部室まで

 香代を書きたくて。

 ISFPかINFPだと思うんですがどうだろうか。
 意思が希薄で日和見で、人間関係における承認欲求しか関心がないタイプの人間を描きたかった。


仲瀬香代 : 優柔不断
高野あけみ : モテる
雅 : サバサバ
結城 : かっこいい
藤森万太郎 : でかい
石田 : 小さい

香代、あけみ、歩いている。

あけみ  でね、ちっちゃいとこじゃんとかバカにしてたらさ、
香代   うん
あけみ  もう、凄くいいのよ、そのバンドが。なんていうかこう、
     音の流れにすんなり乗れるっていうか、気持ちよくてさ、
香代   へーいいなぁ、私も聞いてみたい
あけみ  あ、明日の夜に、駅前のライブハウスでやるらしいよ。行く?
香代   あー…明日かぁ
あけみ  あ、予定ある?
香代   んー予定っていうか…部屋掃除したいっていうか…
     洗濯もしたいし…
あけみ  今日やれば?
香代   んー…それは、そうなんだけどねー…

二人、部室の方へ向かう道に差し掛かる。

香代   (部室の方を指し)部室、寄ってく?
あけみ  あーいい、ウザいのいるし。家でやる
香代   あぁ、うん

二人、歩きはじめる。

香代   石田って絶対あけみのこと好きだよね
あけみ  うんわかる
香代   石田はないね
あけみ  ね
香代   あけみが、背が低いのもむしろ魅力的とか言ったからだよ、
     調子乗ったんだよあいつ
あけみ  私、身長は180以上ないとだめ
香代   うん知ってる
あけみ  リップサービスリップサービス
香代   八方美人って言うよねそういうの
あけみ  だねー
香代   モテる女は辛いね?
あけみ  ねー。あ、おっつ

雅、向かいから歩いてくる。

雅    おっす。あれ、今日練習は?
あけみ  ちょいお腹痛いんだよね
雅    マジ、だいじょぶ?
あけみ  だいじょぶだいじょぶ、ちょっと帰って寝るわ
雅    香代も帰るの?
香代   雅は?
雅    あたしは行くけど

雅、背負ったギターケースを軽く示す。

香代   んーじゃあ私も行こっかなー
あけみ  あ、どうする? 明日
香代   んー…えとね、
あけみ  うん?
香代   えと、とりあえずあとでメールするよ
あけみ  わかった。じゃ私帰るね
香代   うん、ばいばーい
雅    明日ねー

あけみ、退場。

雅    お腹痛いって
香代   嘘だよ
雅    あーやっぱ
香代   石田石田
雅    石田ねー。基本的にはいい奴なんだけどねー
香代   ていうかあけみが悪いんだよ。期待持たせるようなこと言うから
雅    あーあの、身長の話?
香代   そう
雅    石田はなー、モテなそうだからなー、
     あけみの気まぐれにふらっとしちゃったんだなー
香代   ずるいよねそういうの
雅    んー、、、まぁそだね
香代   モテるに決まってるじゃんね、そんなこと言ったら
雅    あーまぁ、それだけじゃないと思うけど、まあねぇ
香代   あ、結城くん

結城登場。ギターケースを背負っている。

結城   おっす。あ、今から行くの?
香代   うん。ね(雅を見る)
雅    うん
香代   結城くんは? 行くの?
結城   あうん、俺は今授業終わって。行こうかなって
香代   あ、そうなんだ

三人、歩きはじめる。

結城   あー難しいな、学祭まであと2週間か、、、
雅    なに、結城んとこ、やばいの?
結城   あーちょっとね、アレンジ入れた
雅    この時期にねぇ
結城   バカだねー
香代   でも結城くんうまいから、大丈夫だよね
結城   おーありがとう仲瀬さん
香代   (照れ笑い)
雅    …そういえば結城って、身長何センチ?
結城   え、なんで? 185センチ
雅    でけぇな
結城   うっせ
香代   なんかこう、モデルみたいだよね
雅    いやいや
結城   いやいやってなんだよ
香代   あはは

三人、部室へ向かう道を進む。

結城   あ、そいえば、高野さんは?
香代   あけみは帰ったよ
結城   あ、、、そう
雅    うん
結城   最近、あんまり部室に顔出さないね。他所で練習してんのかな
雅    じゃない
香代   あけみってね、あんまり熱心じゃないもんね
雅    いや、あけみは熱心だよ
結城   うん、だね
香代   あ、いや、熱心なんだけど、なんか最近話してて、
     熱心じゃなくなってきたのかなって、ちょっと思って。
     ちょっとだけね、でも熱心だよねあけみ
結城   うん
雅    今日誰来るって?
結城   吉岡、四方田、モリマン
雅    石田は?
結城   あいつは毎日
雅    おーすげ
万太郎  あれ、おーい

万太郎登場。ガラガラとキャリーを引いている。

万太郎  仲瀬さんじゃん。めずらし
香代   そんなことないよ。藤森くんと会わなかっただけで
万太郎  うわ、ひど
結城   あ、キャリー買ったんだ
万太郎  あーこれ、兄貴がくれた
結城   おーよかったじゃん
万太郎  もう壊さないようにしないと
結城   お前の体格じゃ無理だな
万太郎  おい!

結城と万太郎、肩を並べて歩き出す。
雅と香代が続く。

万太郎  いや、俺もさ、学祭で、弾き納めっていうか、
     叩き納め? だと思ってたわけよ。
     ところが来年もあるっていうね。もう青天の霹靂っていうか
     天変地異っていうか、ね、
結城   俺はある程度予想してたけどね
万太郎  おい!
香代   え、どうしたの? 藤森くんがどうしたの?
万太郎  いや、仲瀬さんにはとても話せない…
雅    留年したんでしょ
万太郎  おい!
香代   え!そうなの
万太郎  あ、まぁ…
雅    あーぁ。逃げてぇなー

雅、空を見上げる。
沈黙。

結城   あー、お前アレだっけ。ケーサツだっけ
雅    そーそ
香代   雅に合ってるよね、ね。うん
万太郎  そうだね仲瀬さん!
結城   そーか?
雅    もうギターとか無理だよねーケーサツだし
結城   いや、別にできるんじゃないか? ケーサツでも
雅    中途半端に触りたくないんだよね
結城   あー…ね
雅    あたしも留年すっかなー(万太郎を見る)
万太郎  え、いや、もうホント! 取り替えっこするとか全然構わない
     ってか寧ろいいっすよ!俺は!
雅    (笑って)うそうそ、嫌だよ取替えっことか
万太郎  おい!

一同笑う。
結城のケータイが鳴る。

結城   あ、はい…え、あ、そうなんですか。はい。あ、大丈夫です。
     すぐ行きます(ケータイを切る)
雅    何?
結城   ちょ、帰るわ
香代   どうしたの? 結城くん
結城   あーいや、なんか、ちょっと大変ぽいから
香代   え、私、なんか手伝おうか?
結城   あーいいよ、大丈夫、ありがと。
     (万太郎に)ごめ、ちょっと行くわ
万太郎  おう
結城   遅くに来れるかもだけど、とりあえずメールするわ
万太郎  わかった
雅    気をつけてね
香代   気をつけてね!
結城   おう、ありがと。(万太郎に)マジごめんな

結城退場。

香代   どうしたんだろ結城くん…。雅知ってるの?
雅    あーまぁ…。ちょ、先行っていい?
香代   え、うん、いいけど…
雅    ごめ、早く練習したくてさ

雅、小走りに退場。

香代   ……藤森くんは知ってるの?
万太郎  へ? え、何を?
香代   結城くんが帰っちゃった理由
万太郎  あー…まぁ知ってるっちゃ知ってるけど…
香代   …言いにくいこと?
万太郎  プライベートだからさ、あいつの
香代   …じゃぁ何で雅は知ってるの?
万太郎  仲いいからじゃないかな
香代   ……ふーん……

香代、下を向いてしばらく考えている。

香代   (自虐的に笑って)なんか、私だけのけ者、みたいな
万太郎  いや、そういうことじゃなくてさ、
香代   じゃぁなんで隠すのかなぁ?
万太郎  それは、ね、あいつのプライベートだからさ…
香代   雅は知ってるのにな…

沈黙。

万太郎  行こっか、仲瀬さん
香代   …うん。ごめんね、藤森くん
万太郎  いやいいっすよ

二人、歩き出す。

香代   ……結城くんって、雅と付き合ってるの?
万太郎  いや、付き合ってないと思うけど
香代   好きな人とかいるのかなぁ…
万太郎  え、仲瀬さん、結城のことが好きとか……とか?
香代   えー違うよ、違うけど、、、あの、、、友達がね、結城くん
     いいなって言ってて、だからね、、、ちょっとね、
     気になったっていうか…そんな感じで、
万太郎  …結城は好きな人いるよ
香代   え! あ、そっか、そうなんだ、、、誰…かな、誰だろ…
万太郎  高野さんじゃないかな
香代   ……あ、……え、、、ホント? それ
万太郎  たぶん
香代   あー…だよね、あけみ可愛いもんね、うん
万太郎  あーでも俺はよくわかんないけど。
     正直俺は、仲瀬さんの方が可愛いと思うし
香代   あ、えと、そっか、、、うん。ありがと
万太郎  (笑って)微妙な返事だな
香代   あ、、、うん、、、微妙
万太郎  おい!
香代   (笑って)ごめん、、、ちょっとトイレ寄ってく
万太郎  あ、待つ?
香代   あ、いいよ、ありがと、ごめんね

万太郎退場。
香代、座りこんで俯いている。
あけみ登場。

あけみ  あれ、香代?
香代   あ、あけみ
あけみ  なになに、どしたのこんなとこで
香代   あ、、、なんでもない(立ち上がる)
あけみ  (部室の方を見て)もう練習してる?
香代   あ、うん、雅はもう行ったよ
あけみ  そっか
香代   …あけみ、行くの?
あけみ  うん、やっぱさ、何があっても練習は練習だしってね、
     ボーカルだって音楽の一部なわけだしね、
香代   じゃぁ、石田は?
あけみ  適当にかわす。それより音楽をがんばろうってね
香代   なんかいきなりだねー
あけみ  まーあのバンドの影響が大きいけどね
香代   あーなんか、言ってたやつ、
あけみ  うん、私もああいうのやりたいし。最後だしさ今年
香代   うん、、、ね

あけみが先に立って歩き出し、香代が続く。
あけみの背中のギターケースに気付く。

香代   あけみ、それ、、、
あけみ  ん? あーこれ? 私じゃなくて結城の
香代   …え、なんで?
あけみ  途中ですれ違ってさ、部室に置いといてくれってさ。
     なんか家が大変とかで、一回帰るんだって
香代   あ、うん、知ってるそれは、うん、へー…

二人、部室に到着する。
あけみ、扉を開ける。

あけみ   (入って)うっわ、相変わらずむっさい。お久しぶりでーす
石田(声)  あ、あけみさん、うわ、久しぶりです!
雅(声)   なに、来たの?
あけみ(声) うわ、むさいと思ったらモリマン!
万太郎(声) おい!

香代、扉の外に立っている。
風が吹く。
香代、小声で呟く。

香代   …………死んじゃえばいいのに……

香代、しばらく佇んでいる。
部室に入る。
幕。


written: 2009.11.2