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紙の本と電子書籍の使い分け

質問箱で多くいただくテーマの一つが「紙の本と電子書籍はどのように使い分けていますか(あるいは「なんで未だに紙で読んでるんですか」)」ですのでこちらに纏めて私見を連ねておきます。


1.本の中で検索するなら電子書籍、本を検索するなら紙の本棚

検索したいキーワードが決まっていて検索すべき本がアプリ内にあることが分かっているのであれば電子書籍の圧勝です。検索性能が格段に上がったことが電子書籍の大きな利点の一つであることは間違いありません。これは紙の辞書がほぼ使われなくなったことに最も象徴的に表れています。今や単語の意味を調べたいときに紙の辞書を引く人はほとんどいなくて、ネットあるいは辞書アプリで調べます。外国語を調べたいなら辞書さえ使わずに機械翻訳にかけるかもしれません。言葉を調べるというのはまさに調べたいキーワードが決まっている状態ですので、電子媒体と相性が良いのです。

翻って、本自体を探したいときには必ずしも電子書籍の方が速いとも限りません。キーワードが決まっているなら上記の通りキーワード検索で探せるのですが、そうではなく「こういうジャンルの本を読み返したい」とか、書店で「新しいテーマで良い感じの本を探したい」みたいな探したいものがあいまいな状態で探す本は紙の方が速い。後述する「電子書籍はページめくりが遅い」問題ともからみますが、パラパラめくってみて何となくこれかも、のような目星の付け方は電子書籍は苦手です。

また、これも後述する「電子書籍は画面が小さい」ことに起因する問題として、電子書籍は一覧性が悪いということもあります。紙で読むと表紙・背表紙で何となく内容を覚えているということも多いので、本棚で一瞥して一発で本が探せたりするのですが、いかんせん電子書籍だと一つの画面で表示できる本の数が限られているので一覧性が小さいのです。

更に、電子書籍はアプリが複数あることも鬼門です。これはいわば書斎がいくつもあることに相当し、一つのアプリ(本棚)の中になくとも他のアプリならあるかもしれないと思うと、たとえキーワードが決まっていてもなお何度も検索するハメになります。紙の本であれば多くの場合は一つの部屋にまとまっているので何度も検索する必要はありません。

2.早く読みたいなら電子書籍、速く読みたいなら紙の本

電子書籍の良いところはなんといっても読みたいと思ってからすぐ読めることです。この重要性は非常に高い。本を読みたいと思う気持ちは、その本に出合ってから指数関数的に下がっていきます。すぐに読めることは読書スピードも吸収率も上げるので、紙の本が届くことにかかる時間以上に時間効率を上げてくれます。何なら、「あとで紙で買おう」と思った本は多くの場合は買われずに終わるのではないでしょうか?読みたいと思った本を確実にいま読むためにも電子書籍は有益です。

(だからこそ罪なのはiPhoneやAndroitのアプリからKindleの電子書籍を買えないことですよ。GoogleとAppleがAmazonと対立しているため、AmazonがAppleやAndroidのアプリでは電子書籍を買えないようにしているのです。まぁブラウザから買おうと思ったら買えますけれども、ブラウザからAmazonに行こうと思うとアプリに飛んで買えないという場面にもしばしば出くわします。ブラウザを調整している間に間に萎えてきたりするので、電子書籍の「すぐ読める」機能の幾分かを既存してしまっています)

他方で、いざ手元に来たら電子書籍よりも紙の方が読むのは速い。これは2つの要因に起因していて、一つは電子書籍はディスプレイが小さいということ。パソコンの大画面で電子書籍を読んでいる人は稀で、多くの場合は携帯のアプリか電子書籍専用のタブレットで読んでいるでしょう。どちらも紙の本と比べるとディスプレイが小さいため、単純に一覧性が低くて読むのが遅くなります。マンガのように無理やりその小さい画面にページを収めようとしている場合は文字が小さすぎて読みにくいという問題も起こります。紙はいわば大きなディスプレイが大量にある状態だから読みやすいのです。

もう一つ、電子書籍はめくるスピードが遅いという点も難点です。1ページずつ順番に読む場合ならかろうじて耐えられるものの、「全体をパラパラめくって面白そうなところを読みたい」ような場合にはまだまだ遅すぎる。Youtubeなどの動画であれば、経過時間のスクロールバーを動かすとその場面が小さいウィンドウになって、どの場面かがざっくりわかるようになっているじゃないですか。あの機能は動画の検索機能を各段に高めているわけですけれども、電子書籍にはあの機能がまだまだ足りない。つまりぱらぱらと流し読みして面白そうなところで止めたい場合には紙の方が便利なのであります。無論、この機能については今後の改善で紙に追いつく・追い越す可能性は十分にあります。

3.大きい画面で読みたいなら紙、ただし…

前述の通り電子書籍の難点は画面が小さいことです。しかし中には画面の大きさが重要な書籍もあります。美術系のように細部の観察が重要だったり、あるいはマンガであっても見開きの大画面でこそ映える場面というのがあるのです。スラムダンクの最終話で桜木と流川がパシィッ!!とハイファイブするあの場面、小さい画面で分割されたら萎え萎えじゃないですか?あれは紙の大画面でこそ見るべき場面なのです。

とはいえ紙にも難点はあり、それは見開きの中心、いわゆる「のど」の部分は見にくいということ。それこそ美術作品を見開きで見せる場合は、こののどの部分が見えないことは欠点になると言って差し支えないでしょう。マンガの場合も、普通はのどには重要なことは描かないことになっているとはいえ、のどなしに切れ目なく大画面で読めた方がよいことはあります。その点ではパソコンの大画面で読むのが正解ということになるのかもしれません。

4.保存したいなら絶対に紙

この信念は年々強まるばかり。電子媒体の情報はいつか消えると思わねばなりません。昨日読めていたはずのニュースが今日は消えていて「なかったこと」になっているなんて日常茶飯事。有象無象のネットニュースだけではなく大手新聞社も過去の記事をどんどん消しており、しかも時系列で消しているわけではなく恣意的に記事を選んで消しています。なかったことにしないためには紙の媒体で保存せねばなりません。

これはニュースに限らず本でも同様です。実はKindleなどの電子書籍は、紙の本と異なり所有権がありません。Kindleの利用規約には明確に「Kindleコンテンツは、コンテンツプロバイダーからお客様にライセンスが提供されるものであり、販売されるものではありません。(略)お客様個人の非営利の使用のみのために、該当のKindleコンテンツを閲覧、使用、および表示する非独占的な使用権が付与されます」とあります(太字は筆者)。閲覧する権利が与えられている形態であるため、図書館に似たているとも言えます。故にそのコンテンツは購入後も変化し得ますし、何なら閲覧できなくなることもあります(過去にそういう事件もありました)。本の著者や作品に出てくる俳優などが不祥事を起こしたことによって発禁になったり内容が改変されてしまったりすることもあり得るでしょう。そういったことを望まないのであれば、プラットフォーム側に勝手に書き換えられたり消されたりしない紙の形態で保存しておく必要があります。

そして、プラットフォーマーは往々にして短命であるということも忘れてはなりません。「永遠にever記録を残す」という触れ込みでリリースされたevernoteは10年余りであえなく頓挫しました。2022年には、子供の写真共有アプリwellnoteが急にサービスを停止すると発表して全国のパパママが阿鼻叫喚になった事件もありました。Kindleだっていつまで続くかはわかりませんし、ましていま雨後の竹のように乱立しているマンガアプリなんてそのうちどれかが確実に消えていきます。音楽家の鷺巣詩郎さんは「最も信頼できる音楽の保存媒体は今でも楽譜だ。1,000年以上音楽を保存した実績があるのだから」と仰っています。たしかにいま私たちが音楽を聴いている媒体って10年単位で変わってきているんですよね。レコード、CD、MD、IC、そしてストリーミング…。1,000年先まで保存しようとは思わないまでも、いま私たちが使っている電子媒体はわずか50年前には存在しなかったことを考えると、50年先まで保存しようとしたら今でもやっぱり最も信頼できるのは紙なのです。従って、子供の写真のようにずっと保存しておきたいような思い出の本だとか、あるいは希少性が高い本などは紙で保存したいところです。

マンガアプリがそのうち消えると書きましたが、しかし私は8割以上のマンガを電子書籍で読んでいます。発行部数が多いため、後で紙でほしくなっても中古で手に入る可能性が高いからです。一般書籍も、国立国会図書館に行けば何とか閲覧は可能という点ではバックアップはあると言えるでしょう。この観点では、実は誰も保存しようとしていないような広告やパンフレットなどに書かれていることなどの方が紙で残す価値が高いと思っています。

5.共有したいなら紙

8割以上のマンガを電子書籍で読んでいると書きましたが、妻も好きなマンガは紙で買って共有しています。こういうことは電子書籍ではなかなかできません。アカウントを共有したらいいじゃないかって?そんなこと論外of論外ですよね。いま私のKindleは不本意にもAI画像であふれてしまっています。人類はもうAIに負けました。こんなKindleアカウントを妻と共有するわけにはいかないのです。

ジャンル別使い分け

専門書は紙+電子書籍

文字が多い専門書は紙の方が読みやすいことが多く、基本的には紙で読みます。「パラパラとなんとなく検索したい」ことも多いので紙は便利。しかし同時に特定のキーワードで検索したいと思う場面も多いので、そう思った瞬間に電子書籍も買うようにしています。

マンガは電子書籍

上記の通りマンガの8割は電子書籍です。HUNTER×HUNTERやデスノートでもない限り文字が大量に詰め込まれることはありませんし、スキマ時間に読みたいと思うことが多いコンテンツでもあるからです。しかしながら大画面だからこそ活きる絵もあるので、そういったものは紙で読んでいます。『風の谷のナウシカ』の原作はその一例。

美術本は紙

美術の造詣が深いわけではないのですが、惚れ込んだ映画の絵コンテや美術設定画集などはちょくちょく買っており、これはやはり良質な紙で堪能したいところです。例えばこれ、『ジ・アート・オブ シン・ゴジラ』。それはもう素晴らしい美術の連続なのですが、これをKindleで読むのはさすがに無理がある。いや、大型のディスプレイで表示すれば意外と美しいのかもしれませんが…

絵本は紙

今でも絵本を電子書籍で子供に見せている親はほとんどいません。そもそも電子版がなかったりします。この理由は上記の理由の複合的結果だと捉えられ、(1)検索するニーズがない、(2)早く読む必要がない、(3)大きい画面が重要、(4)思い出の本になる、(5)家族で共有したい、という背景があるのでしょう。Youtubeをスマホで見せている親でも絵本はそうはならないのは相応の理由があると思われます(なお絵本を読み上げてくれるYoutubeは存在し、一定の需要はあるようです)

番外編:電子書籍のアカウントはジャンル毎に分けよ

以下は全て友人からの伝言です。

アプリが乱立していることで電子媒体上の本棚がバラバラになってしまう問題はあるとはいえ、本棚をジャンル別に分けることができるという捉え方も可能だ。というのも、今の電子書籍はどれもこれも本棚の中で本を自由に並び替える機能が弱い。せいぜい「最近読んだ順」「最近買った順」に並び変えるくらいしかできない。そうすると何が起こるかというと、ジャンルがぐちゃぐちゃになってしまうのである。金融なら金融、育児なら育児、マンガならマンガとジャンルを分けないと、特定の分野に集中したいときにもいちいち目移りしてしまう問題が起きる。いわば会社の本棚にマンガが紛れているような状態であり、職務遂行に支障をきたす。

特に問題なのがDMMブックス。君のことだよ。あろうことかFANZAと同じアプリというのはどういうことだ?ド真面目なジャンルの本も売ってるのにえっちな本も大量に販売しているせいで真面目な本を読めないじゃないか??プラトンの『饗宴』の隣に『らぶらぶ6P電撃温泉♡』みたいな本が並ぶ本棚なんてないだろ。そりゃ饗宴じゃなくて狂宴だ。わしはプラトニックな勉強がしたいんだ。なのに、いつぞやの90%還元セールとかいう意味不明なキャンペーンに乗せられて勉強系の本もえっちな本も大量に買い込んだわしがアホやったんや。未だに当時の勉強系の本はまったく頭に入っていない。無駄of無駄だった。アプリ毎に、せめてアカウント毎に本のジャンルを分けろ。

だそうです。ご参考まで。

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