【読了】業種別不正パターンと実務対応(EY)


はじめに

制度監査で要請されている監査手続を網羅するのではなく、不正経理の機会(内部統制の弱点)にフォーカスする

5業種100社の不正事例を分析した結果
(①製造業/②請負業/③卸売業/④小売業/⑤サービス業)

不正発見のアプローチとして、DAによる異常点分析の手法

不正経理は、業種や事業内容によって、パターンがある

不適切会計と不正会計(資産横領/虚偽報告/汚職)

不適切会計(不適正会計)
・財務諸表の虚偽表示(原因が故意か過失かは問わず)

不正会計(不正経理)
・故意に行われた財務諸表の虚偽表示
・Fraud Treeで3区分できる

Fraud Tree は、企業のカネにまつわる不正・不祥事を体系化して、小項目に分類したものである。ハラスメント等の労働上のコンプライアンス違反などは含まないことに注意する必要があろう。網羅的な不祥事体系ではないのである。

①資産横領(Asset Misappropriation):組織の資産を個人目的に流用する
・金銭着服:架空経費申請、金銭詐取(保険業など)
・横流し(在庫横領):会社の備品を盗んで転売
※刑法上の「横領罪」に該当する場合あり

②虚偽報告(Fraudulent Statements):財務情報の利用者を騙す
・粉飾:不正な報告のうち、利益を大きく見せかけるもの

③汚職(Corruption):取引上の権威を悪用する
・キックバック受領
・利益相反行為
・癒着

第1章① 不正発覚時の対応と責任

不正の3要素のうち、機会のみは、内部統制を強化することで減らせる

不正経理が発生しやすい領域

制度上、内部統制監査は網羅的に行われていないことに留意する

①内部統制監査の対象外になっている拠点:内部統制監査において「重要性が低い」と判定された拠点

②内部統制監査の対象外になっている業務プロセス:内部統制監査において「重要性が低い」と判定された業務プロセス

③内部統制監査の対象となっているものの、内部統制が無効化されている業務プロセス:マネジメントオーバーライド(経営者による)、共謀(社内外の従業員による)

不正経理発覚時の実務対応(不正調査のアプローチ)

・少額で影響範囲が特定可能な場合(同種類の取引が少ない等):当該事件のみの調査で終わる
・多額で影響範囲が特定困難な場合(同種類の取引の存在が疑われる等):全社的な類似取引の調査が必要となり、膨大な調査コストがかかる

不正調査のアプローチ
・人:取締役(Directors)、執行役(CxOs)、上級管理職(Managements)、中間管理職、一般従業員、取引先
・場所:本社、事業部、支社、子会社(Subsidiaries)、関連会社(Affiliates)
・手口:自己決裁、架空取引(売上/仕入/経費)、循環取引、架空資産、簿外債務、原価付替、経費繰延、在庫横領、など

不正調査の方法
・アンケート
・ヒアリング
・データフォレンジック:財務データ、非財務データ(電子メールなど)

不正事件が深刻な場合、以下が必要となる
①証券取引上に不正経理の概要を開示
②弁護士・会計士・不正調査士による第三者調査員会の組成(社内調査委員会では独立性が不十分なため)
③第三者調査委員会による調査
④調査報告書への対応(事実確認、関係者の処分、内部統制の改善対応)
⑤財務報告に関する訂正報告書の提出(過去5年間にわたり過年度訂正が必要)
⑥証券取引所に改善報告書を提出

不正経理発覚時の責任(取締役/監査役/会計監査人/会社)

取締役
・民事責任:損害賠償責任(任務懈怠により会社に損害を与えたり、第三者や株主に損害を与えた場合)
・刑事責任:違法配当、虚偽文書行使、特別背任罪、金商法違反

監査役
・民事責任:損害賠償責任(任務懈怠により会社に損害を与えたり、第三者や株主に損害を与えた場合)
・刑事責任:違法配当、虚偽文書行使、特別背任罪

会計監査人
・民事責任:損害賠償責任(任務懈怠により会社に損害を与えたり、第三者や株主に損害を与えた場合)
・行政処分:公認会計士法に基づく処分(戒告/業務改善命令/業務停止命令/解散命令/登録抹消/課徴金納付命令)、JICPAによる処分(戒告/会員権停止/除名/退会勧告/行政処分請求)

会社
・行政処分:金商法に基づく課徴金納付命令
・刑事責任:金商法に基づく罰金

第1章② 不正経理の典型的な手口

複雑な手口(不正スキーム)も、単純な個々の手口の組合せでできていることが多い
①~⑦で不正事例の9割はカバーできる

①自己決裁

・多くの場合、経理責任者(特に規模の小さい会社は独りで業務が完結しやすい)が行う
・原始証憑の偽造を伴う
・効果:権限分離に基づく牽制機能(承認コントロール)を無効化する

②架空取引

・原始証憑の偽造を伴う

①架空の受注販売(売上計上)
・日付を操作して、収益を前倒し計上し、当期利益を増やす(粉飾)
・期末に押込販売&翌期首に返品受入により、当期利益を増やす(粉飾)

②架空の発注購買(仕入計上)
・日付を操作して、費用を後倒し計上し、当期利益を増やす(粉飾)
・固定資産などを会社で購入したことにして、支払代金を自分の口座に入金する(横領)

③架空の経費精算(費用計上)
・実際にかかった金額よりも大きい額を経費として申請し、精算を受ける(横領)

キックバック:売る側と買う側の共謀が必要
・謝礼や販促金として金銭を渡すことで、個人的に受け取らなければ不正(横領)には該当しない
・営業担当者:どうしても売りたいので、購買担当者に利益供与(キックバック)することで買ってもらおうとする。100円の商品を120円で売り、120円を売上計上し、そのうち20円分は値引きなどで処理して、購買担当者に個人的に渡す。
・購買担当者:個人的金銭欲のため、買う代わりにキックバックを受けようとする。100円の商品を120円で発注し、120円を費用計上する。20円分は営業担当者から個人的に受け取る。(会社からすると20円無駄に高く仕入れてしまっていることになる)

③循環取引

・原始証憑が実際に作成送付され、決済(資金移動)も実際に起こる
・参加者の倒産などにより資金の循環が止まらない限りバレない可能性あり
・再販時に仕入原価に少額の手数料を上乗せしていくため、取引金額が膨らんでいく
・2社間の循環取引(得意先と仕入先が同一)の場合は検出が容易

④架空資産

・実際には存在しない資産を存在するかのように処理する
・有価証券や固定資産の減損処理を回避する:不合理な前提により評価する、販売用不動産を事業用固定資産に偽装する(収益還元法で評価できる)、など

⑤簿外債務

・一般的に網羅性の立証(「ないこと」の証明)は困難であり、原始証憑を隠蔽されてしまうと確認できない

⑥原価付替

・建設業やソフトウェア開発業でよくみられる手口
・営業担当者に原価配分の権限がある場合、不正の機会となる
・効果:受注工事損失引当金の計上回避

⑦在庫横領

・横領(現金着服/横流し/キックバック):「横領」は刑法用語
 ・横流し(在庫横領):在庫を転売(現金化)し、販売代金を着服すること
・棚卸資産管理者は、在庫の横領を隠蔽しやすい

⑧その他

・不正融資:迂回融資による他社への資金供与(貸付金を建設仮勘定などで計上する)
・低廉譲渡による他社への利益供与
・連結仕訳の操作(連結除外など)
・現金および現金同等物の横領
・現金預金の着服(小切手の不正使用、不正送金)

第2章 不正分析時の属性

①業種

・製造業者(見込生産):製造販売事業がメイン、商品販売事業も行う
・請負業者(個別受注生産や受注に応じた役務提供、建設業やソフトウェア開発業を想定):請負事業がメイン
・卸売業者(商社など):商品売買事業がメイン
・小売業者(百貨店、GMS/CVS、家電量販店やドラッグストア):商品売買事業がメイン
・サービス業者(賃貸、不動産仲介、物流、運輸、通信):請負事業、商品販売事業、サービス事業がメイン

②事業類型

・製造販売事業
・請負事業
・商品売買事業
・サービス事業
・その他の事業(資金取引、経理操作など)

③関連する勘定科目

・営業系:売上高、仕入高、棚卸資産
・資金系:現金預金、貸付金、借入金
・固定資産系:有形固定資産(建設仮勘定を含む)、無形固定資産(ソフトウェア、のれんを含む)
・雑勘定系:経費、その他

④場所

・本社
・事業部
・支店・営業所
・子会社・関連会社

⑤職階

・取締役(Directors):内部統制を無効化できるため金額規模は大きくなる
・執行役(CxO):内部統制を無効化できるため金額規模は大きくなる
・上級管理職(部長):内部統制を無効化できるため金額規模は大きくなる
・中間管理職(課長)
・一般従業員

⑥目的

・自社の利益創出:7割
・個人による会社資金の横領:2割
・他社からのキックバック受け取り:1割
・他社への利益供与:わずか

⑦動機

・会社業績達成
・部門業績達成
・個人業績達成
・個人的金銭欲:職階に関わらず起きる
・他社支援

⑧手口(8種)

・自己決裁
・架空取引
・循環取引:商品売買事業で多い
・架空資産
・簿外債務
・原価付替:請負事業で多い
・在庫横領
・その他

事例分析の例

・業種別分析:業種×目的
・事業類型別分析:業種×事業類型、事業類型×手口
・発生場所別分析:発生場所×手口
・職階別分析:職階×動機
・金額規模別分析:金額規模×科目、金額規模×職階

第3章① 製造業者における不正

経営管理上の特徴

主な業務プロセス
①受注:営業部門
②出荷指図:営業部門
③出荷:倉庫部門
④売上計上:経理部門
⑤請求:経理部門
⑥入金:経理部門

・本業である製造販売事業については、1つの製造指図に対して、営業/購買/設計/製造/物流などの各機能が分離され、職務分離による内部牽制が効きやすい。そのため、架空受注による架空売上計上などの不正は難しい。
・本業以外に商品販売事業や請負事業を行っている場合(例:商社を持っている)、本業よりも内部統制が弱く、不正リスクは高いる
・拠点(支店、営業所、工場)では人数不足から職務分離が成立していない場合が多く、不正リスクは高い
・システム連携されていない領域があれば(例:仕入伝票や売上伝票を手作業で登録している)、不正リスクは高い

典型的な不正経理パターン

①本業(製造販売事業)における不正
・外注加工先への有償支給分を収益に計上(新収益認識基準では禁止)
・期末在庫の過大評価(売上原価の過小評価):期末在庫(棚卸資産、仕掛品など)の評価額を改竄して過大計上し、売上原価を少なくする(費用の先送り)ことで、一時的に売上総利益を高める
・原価差額の恣意的な配賦:標準原価と実際原価の差額を恣意的に配賦する

②架空取引の検知漏れ
・職務分離が機能していないと、以下のような自己決裁が検知できない
 ・発注者が検収する(横流しの機会あり)
 ・購買担当者が在庫管理する(横流しの機会あり)
 ・経理担当者が出納管理する(着服の機会あり)
 ・経理担当者が原材料や固定資産を購入する

③非中核事業や現地子会社(販社など)による不正
・専業の請負業者や卸売業者と比較して内部統制が弱い(特に営業担当者に対する牽制が弱い)
・内部統制が弱いため、外部証憑の偽装などの隠蔽工作が行われていなくても、架空取引が検知できない場合が多い
・少額の不正経理が長期間にわたり反復されている可能性が高い
・担当者が固定化すると、キックバックなどの汚職(共謀不正)の原因となる癒着が発生しやすくなる
・手口としては以下がよく行われる
 ・原価付替
 ・循環取引

監査上のポイント

・業務プロセスを確認し、架空取引のリスクとコントロールが識別されているかを検証する
・システム間のデータ連携を確認し、システム統制を無視してマニュアル入力(データ改竄)できる機会の有無を検証する
 ・原価配賦を恣意的に行う
 ・在庫量を恣意的に測定する(特に、棚卸計算法の場合、実地棚卸後に一度データ改竄すれば済むのでリスクが高い)
・取引先別仕入高分析により異常点がないことを確認する(外注加工費は済社内で実在性が検証できないため)
・SOXスコープ外となる拠点(非中核事業、支店、海外子会社)に対しして異常点分析する

第3章② 請負業者における不正

経営管理上の特徴

主な業務プロセス
①案件を発注者から受注
②設計
③資材の調達
④外注先の手配
⑤施工
⑥発生原価を複数案件に配賦
⑦外注先の成果物の研修
⑧完成
⑨発注者への引渡し

・情報が営業担当者に集約されるため、営業担当者の裁量範囲が拡大する(内部牽制が弱まり、原価配分による損益操作が自由にできてしまう状況など)傾向にあり、実質的に上席者が事後承認するだけの内部統制になっている場合が多い
・受注先や外注先との取引が長期に継続するため、営業担当者を通じて「貸し借り関係(取引の内容や条件で便宜を図る)」ができやすい業界であり、共謀により内部統制が無効化される場合がある(工事計画書、発注書、検収書、請求書、などが偽造されやすく、架空案件が創出しやすい)
・品番やプロジェクトに基づく管理会計が行われており、工事の原価/売上/損益について目標管理されている場合が多い(しかし、原価配分の内部統制は弱い場合が多い)
・財務会計上、工事原価総額の見積りが決算に大きな影響を与えるため、工事進捗率・工事損失引当金の見積りの検証が難しい
・システム開発の請負業者の場合、成果物の実在性が検証しにくい

建設業会計と一般会計の違い
・完成工事高:一般会計では、売上高
・完成工事未収入金:一般会計では、売掛金
・工事未払金:一般会計では、買掛金
・未成工事受入金:一般会計では、前受金

典型的な不正経理パターン

①原価付替による利益操作
・架空受注により付替先案件を創出することが多い
・赤字案件で発生した原価を他案件に付け替えることにより、工事損失引当金の計上を回避できる
・実案件で発生した入金を架空案件に付け替えることにより、架空案件が滞留債権と見なされることを回避できる
・発生原価実績のみに基づいて工事進捗率を算出している場合(工事進捗率の計画を立てて予実管理してない場合)、発生原価を付けることで進捗率を高く見せかけることができる

②架空受注と自己検収による支払代金の横領
・営業担当者が受注も検収も自己完結できてしまうと、容易に起こる
・営業担当者は受注先と外注先と共謀して外部証憑を偽造しやすい

③未完了案件の売上高を前倒し計上
・営業担当者(当期売上予算を達成したい)が受注先と共謀し、未完了案件の検収を受けたことにしてもらい、当期に売上を上げる

④工事進捗率の操作による売上の前倒し計上
・工事原価総額を過少に見積もることにより、工事進捗率を高く見せかける(進捗した分は、完成工事未収入金として扱われるため、売上を前倒し計上できる)

監査上のポイント

・業務プロセス上のコントロールの確認
 ・架空受注が成立しない仕組みになっているか
 ・特に営業担当者に対して牽制が効いているか(原価配賦など)
 ・工事原価総額や工事進捗率の見積りにおいて根拠資料を作成しているか
・個別案件の実在性を検証する(システム開発の場合は専門家の関与が必要)
・売上高と売上原価の発生について、予定と実績のギャップが異常でないかを検証する

第3章③ 卸売業者における不正

経営管理上の特徴

主な業務プロセス
①得意先からの受注
②仕入先への発注
③営業倉庫から入荷報告を受けて仕入計上
④仕入先への支払
⑤営業倉庫への出荷指図、仕入先への出荷指図(直送取引の場合)
⑥営業倉庫から出火報告を受けて売上計上
⑦得意先への請求
⑧代金回収

・営業担当者が商流(売上、仕入、加工委託、在庫受払)を独りで仕切っており、取引先との間で「貸し借り関係」ができやすい
・ある程度の規模の商社では、営業担当者を監視する部門が設置されており、業務システムにより、部門別・担当者別の計数管理が行われている
 ・売上、仕入、粗利、経費、在庫、使用資金などの推移分析
 ・営業債権/営業債務、滞留在庫の滞留分析
 ・赤残(マイナス残高)
 ・回収サイト/支払サイトの分析
 ・取引先別の債権債務の増減分析
 ・与信限度管理
・与信管理が強く、取引先別に、債権管理やファクタリング先選定が行われている
・在庫管理がシビアで、社内外の営業倉庫、加工委託先を含めて、現物と帳簿を全件照合している場合が多い
・例外取引が多い(未出荷売上、異常な売上総利益率での売買、決済サイトの変更、与信限度超過の販売、など)が、事前稟議決裁をとるプロセスが整備運用されていることも多い

・買収して子会社化した拠点(例:製造業者の商社部門)では、モニタリング機能が弱い場合がある

典型的な不正経理パターン

・請負業者と同様に営業担当者に情報が集中するため、内部統制の弱点になる場合が多い
・長期間取引が多いため、本社の販売事業部や支店の部長/課長/担当者が複数の取引先と共謀して、循環取引に発展するケースが多い
・循環取引は規模が少額のうちは検出が困難であるため、検出できた頃には大事件(メディア、規制当局への対応)になることが多い

①循環取引
・整合性のある外部証憑、期日通りの入金/支払まで偽装されると、正常取引との判別が困難
・一般的に循環するたびに在庫金額は増加していく(上乗せ手数料分)が、滞留在庫として検出するのは難しい

②サンドイッチ取引
・共謀している仕入先と取引先が、売上目標を達成したい会社を巻き込むことがある

③未処理の売上値引・売上割戻
・営業担当者が販促目的で行った売上値引や売上割戻が隠蔽され(営業成績が落ちてしまうため)、経理担当者が把握できずに滞留売掛金となる

監査上のポイント

・ヒアリング時には以下に注意する
 ・ビジネスリスクの取り扱い:クレーム、売れ残り、回収不能債権、ミニマムロイヤリティ(売上に関係なく支払う最低支払料)など
 ・商流の全体像:受注と債権回収だけではなく、仕入、外注加工、在庫受払、売上計上など
 ・経理処理の根拠となる証憑
 ・不正リスクの機会
・データ分析により、以下の異常点に着目する
 ・売上が増加しているのに、発送運賃が増加していない
 ・在庫金額が増加しているのに、倉庫保管料が増加していない
 ・営業運転資本が増加しているのに、売上が増加していない
 ・ボリュームディスカウント(売上割戻や仕入割戻)が増加しているのに、売上や仕入が増加していない
 ・多額な返品/値引(単価差)
 ・計上日と受渡日のズレ
 ・期末の取引急増
 ・期首の取消仕訳

第3章④ 小売業者における不正

経営管理上の特徴

・POSシステム等の店舗管理システムが、本部と連動されるシステムが運用されていれば統制リスクは低くなる。しかし、実際には在庫金額が改竄できてしまうこともあるので注意
・仕入品の発注者と検収者が同一人物な店舗はリスクが高い(架空仕入や横領の機会)
・店長や営業担当者が仕入先との間で癒着している可能性あり
・店舗従業員の労働時間が長く、不正の機会や動機がある
・仕入割戻が大きな損益インパクトを持っている

実地棚卸のプロセス
①各店舗で実地棚卸を行い、棚卸集計表を作成する
②回収した棚卸集計表をシステム登録し、単価に基づき期末在庫金額を確定する


典型的な不正経理パターン

①期末棚卸残高の過大計上(店舗在庫の水増し)による利益創出
・店舗側で自店舗の実地棚卸表をごまかす
・店舗側が自店舗在庫データを改竄(上書き登録)する
・本部側が各店舗在庫データを改竄(上書き登録)する

②売価還元法の悪用による期末棚卸資産の単価操作
・期末棚卸資産の売値を過大評価する(実際に販売する価格よりも高値で見積もる)

③架空売上による商品の横流し
・特に百貨店における外商担当者が架空売上を行うと大口になる場合がある

②返品や金券利用を偽装する少額反復型の横領

③当期仕入高の過少計上(仕入値引・仕入割戻の過大計上)

④共通経費を不採算店舗に配賦せず固定資産減損を回避する

監査上のポイント

・システムが、仕入→在庫計上→売上→在庫払出が100%連動しているかどうか(マニュアル操作で改竄できないようになっているか)を検証する。棚卸差異修正だけはマニュアル操作可能なため、業務マニュアルが整備運用されているかを検証する。
・仕入割戻(利益操作しやすい)に関するルールが整備運用されているかを検証する


第3章⑤ サービス業者における不正

経営管理上の特徴

主な業務プロセス
①顧客からの受注
②顧客に対する役務提供
③売上の計上
④顧客への請求
⑤顧客からの入金

・サービス事業(本業)では入出金管理が簡単(物品の受払いがなく、履行義務充足時に売上計上される)で、架空売上は起こりにくい。通常は顧客が過大請求に気付くが、顧客が取引内容を理解できていなかったり、検収が困難だったり、顧客が共謀するケースもある。
・本業以外で、請負事業や商品販売事業を行っている場合が多く(例:情報サービス提供会社がシステム開発を請け負う、不動産仲介業者が不動産販売を行う、メンテナンス業者が部品販売を行う)、専業の請負業者や小売業者に比べて内部統制が弱い。

不動産業の区分
・宅建業
 ・不動産売買
 ・不動産流通
・不動産管理
・不動産賃貸
・不動産開発(ディベロッパー):ゼネコンに発注
 ・大手6社:三井不動産、三菱地所、住友不動産、東急不動産、野村不動産、森ビル

典型的な不正経理パターン

①経営者による自己決裁

②前受金(契約負債)を使って履行義務未充足にもかかわらず売上の前倒計上

③非本業事業(請負事業、商品販売事業)における不正

監査上のポイント



第3章⑥ 全業種共通の不正

典型的な不正経理パターン

経営者による不正
・目的や動機は様々
 ・個人的金銭欲による資産横領
 ・業績目標を達成するため、汚職(仕入先と得意先と共謀)して循環取引
 ・経営難に陥った他社を支援するため、不正融資
・頻度は少ないが多額
・内部統制を無効化できるため防止は難しい
・仕訳テスト、内部通報、外部からの指摘により検出可能

子会社による不正
・親会社から出向したモニタリング担当取締役と、子会社の社長が共謀する可能性が高い

分析的実証手続(仕訳テスト)におけるポイント

勘定科目系
・不正によく使われる典型的な仕訳
 ・売掛金や棚卸資産の滞留期間をリセットするための仕訳
・珍しい貸借科目で登録されている仕訳
・売上取消仕訳:架空売上の可能性あり

金額系
・丸い数値(0が連続する数値):閾値回避、架空取引、などの可能性あり
・ベンフォード分析:架空取引の可能性あり

日付系
・非営業日に計上されている仕訳
・期末日前後に登録されている仕訳:決算操作(翌期取消仕訳など)の疑いあり
・売上計上日と納品日が大きくズレている:売上の期間配分を操作している可能性あり

摘要系
・不正の痕跡が記録されている可能性あり

登録者系
・自己承認
・システム連動していないマニュアル登録
・頻度の低い登録者:不正のために内部統制を無効化して登録した可能性あり
・登録者が同じ会社を仕入先&得意先に使っている:循環取引をしている可能性あり

原始証憑との突合(詳細テスト)におけるポイント

以下を行うことを周知して牽制する(形式的なサンプリングテストだと抑止力効果が薄い)
・伝票の明細情報を確認する(「○○一式」は不可)
・自己承認をシステム上禁止する
・休日の入出金をシステム上禁止する

第3章⑦ DAのポイント

分析対象データ

月次試算表
・月次BS/PL、子会社別(連結パッケージ)、部署別、拠点別
・データサイズはそこまで多くない

仕訳データ
・登録日付
・金額
・相手勘定科目
・登録者/連携元システム
・原始証憑の伝票番号
・摘要
など

ERPデータ
・仕訳データにはない情報が紐づいている
・例えば、販売管理システムなら
 ・仕入先/販売先/出荷倉庫
 ・販売した商品・サービスの名称
 ・単価/数量
 ・出荷日/納品日/売上計上日
 ・担当者/入力者/承認者

分析手法

分析をどのメッシュ(セグメント、地域、部門、担当者など)で行うと効果的かは、会社により異なる

①トレンド分析
異常な傾向を検知できる
・売掛金回転期間:滞留売掛金
・在庫回転期間:滞留在庫
・買掛金回転期間
・運転資本:循環取引を行っていると徐々に増加していく
・発送運賃
・倉庫保管料
・販管費
・売上値引
・仕入値引

・運転資金:銀行が使う用語、設備投資以外で事業に必要な資金
・運転資本:ファイナンスや会計で使う用語
 ・

「正味運転資本」は、貸借対照表にある「現金および現金等価物を除いた流動資産」から、「有利子負債を除いた流動負債」を引いたものとなります。
正味運転資本(NWC) = 流動資産(現金除く) - 流動負債(有利子負債除く)
しかし、流動資産、流動負債の中でも、特にビジネスでの売上増減に連動して増減する項目は、売上債権(売掛金・受取手形)、棚卸資産、買入債務(買掛金・支払手形)の3つがメインになります。
したがって、特に運転資金の増減だけを議論するような場合は、「営業運転資本」を使って、次のように表しします。
営業運転資本(OWC) = 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務
・売上債権:売掛金、受取手形、未収金(営業項目)
・棚卸資産:原材料、仕掛品、製品、商品
・仕入債務:買掛金、支払手形、未払金(営業項目)

②散布図分析
例えば、営業課ごとに以下を集計して散布図プロットを行う
・滞留売掛金:売上×売掛金
・滞留在庫:売上原価×在庫
・異常な支払サイト:仕入×買掛金
・資金効率が悪い取引:売上×使用資金(売上債権+棚卸資産-仕入債務)
・発送実態のない架空販売:売上×発送運賃
・保管実態のない架空在庫:在庫×保管料
・キックバック:売上×売上値引、仕入×仕入値引
・異常な販管費:売上×販管費


③積み上げ棒グラフによる集計
時系列データが入手できる場合、担当者の職階、登録の日付・曜日・時間帯、マニュアル入力/システム連携、などを区分できる

第4章 不正経理を防止・早期発見するためには?

経営者がとるべき対応

・不正経理の50%は経営者によるものである
 ・業績目標を達成したい(投資家や債権者にいい顔がしたい)
 ・個人的金銭欲を満たしたい
・企業の経営には社会的責任が伴うことを自覚し、不正リスク対応のために必要な内部統制を整備運用する

・不正経理の50%は支店や子会社で起きるものである
・在外子会社や買収獲得会社に対しても、本社が業務プロセスを把握し、内部統制(職務分離、原始証憑の保管など)を浸透させる

監査人がとるべき対応

・業種や事業により不正パターンは類型化できるため、被監査企業のビジネスモデルを深く理解し、業務プロセス上のリスクを特定するべき
・サンプリングテスト(証憑照合)だけでは不正を検出できない(証憑は偽造される)ため、まずは分析的手続により全体を把握して異常点を検出する

監基報240(ISA240)「財務諸表監査における不正」

・2013年:不正リスク対応基準が導入された(不正による虚偽表示が疑われる場合の対応)
・2020年:特検リスクが導入された(不正以外にも不確実性や主観性などの固定リスク要因が重視されるようになった)

第5章 監査の将来像

従来の監査
・財務諸表が適切であることを示すために理屈を練る
・残高(ストック)の検証が中心
・財務諸表の誤謬修正を依頼

将来の監査
・会計不正を防止/早期発見するための手続を行う
・取引(フロー)の検証が中心
・内部統制の改善を提案

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