見出し画像

あなたが大人になったのはいつですか?

「人はいつ大人になるのだろう?」

そんな問いから始まる映画を見てきた。とある中学校に実在する35人の14歳の話。全員が主人公で全員が脇役。特定の主人公はいない。劇的なストーリーも、事件やミステリー、アクションもない。ただ、35人の中学生のクラスや個人に焦点を当てただけの作品。見る人、見るタイミング、過ごしてきた過去によって受ける印象は無限にかわる映画。


切り捨てられたことに大切なことがある

普通の映画やありとあらゆる作品は、ストーリーが作られる。主人公が置かれ、起承転結が設計され、人を惹きつけるパッケージが作られる。この映画にはそれがない。ただ、35人のインタビューして話が終わる。それだけの映画。普通の作品ならカットされてしまうような”脇役”が丁寧に描写されることで35人全員が主人公として描かれる。

”このままクラスが変わらないでいてほしい。”
”早く大人になりたい。今の仲間と離れられるから。”
”子どものままでいられるなら、子どものままでいたい。”

人はいつだって多様なのに、ストーリーはわかりやすさのために、そうしたことを切り捨ててしまう。現実にはわかりやすい諸悪の根源もいなければ、単純明快なストーリーもない。街中を歩いていても、SNSで大量に存在するアカウントにも、その人固有の人生や、家族、感情、葛藤、そういったものが無数に存在する。当たり前だけど、そうしたことに命の息遣いがあると感じさせてくれる作品。
社会の問題も、ビジネスにおける顧客の理解も、プライベートの人付き合いも、あらゆることをつい単純化してしまいそうになる。でも、その裏側にはありえないくらい濃密な個人の息遣いがあって、それを電子化したり、アイコン化してしまったり、自分のフィルターから見てしまったりする。でも普段は感じられない、切り捨てられているような存在や人のことを忘れてはいけない。ありのままを忘れてはいけない。


大人と子どもの境目

14歳は、無邪気な子どもの一面と、びっくりするくらいドライな大人の一面を併せ持つ時期。

無駄に男子同士でくっついたり、プロレス技をかけあったり、消しゴムを投げたり、女子からうるさいと嫌悪感を向けられたりする。好きな子との仲を冷やかされたり、バレンタインデーのチョコを素直に手渡せなくて逃げ出したりする。

そんなありのままの感情が溢れ出している反面、ひどく冷めたように自分や周りのことを見てしまっている。

”自分のことは嫌い。面倒な人間だと思っている。ずっと家の中にいたい。”
”人のことは信頼できない。今の仲間と離れられるから早く大人になりたい”
”ほとんど自分を出したことはない。自分を殺したほうが周りが喜んでくれるから。”
”人見知りでずっと喋れなくて、今更キャラを変えられない。子どもの頃からやり直したい。”

小学校低学年の頃は周囲に気を使うこともなく自分のことばかりだったけど、それだと人が離れていってしまった。そんな子どもの頃の純粋性や、無邪気な感情のままではいられなくなるのが、ちょうどこの頃なのかもしれない。

何者にもなれるし、何者にもなれない

14歳は、何者にもなれる気がするし、自分は何者でもないと痛感し始める。

純粋に将来の夢を語る子たちがいる一方で、

”プロのサッカー選手になりたい”
”将来はヒップホップダンサーになりたい”
”宇宙のことを研究したい”

悲しいほどに現実を受け止めている子たちもいる。

”10年後は地元で公務員になりたい”
”ロボットクリエイターになりたいけど今からだともう遅いから無理”
”ほんとは絵が好きだけど周りにはごまかして言っている”

もっと子どもの頃は何でも「すごい、すごい」と言われてきたのに、いつしか「ちゃんと勉強をしなさい」、「それで将来どうするつもりだ」と言われるようになる。勉強や部活で明らかに自分よりもできる人の存在に気づき「自分には才能がない」、「もっとできるやつがいる」と痛感するようになる。

大人になるのが、現実を受け止めることなら、それはひどく悲しいことなのかもしれない。

大人になるって何なんだろう

「人はいつ大人になるのだろう?」

そもそも大人って、どうなったら大人なのだろう?

18歳になったら?
お酒が飲めるようになったら?
一人で生活ができるようになったら?

あるいは、
夢を見ることを諦めたら?
現実や周りがやっていることを素直に受け入れたら?
空気が読めて人に合わせられるようになったら?

考えれば考えるほど、今の社会が持つ大人のイメージは驚くほどつまらない存在なのかもしれない。

むしろ、だからこそ子どもの頃の原体験や幼少期の好きなことや、子どものような感性や自由な発想が、今になって求められているのかもしれない。

大人になりなさい。とか、現実を見ろ。とかそうやって誰かの意見に自分を押し殺して、周囲に溶け込んでしまいそうになる自分と向き合うことが大切なように思う。自分の感覚や感性や、価値観に素直になりながら、社会との調和を図っていくのが、理想的な大人なのかもしれない。

この記事が参加している募集

映画が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?