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新しい住宅地に居るもの【不思議で奇妙な話】

過疎化が進む、とある山間部の村。

若い人たちに住んでもらい、人を増やしたいと考えた行政は、草むらだった空き地を整地、そこに住宅地が出来た。付近の獣道を広げて、県道に整備した。

新しい県道は夜は街灯に照らされ、建てられた住宅には若い夫婦等が住むようになった。家明かりは眩しく、かつての暗く静かな、誰も寄り付かない草むら一帯は、その気配を失ったかのように思えた。



深夜。

新しい県道をバイクで帰宅中の男がいた。男はこの村に、生まれたときから暮らしていた。今までは細く暗い古い県道で通勤していたが、新県道ができたことで、そちらに通勤路を変えてみたのだ。

男が、新しくできた住宅地前に差し掛かった時。

人影が視界に入った。

家の住人が外で煙草でも喫んでいるのかと思いながら、段々と近づき、そして、人影がしっかりと人だと認識できる距離になった。


その瞬間、


... ゾワッ


男の身の毛がよだった。

男は、前だけを見てバイクを走らせ、帰宅した。



人ではあった。

しかし、この世に生きている人間ではない、と体全身が叫んでいた。


男は子どもの頃から視える体質だった。

山間部から学校や職場のある市街地へ出る道にはいくつも隧道があり、その中には”居る”場所があった。

それらは、特にこちら側に何をしてくるでもなく、ただそこに居て、気分のいいものではなかったが、しかし気にする必要もないものだった。男は毎日居る前を通り過ぎて帰路に着いた。それが日常だった。


しかし、あの、新しい住宅地に居るものは、


危  険


男は通勤路を古い県道に戻した。そして、あの住宅地には絶対に近づかないと心に決めた。



それから数十年が経つ。

あの住宅地の家々には人が長く住み続けることがなく、一帯はどんよりと、暗く重い雰囲気を纏っている。