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腕の傷痕【不思議で奇妙な話】

私の左腕、手首から下に約5cmのところに、傷痕がある。

それは腕と同じ方向、つまり縦方向に長さ7~8cmにわたっている。
イメージで言うと、鬼滅の刃の悲鳴嶼行冥さんの額の傷痕によく似ている(あそこまで大きくはないが。)


物心ついたときには、すでに私の腕にあったそれに対して、ふと疑問に思ったのは高校生になってからだった。


いつ、どこで、このような傷痕がつく怪我をしたのだろうか。


それまでは、「怪我をしたから痕が残っているのだ」と勝手に思い込んでいた。痕があるのが当たり前過ぎて、深く考えたことがなかったのだ。

この痕の様子だと本来なら痛い記憶として残りそうなものだ。しかし、物心ついて以降の私の記憶の中には、そういう事件は見当たらない。

ということは、物心つく前の怪我だろうか。それなら両親が覚えているのではないか?

実際、私の顔に残っている水疱瘡の痕は、母がいつのことだったか覚えている。私が登校中に転んでひざを大きく擦りむき、10年以上も痕になったことも覚えている。

同じ痕なのだから、何か、ささいなことでも淡く覚えているのではないか。

そう思い、母に聞いてみた。すると、腕を怪我したことは覚えていないとのことだった。念のため父にも聞いてみたが、同じく覚えていなかった。


妙な気持ちになった。

15年はあるだろう傷痕になるような怪我を、覚えていない。これは、どういうことなのだろうか。


その後しばらくモヤモヤとした時間を過ごした。両親にはたまに、何気なく、本当に覚えていないのか? と聞いてみたが、やはり、そんな怪我の覚えはないと、いつも同じ答えが返ってきた。


ふと、ある考えが浮かんだ。

もしかして、怪我を覚えていないではなく、そんな事件はそもそも起こっていない、だとしたら。


生まれたときには、すでに付いていた? そういうこともあるのだろうか。母の胎内にいた時に、自分の爪で引っ掻いてしまった、とか。


未だに真相はわからない。

傷痕は成人した後に徐々に薄くなり始め、今ではよくよく目を凝らさないと分からない程度にまでになっている。