パセリ


「また喧嘩?」
そう聞くと小さくうなずく彼女。
口を尖らせてなにか言いたそうな顔をしている。
「だって聞いてよ!わたしは
「まぁとりあえず。暑いし中入るか」
長くなりそうな話を遮って涼しい店内に案内する。
「おっかき氷あんじゃん〜」
ちらっと彼女を見ると小さな手を机につけて
「奢らせて頂きます」
と三つ指をついていた。
この気温の中午前中ずっとグラウンドでボールを追いかけていた体には冷たい氷が気持ちいい。
「んんー、、頭いた、、、で?どしたの?」
相変わらず彼女の口は尖ったまま。
「、、何も聞いてないの?」
「あいつから?聞いてはないかな」
「聞いてはってなによ」
「なにも聞いてないってかあんま喋ってない。
 部活中ずっと機嫌悪かったよあいつ。」
あー、、と下を向く彼女。
「だって、、ね。昨日電話するって言ってたから
 部屋でずっと電話待ってたの。なのに全然
 かかってこないから、寝る前にかけたの。
 そしたら忘れてたー寝てたーって!!
 ひどくない?!だからずっと待ってたのに!
 って言ったら逆ギレしてきて、、!!」


よくもまぁそんなことでここまで怒れるなと
関心さえできた。まぁでもかき氷を奢ってもらった分はちゃんと相談にのらなくては。
「なるほど、ねぇ、、。ちなみに昨日の部活
 めっちゃ疲れたと思うよ、あいつ。」
「え?なんで?」
「吉田が遅刻してきたから」
「なんで吉田君の遅刻が関係あるの?」
「吉田最近色々うまくいってなくてさ、そのうえ遅刻で顧問からすげー怒られて落ち込んでたんだよ。だからあいつ、キャプテンだからさ。
部活終わった後も一緒に吉田の練習付き合ってたよ。」
「そうなんだ、、」
「だから疲れて寝てたんだと思うよ」
「、、、」
「それにさ、ほんとは仲直りしたいんでしょ?」
「それは、、
「じゃあなんでここにいるの?駅、ここじゃないでしょ?あいつのこと待ってたんでしょ?」
「、、、うん。」
「あいつ今日も吉田の練習付き合ってるけど
もうすぐ帰るって言ってたから。ちゃんと
話すんだよ。」
「わかった、、」


「じゃ、頑張って。」
「ごめんね!いつもありがとう!」
「いいよ、かき氷食えたし。ご馳走様でした」
ぺこっとおじぎすると彼女は笑っていた。
小さな手を振って駅に帰っていく彼女の背中を
見送ったあと、電車からあいつが降りてくるのが見えた。


自分だって部活で疲れて家で寝てたはずなのに。
とぼとぼ帰る帰り道にどっと体が重く感じる。
彼女が僕に会いたい理由なんて簡単にわかるのに
着信画面を見て胸が高鳴るたび自分が嫌になる。
そんなしょうもない喧嘩をするくらい
あいつしか見えていないことも、
彼女がそこまで大好きになるくらい
あいつがいいやつでかっこいいってことも、
彼女に会うたびに思い知らされる。
本当は俺が奢るから一緒にかき氷を
食べに行きたかった。
俺なら帰り道電車を降りたらすぐ電話をかけた。
しょうもない喧嘩なんて絶対しない。
大切にする。誰よりも幸せにする。
でもできない。彼女は僕の友達の彼女だから。


🎧ミスキャスト
 feat.大橋卓弥&奇妙礼太郎
 SPICY CHOCOLATE


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