金沢探偵依頼日誌

私の元にやってくるのはいつも風変わりな依頼である。世の中の風変わりな依頼は全て私の所へやってくるのではないかと疑いたくなる。さらに言わせてもらえば報酬がべらぼうに安い。安くて私は毎日、パンの耳をかじって暮らしている。

今日の依頼も風変わりだった。朝、事務所を開けようとすると入口の前に中年の男が立っていた。どうもとお辞儀をすると「あんた、ここの探偵事務所の人?」と聞くからそうだと答えると「頼みたいことがある」と深刻な顔で私に訴えた。私は男を事務所の中へ案内した。

事務所は事務机と来客用の机とソファーがあるだけの殺風景な部屋で私は男にソファー座るように言い、男が腰かけると私は向かいのソファーに腰かけた。私はさっそく男の依頼を聞くことにした。

「あんたには古本屋からある本を買ってきてもらいたいんだ」

「本?」

聞くと男の亡くなった妻が後生大事にしていた本が古本屋に売られてしまったのだという。そんなこと自分で買いに行けばいいと思うが折角の仕事である。余計なことを言って貴重な仕事を失うわけにはいかなかった。営業努力というやつだ。

「それで、どこの古本屋から買い取ればいいんです?」

「犀川大橋の近くにある古本屋だ」

「ふむ、ではさっそく行って買って来ましょう」

男は頼むよと言い依頼書にサインして帰っていった。私はパソコンを立ち上げ

「犀川大橋 古本屋」

と検索をかけた。1件該当し古本屋の名前は「犀川堂」といった。開店時間は11時からとある。私は事務机後ろに掛けてある時計を見た9時30分。開店まで十分時間がある。私は欠伸をしてから事務所を出た。いつもとかわらぬ金沢の朝がそこにはあった。

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