建設業会計まとめ

建設業とは

・1つの案件にかける時間が他業種に比べて長い
・製造業会計(工業簿記)における受注生産(個別原価計算)に似ている
・基本的に請負契約(成果物との交換により対価を得る)
・受注開発のソフトウェアと類似している

建設業会計の基礎勘定科目

資産
完成工事未収入金(売掛金):新収益認識基準では「契約資産」
未成工事支出金(仕掛品):従来の工事完成基準の場合のみ使用(工事進行基準の場合は「完成工事原価」に直接費用計上する)

負債
工事未払金(買掛金)
未成工事受入金(前受金):新収益認識基準では「契約負債」
完成工事保証引当金(引当金)

収益
完成工事高(売上)
完成工事総利益(売上総利益)

費用
完成工事原価(売上原価)

※建設業会計における主な原価は以下であり、「完成工事原価報告書」(「製造原価報告書」のようなもの)に内訳を集計する
 ・材料費
 ・労務費
 ・経費
 ・外注費
※建設業会計において単なる「未払金」は本業以外で発生した金銭債務

仕訳の流れ

※手付金と頭金
・手付金(Deposit):売買契約時に支払うもの(通常、手付金は最終的に頭金に充当するのが慣例)、契約成立を示す証拠金の意味合いであり解約しても返金されない
・頭金(Down Payment):分割払いで最初に支払う額、ローン購入する場合は頭金(手持ちから支払う額)を多くしただけ借入金額を減らすことができる

①工事案件の受注時
(仕訳なし)

②頭金の受領時
 現金預金 / 未成工事受入金(契約負債)

③資材仕入や外注発注時(買掛金の計上)
 材料費・外注費 / 工事未払金(買掛金)

④経費や労務費の支出時(現金の支出)
 経費・労務費 / 現金預金

⑤期末到来時(工事原価を集計)
・工事完成基準の場合(いったん仕掛品として資産計上する)
 未成工事支出金(仕掛品) / 材料費・労務費・経費・外注費
・工事進行基準の場合(直接費用計上する)
 完成工事原価(売上原価) / 材料費・労務費・経費・外注費

⑥工事完成時(まだ引き渡していない=履行義務の未充足な時点)
・工事完成基準の場合(仕掛品から売上原価に振り替える)
 完成工事原価(売上原価) / 未成工事支出金(仕掛品)
 完成工事未収入金(契約資産) / 完成工事高(売上)
・工事進行基準の場合 
 完成工事未収入金(契約資産) / 完成工事高(売上)
※その他、固定資産の減価償却などが必要

⑦発注者からの入金時
 現金預金 / 完成工事未収入金(契約資産)

一般会計との比較

自社用(固定資産)

建物(有形固定資産)
・費用支出時: 建設仮勘定(CIP)/当座預金
・完成時: 建物/建設仮勘定(CIP)
・使用開始後(間接法): 減価償却費/減価償却累計額

ソフトウェア(無形固定資産)
・費用支出時: ソフトウェア仮勘定/当座預金
・完成時: ソフトウェア/ソフトウェア仮勘定
・使用開始後(直接法): 減価償却費/ソフトウェア

販売用(棚卸資産)

製品(製造業)
・費用支出時: 仕掛品/製造原価
・完成時: 製品/仕掛品
・販売時:  売掛金/売上 売上原価/製品

参考:「工事契約基準」による会計処理(上場予定なしの中小企業のみ)

昔は、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準(工事契約基準)」があった

しかし、上場予定なしの中小企業を除いた全ての企業に対して、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準(収益認識基準)」が強制適用された(2021年4月1日以後開始する事業年度から)

そのため、工事契約基準は廃止になった

工事完成基準を採用している場合

○原価相当額の支出時

未成工事支出金 / 現金預金

※製造業会計になぞらえると
未成工事支出金(仕掛品)/現金預金

○期末日:処理なし

○完成時=引渡時

完成工事未収入金 / 完成工事高
完成工事原価 / 未成工事支出金

※商品売買(売上原価対立法)になぞらえると
完成工事未収入金(売掛金)/完成工事高(売上)
完成工事原価(売上原価)/未成工事支出金(仕掛品)


工事進行基準を採用している場合

○原価相当額の支出時

未成工事支出金 / 現金・預金

○期末日:進捗度に応じて収益(完成工事高)を計上

完成工事未収入金 / 完成工事高
完成工事原価 / 未成工事支出金
※未成工事支出金の全額を完成工事原価に振り替える

○完成時=引渡時

完成工事未収入金 / 完成工事高
完成工事原価 / 未成工事支出金

建設業における不適切な会計事例

・工事進行基準と工事完成基準の恣意的な選択
・工事進行基準における工事進行割合の操作
・工事原価の付け替え

新収益認識基準による会計処理

以下の勘定科目で処理することになった
・「契約資産(Contract Asset)」/「顧客との契約から生じた債権」
・「契約負債(Contract Liability)」

工期の長さで適用すべき基準が異なる
・工期が短い場合:「一時点で充足される履行義務として収益認識する方法」(工事契約基準における工事完成基準)を適用する
・工期が長い場合:「一定期間にわたって収益を認識する方法」(工事契約基準における工事進行基準)を適用する

不正関連

・完成工事高の前倒し計上:年度目標を達成するため
・完成工事原価の付け替え:プロジェクトごとの原価率を平準化するため(異常だとモニタリングで指摘を受けてしまう)

典型的な不正経理パターン
①原価付替による利益操作
②架空受注と自己検収による支払代金の横領
③未完了案件の売上高を前倒し計上
④工事進捗率の操作による売上の前倒し計上

監査上のポイント
・業務プロセス上のコントロールの確認
 ・架空受注が成立しない仕組みになっているか
 ・特に営業担当者に対して牽制が効いているか(原価配賦など)
 ・工事原価総額や工事進捗率の見積りにおいて根拠資料を作成しているか
・個別案件の実在性を検証する(システム開発の場合は専門家の関与が必要)
・売上高と売上原価の発生について、予定と実績のギャップが異常でないかを検証する


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