類人猿から学んでみる」シリーズ(#0)の第一弾は、チンパンジー編です。

類人猿の(そしてヒトの)子育てスタイルには、それぞれに大きな違いがあります。それは、「家族のかたち」「育児を誰がするか」。

複数のオスとメスがいる、いわば「親戚や知り合いの集まり」の中で子育てをする種もいれば、ほとんど母親が1人で子どもを育てあげる「ワンオペ育児」を行うものもいます。

(先に言っておくと、ヒトのワンオペ育児は無理ゲーの極みです)

それぞれの子育てスタイルを見ていけば、「じゃあ人間の子育てって何が正解?」というのを考えるヒントになります。

それでは、チンパンジーの子育てについて見ていきましょう!

先に結論、というかまとめから書いてしまうと、

チンパンジーの子育ては、

①母親がほぼひとりで、しばらくは24時間胸に抱いて子育てをする

②同時に複数の子育てをせず、手を離れてから次の子を妊娠する

③父親は誰かわからないが、むしろそれが生きのびるヒケツなのでOK

④オトナとしてのふるまいや子育てのしかたは、「親戚や知り合い」に学ぶ

⑤寿命をむかえるギリギリまで、子育てをする

といったところが大きな特徴です。

それでは、くわしく見ていきましょう!


「親戚や知り合いの集まり」型の家族


チンパンジーは「人間にもっとも近い動物」とされることも多い類人猿です。DNAの塩基配列は、1.2%しかかわりません。

哺乳綱から下の分類上は、

霊長ヒトパンチンパンジー()

となります。

テレビなどでは、人間の洋服を着て、まるで人間の子どものような素振りを見せる「天才チンパンジー」が注目を集めることもありますね。

(あれはトレーナーさんが多くの動きを教え込んでいて、チンパンジーはその指示に従っているだけなので、天才でもなんでもありませんが、知能が高い動物であることは間違いありません。)

そんなチンパンジーは、何頭かのオスと何頭かのメスが集まった、数頭~十数頭くらいの群れで生活しています。

チンパンジーの群れの特徴は、「父系社会」であるということ。

オスは基本的に、オトナになっても自分が生まれ育った群れにとどまって暮らしますが、メスは繁殖に適した年齢(8歳くらい)になると、群れを出てほかの群れに仲間入りします。

(ちなみに、日本の動物園でもこの習性を再現するために、メスの子どもは繁殖が可能になるなどの準備が整うと、ほかの動物園に「嫁入り」させることがほとんどです。)

オトナのメスが群れを離れることはあまりないので、人間に当てはめてみると、

男性が代々受け継いてきたお家で、男性たちと何人かのお母さんが一緒にくらしている

といった感じでしょうか。全頭に血縁関係があるとは限らないので、いわゆる「親戚や知り合いの集まり」のような群れであることが多いようです。


チンパンジーの妊娠から子育て


ここからは、いくつかの数値をふまえて、チンパンジーの妊娠から子育てまでの流れや特徴をみていきましょう。

チンパンジーのメスは、8歳~10歳くらいになると妊娠できるようにからだが成熟します。

妊娠期間は230日前後なので、8か月弱といったところ。

子どもは生まれた時から母親のからだに自力でしがみつくこどができ(もちろん母親がお尻などを支えますが)、24時間母親の胸に抱かれてすごします。生後半年くらいになると、たまに母親の胸から離れることもありますが、母親の手の届く範囲にいることがほとんどです。

その後、運動能力が成長するのとともに、少しずつ母親からに抱かれずにすごす時間が増えてきます。ただ、3~4歳くらいまではほぼずっと母親とともに行動し、夜も同じベッド(チンパンジーは木の枝や葉っぱなどでつくった「ベッド」の上で眠ります)ですごします。

また、3~4歳くらいまでは授乳をすることが知られています。5歳になっても授乳するケースも観察されています。

授乳が終わると、母親の生理周期(妊娠の準備)が再開します。チンパンジーに年子や2歳差のきょうだいはなく、

4歳で乳離れ → 生理周期再開 → 交尾 → 8か月妊娠 → 出産

という流れであれば、自然と4~5歳差になります。子育てが終わってすぐに妊娠するとは限らないので、次の妊娠までは5~8年くらい空くことが多いようです。

チンパンジーは(というか多くの霊長類は)、2頭や3頭など複数の子どもを、短い年の差で産んで同時に子育てする、ということはありません。1頭の子育てが終わり、子どもが手を離れてから次の子育てにはいります。

このあたりが、人間の子育てと特に違うところといえるかもしれません。

また、チンパンジーのメスは、何らかの事情がなければ、40歳~50歳くらいで迎える寿命のギリギリまで、子育てをします。言い換えれば、

子どもができなくなる(閉経) = 寿命をむかえるころ

という感じ。

一生のうちに産む子どもは5~6頭ほどとされていますが、子どものうち3割ほどが、5歳以下で亡くなってしまいます。


誰が父親かわからない子どもだらけ?


チンパンジーの子育ての大きな特徴のひとつが、「誰が本当の父親かわからない」ことが多いということ。

人間から見るとなかなか衝撃的な特徴ですが、チンパンジーのメスは、群れの中の複数のオスと交尾するため、どのオスの子どもを妊娠したかがわからないことがよくあります。

この「誰が本当の父親かわからない」というのは、実はチンパンジーの子育てを語る上での大切なポイント。

群れのオスたちは、自分と交尾したメスが出産すると、「自分の子どもかも!」という可能性がある以上、みんなで子どもを大切にします。

大切、といっても、チンパンジーの場合、オスが子どもと積極的にかかわることはあまりありませんが、ほかの群れからの攻撃があった時などは、「何頭かのお父さん」が闘って守ってくれます。

この時、お父さん候補が1頭しかいないと、その他のオスは、「自分の命に危険がおよぶのに本気で」メスや子どもを守ろうとしないかもしれませんね。

それどころか、もしもお父さん候補が1人だと、メスと交尾ができる権利を巡ったオス同士の命がけの闘争や、権利を新たにゲットした若いオスによる「子殺し」がおきやすくなります。

(小さな子どもを殺せば、子育てをしなくなった母親に生理周期がもどるので、早く自分の子どもを妊娠させることができます。実際にチンパンジーにも「子殺し」は確認されていますが、一般的に「子殺し」は、数頭のメスに対して1頭のオスしか交尾をする権利がない群れ構成の動物で発生しやすいとされています。)

メスからすると、誰が父親であれ、自分の遺伝子を受け継ぐ大切な子どもなわけですから、小さな子どもや自分自身を、複数のオスが守ってくれる(攻撃されにくい)ことはとても重要だといえます。

と、いうことで、チンパンジーの場合は、「誰が本当の父親かわからない」というのが、子どもが生き抜くための重要な要素になっているわけです。

人間のように、戸籍をはっきりさせる必要もありませんしね。


子育ては母親。「親戚や知り合い」は学びの対象


チンパンジーの子育て(乳離れまで)は、ほとんどが母親ひとりの手によって行われます。

父親も親戚も、子育てを手伝うことは基本的にありません。どんなに子どもに興味があっていっしょに遊びたくても、母親の許可(子どもが群れのメンバーに近づいていくのを止めない)がないうちは、子どもに触れることもできないのです。

子育ての手伝いどころか、子どもが小さなうちは、母親は自分の子どもと群れのメンバーが近づくのを特に嫌がります。

しかし、3~4歳ごろで乳離れをむかえ、母親による「子育て」が一段落するころには、群れのメンバーと遊んだり、ケンカしたりしながら、オトナとしての振る舞いを少しずつ覚えていくようになります。

(ちなみに、子どもが小さいうちは、父親や他の年上のオスに対して失礼なふるまいをしても許してもらえますが、ある程度成長すると本気で怒られるようになります(笑))

また、「子育てのしかた」を学ぶのもとても大切です。

ここで知っておいてほしいのが、チンパンジーは特に「学習する動物」だということ。

「動物の子育て」というと、母親は「母性本能」ですべての作業をやり遂げるようなイメージで語られることが多い気がするんですが、これは誤り。

特にチンパンジーなどの類人猿では、子育ての様子を間近にみて「学習」することが、子育てをやり遂げるうえではとっても重要です。

しかし、ここまでで書いたように、チンパンジーには年の近いきょうだいがいないことが多く、弟や妹が生まれても、5歳ほどは年が離れています。

また、メスは8歳くらいになると群れを離れるので、自分の母親が子育てをしている様子を見ることができるチャンスは、ほとんど1回しかありません。

ここで素晴らしい教材になってくれるのが、同じ群れの中で子育てをしている「親戚や知り合い」の存在。

若いメスは、群れを出ていくまでの間に、母親だけでなく「親戚や知り合い」の育児から子育てのしかたを学び、自分の子育てに活かします。

(実際、動物園では母親が子どもを育てられないケースが多く発生しますが、その大きな理由とされているのが、群れが小さいことによる「子育てを学習する機会の少なさ」です。これを解消するために、子育てを間近で見せるまで「嫁入り」を遅らせ取り組みも行われています。)

このように、乳離れまでの子育て自体は母親の役割なのですが、「親戚や知り合い」は、たくさんの学びをもたらしてくれる対象として、とても大切な存在といえます。


チンパンジーの子育て|まとめ


ここまでに書いたことをまとめてみます。

チンパンジーの子育ては、

①母親がほぼひとりで、しばらくは24時間胸に抱いて子育てをする

②同時に複数の子育てをせず、手を離れてから次の子を妊娠する

③父親は誰かわからないが、むしろそれが生きのびるヒケツなのでOK

④オトナとしてのふるまいや子育てのしかたは、「親戚や知り合い」に学ぶ

⑤寿命をむかえるギリギリまで、子育てをする

といったところが大きな特徴のようです。

人間とくらべてみると、かなりの部分が違っているように思えますね。

逆にいうと、なんとな~く人間の子育ての特徴が見えてきたのではないでしょうか。これから何種類かの類人猿の子育ての様子を知っていけば、人間の子育ての独特な特徴や、現代社会とのズレがはっきりとわかってくると思います。

それでは、チンパンジー編はこのあたりにして、次回はゴリラに学んでみましょう!それでは!


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