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創作

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詩、短編
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部室まで

 香代を書きたくて。  ISFPかINFPだと思うんですがどうだろうか。  意思が希薄で日和見で、人間関係における承認欲求しか関心がないタイプの人間を描きたかった。 香代、あけみ、歩いている。 あけみ  でね、ちっちゃいとこじゃんとかバカにしてたらさ、 香代   うん あけみ  もう、凄くいいのよ、そのバンドが。なんていうかこう、      音の流れにすんなり乗れるっていうか、気持ちよくてさ、 香代   へーいいなぁ、私も聞いてみたい あけみ  あ、明日の夜に、駅前のラ

挿入歌

なんだろう 木漏れ日みたいな白が 脳内をマーブル状にして ぱっとはじける感じ なにも残らないのに じわじわ温もり、みたいな そんな白でもう どうしようもない 懐かしいのも 不安なのも いたたまれないのも 寂しいのも 全部自分の所為なのは 知ってる それでも縋るのはきっと 自己満足で醜いし きっと一生手は届かない そんなのわかってる あたしはあたしで あなたはあなたで あの人はあの人 そうやってできてる世界が 繋がらない世界が もう もう 切なくて 切なくて 切なく

おやすみぷんぷん

マスクをして めがねをかけて マフラーをして いつもの電車に乗ります うんと混んでるから 本も読めず ケータイも見れず 音楽はきらいなので しかたなくぼーっと立ってると 一日がはじまってます 東京に来てから そらを、 見なくなりました オリオン座はいつの間にか 西に傾いてます 知らないうちに 地球は確実にまわっていて あたしは老化します もう、ずっと いろんな いろんなことを話してます あたしのこと 思ってること 考えてること でもなにも残らない 誰のなかにも あた

すみれちゃん

 ロビーのすみっこにある、背が高くてやせている観葉植物を、あたしは「すみれちゃん」と名づけていました。  ロビーは広いから、たった一個の植物ぽっちでは、ロビーを通るみんなをいやすことなんてできません。  存在意義があいまいになりがちな「すみれちゃん」でしたが、そんなとき、あたしは「すみれちゃん」に水をあげるのです。  大きな葉っぱに水滴がきらきらすると、「すみれちゃん」は、リゾートホテルの間接照明にライトアップされたような、ちょっと妖艶なたたずまいになるのでした。  水気をふ

願う夢

くらくらするの耳鳴り 今日はとても晴れた日 あたしはどこへ行くの? ゆらゆらするの眩暈 海のいろを見てるの 飛んで消えてみたい 手をのばしてのばしても つかむのは欠片ばかりで ぐちゃり微か音をたてた 踏みつぶしてた小さな鳥 皮膚をちぎって浮かべて 雲にしてみるの ふわり あたしの中のきたないものが 全部なくなりますように ふらふらするの指先 文字をなぞる あいう あたしの言葉はどれ? きらきらするの視界 空のいろを見てたの 飛んで消えてみ

おもいで

ランドリーを くるくるまわる 色をみてた ふくらし粉が ぱふっと散って まっしろな手と手 笑いあう 庭に出る 太陽のにおい きらきらの風 傾けたじょうろが 描いた虹を 閉じこめたくて、 手を伸ばす ぱちりと 消えた めずらしく今日は 貴方がいた とびきりの日曜 written: 2009.1.6

しあわせな朝

いつものコーヒーが 舌を刺す痛み はじけた拍子に こぼれたミルクは白 かなわない夢をみた 焦がしたパンの苦み いつもの朝のにおい 貴方のシャツは白 すべてが流れる方向は いつのまにか決まっていて ただ、 ただ何とはなしに しあわせな貴方の隣にいる かなわない夢をみる 貴方のシャツは白 あの人のシャツは青 この、 透明な空の向こうの色 written: 2009.5.15

high-tec-c

 ハイテックCの0.4ミリ黒。あたしが大好きなペン。こないだ数えたら42本持っていて、よく集めたなぁと一人で感心。インクが残り2センチを切ると、急に出が悪くなる。並べてみたら殆どのインクが残り2センチで、何だか模様みたいで笑えた。  あたしは、味噌汁も少し残す。底に溜まった最後の一口。ちなみに関係ないけど、今まで付き合った人はみんな、味噌汁の最後の一口を残す人だった。ふとそれに気付いて可笑しくて、ひとり笑い。  RPGも、最後までやらない。ダンジョンの中、扉を抜けたらラスボス

ゴーヤチャンプルー

 ぽい、と目の前に投げ出されたゴミに、僕は読んでいた雑誌から顔を上げた。  彼女は、剥き出しの脚をこちらに投げ出したぞんざいな格好で、今日買ってきたらしい漫画本を貪り読んでいる。横にはポップコーンが一袋。指の油を拭ったティッシュを丸めて、僕の横に置かれているゴミ箱に向けて放ったものらしい。入れる意思すら感じられない、見当違いの場所にぽとりと落ちたことにも気付かず、彼女は漫画から顔を上げない。  僕は時計を見た。夜十時を回ろうとしている。夕食が早かったからか、僕は僅かに空腹を覚

茜色ノスタルジー

 透明な空の向こう、高いところで、冷たい風が吹いている。  歩を進めるたびに、かさりかさりと足の下に崩れる枯れ草が心地良い。  遠い山の端には、落ちたばかりの太陽の残滓が、水彩画のような透明感で、見事なグラデーションを描いている。  覆いかかるススキを掻き分けながら、前を揺れる背中に声をかける。 「おい、」 「んー?」  茜が振り向く。細い肩越しに、大きな瞳がこちらを見る。 「まだ?」 「もうちょっと」 「日が暮れるよ」 「わかってる」  小さな掌でススキを掻き分け、かさりか

4メートル35センチ

 男勝りで有名なあたしだが、朝起きたら見知らぬ男があたしのワンルームマンションの玄関先に佇んでいる状況には、さすがに度肝を抜かれた。 「待って。怪しい者じゃありません」  僕はあなたの寿命です、と玄関先に立ったそいつは言った。 「寿命が近づくって言うでしょ」 「言うね」 「僕はそれなんです」 「は?」  よく見れば、男の肌は真っ白で、もやしのように貧相だった。合気道初段のあたしでも勝てそうだと、ちょっと気が大きくなる。  男に近づこうとすると、男は慌てたように振り向いて玄関の