金沢探偵依頼日誌3

「ゴド―待ち」という言葉があるのをご存知だろうか。サミュエル・ベケット作の戯曲で『ゴド―を待ちながら』という作品がある。2人の浮浪者がひたすらゴドーという人物を待っているだけというあらすじなのだが、ただ待っているだけの不条理な物語展開を「ゴド―待ち」というらしい。

私が現在おかれている立場はまさに「ゴド―待ち」だった。毎朝、事務所に着くと簡単な事務処理(ほとんど負債や請求書の処理だ)をした後にバスで香林坊まで行き犀川堂へ向かい蔵書を調べる。私の探し求めている本は今日も無い。店主のオヤジと少しだけ世間話をしてまたバスに乗り事務所に戻る。事務所で来るわけもない仕事を待つ。依頼人はあれ以来一度も連絡を寄越さない。私は騙されているのだろうかとも思ったが、着手金を現金で貰いメールで一週間分の経費を請求すると次の日にはその分の費用が振り込まれている。全く持って不可解だった。

私はいつものように犀川堂から事務所へ戻ると来客用のソファーに寝転がり犀川堂のオヤジから勧められて買った古本のページをめくった。ポール・オースターという作家の『幽霊たち』という本だった。主人公の探偵が依頼人からある人物をひたすら見張るという話である。まさにゴド―待ち。私と境遇が同じだった。読んでいるうちにウトウトしだしていつの間にか眠っていた。本なんて滅多に読まないせいだ。

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