FASS 決算編(完)

全体のポイント

決算スケジュール

○当期中〜期末日
・月次業務報告
・月次予実管理
・連結パッケージの準備と収集

○期末日〜3ヶ月以内
・帳簿の修正
・決算時特有の会計処理(税務調整を含む)
・連結決算作業
・監査対応
・株主総会の招集通知:株主総会より2週間以上前
・決算短信の開示(上場会社の場合):期末から45日以内

○期末日から3ヶ月以内
・株主総会
・決算書の公告(非上場会社の場合)
・有価証券報告書の開示(上場会社の場合)

決算プロセスにおける留意点

・月次決算は自社内部管理のために行うもの(法規制なし):スピード重視
・年次決算は外部開示のために行うもの(法規制あり):期中に使った分は当期費用、残った分は期末資産へと分別する
・連結決算は、「親会社の株主」のために行うもの

月次業績管理

決算の定義と特殊な仮勘定

・PL項目やBS項目を確定させるための計算基準・判断基準は社内で文書化しておく
・仮勘定は月次決算時には適切な科目に振り替える
 ・建設仮勘定:事業用固定資産を取得する前の支出額。完成時に「建物」に振り替えて、その後は減価償却で費用化。
 ・未成工事支出金:販売用固定資産を取得する前の支出額(「仕掛品」に相当)。完成時に「完成工事原価」(「製品」に相当)に振り替えて、売上時に「売上原価」として費用化。

決算を行うためのツール(会計帳簿)

①取引発生時、仕訳帳(仕訳日記帳)と同時に補助記入帳にも記録する
 ・補助記入帳:特定の取引について詳細を記録する帳簿、1科目につき1冊
  ・現金取引出納帳
  ・受取手形取引記入帳
②仕訳帳の記録に基づき、総勘定元帳および補助元帳に転記する
 ・補助元帳:特定の勘定科目の内訳を記録する帳簿、1科目につき複数冊
  ・売掛金元帳:得意先ごとに1冊
  ・商品有高帳:商品ごとに1冊

月次決算の定義と目的

・迅速な業務改善:年度計画とのギャップを早期に把握して対策を打つ
・段階的な見積り:単月利益を把握することで実際の年度利益を見込む
・年度決算作業の負担軽減
・ガバナンス強化:不利な差異だけではなく有利な差異についても説明責任を果たす

月次決算処理の特徴

・年次決算に準じた月次処理:年次決算ほどの網羅性・正確性は不要、スピードを重視するために概算でOK
 ・費用/収益の見越し/繰延べ
 ・仮勘定の適正科目への振り替え
 ・減価償却費の月割計上
 ・各種引当金の月割計上
 ・現金預金勘定の実査
 ・共通費の各部門への配賦計算

・効率化を徹底するために、月次締切の手続をリスト化し、締切までに手続を厳守させる
・セグメント分析のために集計を行う(部門別/地域別/商品別)
・内部管理用資料の作成
 ・月次PL/BS
 ・部門別PL/BS
 ・月別推移表
 ・資金繰実績表

月次決算報告書

作成時の作業
・予算との比較
・前期との比較
・セグメント間の比較

月次報告書の作成により、問題の特定や年度計画の見直しができる

年度予算とは

予算のドラフト
①売上
②販売コスト
③仕入原価/製造原価・売れ残り
④管理コスト(水道光熱費、家賃、人件費など)
⑤営業活動以外のコスト(金利や税金の支払い)
⑥設備投資にかかる現金支出と損益への影響:支出がそのまま損失になるわけではないため
⑦予測PL、予測CF(資金繰り計画)

予算の検証
・予算を月割する
・月次決算の実績数値と比較する
・差異分析を行い、翌月以降に向けて改善または予算修正を行う

業績報告会のポイント

・経理部門ではなく各部門責任者が説明責任を果たす
・改善策は具体的(いつまでに何をやるのか)に報告する
・改善策は進捗報告を行う
・計画の見直しも検討する
・月初に前月分の報告会を行う(スピード感がないと経営管理の効果がない)

予算見直し(予算修正)

・方法は会社の事情により自由
・一般論としては
 ・見直すべき項目は、重要性の高いところのみ
 ・見直すべき時期は、四半期や半年ごと(ただし差異は毎月把握する)、一度建てた予算はある程度の期間は経過を見ないと意味がない
・実現可能な予算にする:見直し担当者は、策定根拠と実行可能性を検証する

単体決算業務

年度決算定義と前準備

年度決算
・全ての会社は、会社法における会社計算規則等に従って行う
・上場企業は、金商法における財務諸表等規則等(財規)に従って行う
・実地棚卸も決算時に行う

決算前準備
・決算方針の策定
・配当方針の策定
・決算スケジュールの策定
・監査法人との決算方針策定、未決事項について協議

決算方針〜内容と作業

決算方針:各会計処理で採用する基準を事前に規定しておく
・減価償却の方法、税法上の特例を採用するか
・会計法規が変更された場合、早期適用するか/強制適用まで待つか
・引当金の計上方法
・決算日の換算に使う為替レート

決算方針に従った作業

①勘定精査:期末時点で存在している科目全てについて、勘定科目と金額を精査する
・仮勘定の適切科目への振替
・勘定科目名と金額の誤りを修正
・補助簿と照合して不整合を修正

②決算整理仕訳
・見積計算に基づく内部取引整理(引当金/減価償却費/資産評価損益の計算)
・経過勘定処理
・売上原価の確定
・収支計算を損益計算に整理しなおす

③共通費を各部門へ配賦

決算スケジュールに組み込むべき各期日

・社内システムの締日:決算日とズレがある場合には調整作業が必要
・会社法上で規定されている期日:株主総会の招集通知日と開催日、監査に関する期日
・税法上で規定されている期日(確定申告期限):消費税、法人税、住民税、事業税、など

各部門で決算作業の担当者をアサインし、日程調整を行う必要あり

決算処理:引当金の処理

引当金を計上する目的
・発生することが予想される費用/損失をその時点で計上するため(発生主義)
・引当金要件を満たせば計上しなければならない(選択ではなく強制)

引当金の種類
・評価性引当金:資産の金額を減少させる
 ・貸倒引当金のみ
・負債性引当金:負債の金額を増加させる(未払金の性質)
 ・賞与引当金(未払いな賞与)
 ・退職給付引当金(未払いな退職給付金)

貸倒引当金

仕訳
貸倒引当金繰入額 / 貸倒引当金

分類
・一般債権(優良債権):会計上は当社の平均貸倒実績率を使って見積もり、税法上は一括評価金銭債権
・貸倒懸念債権(やや危険):税法上は個別評価金銭債権
・破産更生債権等(かなり危険):税法上は個別評価金銭債権

退職給付引当金

・仕訳:将来時点における退職給付債務を現在価値に割引いた額
退職給付費用 / 退職給付引当金

・退職金の給付
 ・一時金:当社から退職者に支払う分(1回のみ)
 ・年金:当社は保険会社に支払原資(掛金)を積み立てておき、保険会社が退職者に支払う分(年次に分割)

・確定給付型(雇用主が運用リスクを負う)の場合、毎月の年金費用は年金数理士が算定し、企業に請求する

税法上は、引当金の損金計上は認められていない

決算処理:経過勘定の処理(前受収益・未収収益・前払費用・未払費用)

経過勘定を計上する目的
・当期に現金収支があっても、当期の収益費用として認識できない場合は、期末にBSに(PLではなく)経過勘定項目として載ることになる

経過勘定の種類
・収益:前受収益(負債)→未収収益(資産)
・費用:前払費用(資産)→未払費用(負債)

前払費用:流動資産
長期前払費用:固定資産

決算処理:棚卸資産の期末計上

使ったら当期費用、残ったら期末資産
・消耗品費
・売上原価:期末商品棚卸高は、実地棚卸高との照合を行う

決算処理:BS項目の流固分類

①まず、正常営業循環基準を満たすか?:満たす場合、流動資産
 ・購買:買掛金/支払手形
 ・販売:売掛金/受取手型
 ・在庫:商品
②次に、一年基準を満たすか?:満たす/満たさない場合、流動資産/固定資産

ただし、有価証券は、保有目的や性質により、固定資産(「投資その他の資産」)に分類される場合あり

役員報告など:会社法に基づく流れ

全ての会社は、会社法に基づき、「計算書類等(7種)」を作成する義務がある

計算書類(4種)
 ①BS:貸借対照表
 ②PL:損益計算書
 ③SS:株主資本等変動計算書
 ④個別注記表:科目や数値の説明を文書で記載(注記はルールに従い記載する)
  ・関連当事者との取引

等(3種)
 ⑤計算書類に係る附属明細書:記載に関するルールなし
  ・固定資産の明細
  ・引当金の明細
  ・販管費の明細
  ・個別注記表で省略した事項
 ⑥事業報告:重要事項、現況、役員株式、など
 ⑦事業報告に係る附属明細書:記載に関するルールなし

細則(法務省令)
・会社計算規則:計算書類とその付属明細を作成するため
・電子公告規則:
・会社法施工規則:計算書類以外を作成するため

決算処理終了

FS原案を作成

役員会でレビュー

会計監査

取締役会によるFS承認

株主総会招集通知の発行(FSを添付)

株主総会における株主によるFS承認

BS(大会社の場合はPLも)を公告:有報提出会社は公告不要(金商法に従い開示することになるため)

連結決算業務

子会社と関連会社

○子会社
・当社および子会社の所有議決権が50%超または実質的な支配
・連結法の適用対象
・連結除外要件を満たす場合は持分法の対象とする(非連結子会社)

○関連会社
・当社および子会社の所有議決権が20%以上または実質的な影響力
・持分法の適用対象

連結対象会社と除外要件

○連結から除外しなければならない子会社
・支配期間が一時的に過ぎない場合
・利害関係者の判断を誤らせる場合:民事再生法を適用された子会社など

○連結から除外してもよい子会社
・量的かつ質的に重要性が乏しい場合

量的重要性
資産/売上高/利益/利益剰余金の全ての金額において金額が小さい

質的重要性
・親会社の事業戦略的に重要
・親会社の一部業務を実質的に担っている
・セグメント情報において影響が大きい
・今後、多額の損失を出す可能性が高い

連結FSで開示が要請されるセグメント情報
・事業別
・所在地別
・海外売上高

連結の会計処理ルール

・連結法:連結対象の個別財務諸表を合算して連結修正仕訳(資本連結/成果連結)
・持分法:子会社株式(親会社持分)を評価替

連結決算日と前準備

連結決算日は、親会社の決算日
・子会社:決算日の差が3ヶ月以内であれば、子会社決算をやり直す必要はなく、子会社FSを調整利用して親に提出すればOK(3ヶ月ルール)
・持分法適用会社:直近のFSを親に提出すればOK

親会社には、子会社の決算業務内容を把握して、指導する体制が必要
・事前協議:会計処理・勘定科目・会計期間の統一、連結パッケージの作成方法
・連結パッケージの作成支援

連結会社間のデータ収集

①子会社が個別FSを作成する
②親会社が会計士監査を受ける場合、子会社も会計監査人によるレビューを受ける
③子会社が連結パッケージを作成し、親会社に提出する
④親会社が収集した連結パッケージをレビューする
⑤親会社が連結作業を行う

※子会社は、連結パッケージに誤りが判明した場合、速やかに親会社に報告する義務がある
・たとえ親会社が決算発表を行った後でも、子会社としては親会社への適時報告が要請されている
・判明した連結パッケージ上の誤りをどう扱うかは、親会社の問題

連結パッケージの構成
・個別FS
・連結決算に必要な情報
 ・連結会社間取引データ
 ・内部利益の明細
 など

連結決算手順

①支配獲得日
・子会社の資産と負債を時価評価する
・投資と資本の相殺消去を行い、連結BSのみを作成する

②初回の連結決算日
・期中仕訳を相殺する
・在外子会社のBS・PLを換算する(為替換算調整勘定の計上)
・連結FSを作成する

詳細は別記事で


外部開示業務

会社が従うべき法令

・非上場企業:会社法に従う
 ・大会社ではない:監査役の監査のみでOK
 ・大会社(会計監査人設置会社):会計監査人の監査が必要
・上場企業:会社法と金商法に従う、会計監査人の監査が必要

会計監査
・監査立合を行う者は、会計監査人と企業のやりとりが円滑になるように努め、立合報告書を文書化する
・会計監査人:公認会計士または監査法人

会社法決算(大会社ではない場合)

①取締役会は、計算書類(BS、PL、SS、個別注記表)を作成し、監査役に提出する
②監査役は、計算書類を監査し、監査報告書を取締役会に提出する
③取締役会は、計算書類を修正し、承認する
④取締役会は、事業報告を作成し、承認済み計算書類と共に株主に送付する
⑤株主総会は、計算書類を承認する(事業報告は事後的な報告であるため、株主総会の承認は不要)
※計算書類の附属明細書、事業報告の附属明細書は提出不要

会社法決算(大会社)

①取締役会は、計算書類(BS、PL、SS、個別注記表)を作成し、会計監査人と各監査役に提出する
②会計監査人は、計算書類を監査し、会計監査報告書を各監査役に提出する
③各監査役は、監査報告書を作成する
④各監査役は、監査役会として、監査役会報告書を作成し、取締役会と会計監査人に提出する
⑤取締役会は、計算書類を修正し、承認する
⑥取締役会は、事業報告を作成し、承認済み計算書類、会計監査報告書、監査役会報告書、と共に株主に送付する
⑦株主総会
・会計監査人と監査役会が「適法」としていれば、株主総会による計算書類の承認は不要(大会社の計算書類の特徴)
・事業報告は事後的な報告であるため、株主総会の承認は不要
※計算書類の附属明細書、事業報告の附属明細書は提出不要


総会終了後の公告

決算短信

証券取引所規則の要請により適時開示が義務付けられている(法令による開示ではない)
・株式権利:株式の発行、自己株式の取得
・発生事実等:債権取立の不能事実、災害による損害
・決算情報:業績予想の修正
・その他:事業の現状

構成
・サマリ情報(定型様式):1株あたり当期純利益、連結財政状態、配当の状況、BS総資産額、連結業績予想、などの数値指標
・添付資料(様式自由):数値指標の詳細解説などの定性的情報
・財務諸表:金商法における作成省令である「財務諸表等規則(財規)」に基づき作成する
 ・BS(注記情報も含む)
 ・PL(注記情報も含む)
 ・SS(注記情報も含む)
 ・CS(注記情報も含む)

決算短信の発表後は、記者会見を開き質疑応答を行い、プレス発表する

有価証券報告書

金商法に基づく連結FS:「連結財務諸表等規則」に基づき作成する
・連結BS(注記情報も含む)
・連結PL(注記情報も含む)
・連結SS(注記情報も含む)
・連結CS(注記情報も含む)
・連結附属明細表:「書」ではない

会社法に基づく連結FS
・連結BS
・連結PL
・連結SS
・連結個別注記表

提出方法
・内閣総理大臣に宛てて
・期末から3ヶ月以内(株主総会が終了し決算が確定した後)に
・EDINETから提出

四半期報告書

開示資料(当期と前期の両方)
・連結BS:期間末時点
・連結PL:3ヶ月情報と期間末累計
・連結CS:期間末累計
・連結SSの注記:著しい変動があれば開示する
※連結附属明細表は開示不要

提出方法
・四半期末日45日以内に

年次報告書(アニュアルレポート)

IR(投資家向け広報)のために作成

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