見出し画像

子どもたちの学ぶ権利 | すべての子どもに絵本を配る | 平田 オリザ

ビッグイシュー406号の特集『コロナ禍で考えた“民主主義”』に寄せられた7つの寄稿を、毎日1本紹介しているこのシリーズ、今日を含めて残り3日です。
これを読んでビッグイシューを買ってみようって人や興味を持つ人が1人でも増えてたら嬉しいなあ。
販売場所はこちらで確認できます: https://www.bigissue.jp/buy/

(路上販売されている方たちは結構な確率でバックナンバーも持っています。聞いてみてください。)

子どもたちの学ぶ権利 | すべての子どもに絵本を配る | 平田 オリザ

この一年、私たちはとにかく「健康」を守らなければならなかった。そのために国民の行動は制限されたが、まあ仕方のないことだろう。「最低限度の生活」を守ために国民への給付や企業への融資なども工面された。では「教育」はどうだろう?

今思えば粗暴な措置だった昨年3月の一斉休校の後、全国の教育委員会は授業の遅れを取り戻すことに必死になっている。だが、子どもたちから取り上げられた「文化的な最低限度の生活」への救済措置はどうだろうか? 図書館さえも閉められてしまった中で、マスクを全世帯に配るなら、一人親世帯に絵本を配るような政策もあって然るべきだったのではないか? 低所得者層に限ってNetflixやAmazon Primeを一定期間無料開放するといった施策も考えられただろう。

コロナはその国、社会、民族の弱い点をつく。日本には、HOUSEはあっても「STAY HOME」できない人間が一定数いる。
「社会包摂」という視点の弱さ、そしてそこへの対応が、日本の今後の社会課題だ。

■ 感想とか

具体的に提示されている施策案の実施は現実には難しいところはありそうな感じもしますが、ただ、「子どもの教育を受ける権利」をないがしろにしてしまったのは事実ですよね。そしてその権利は「文化を楽しむ力を育む機会」を間違いなく含んでいます。

おれは相当びっくりしたんだけど、子どもの教育に関して「貧富の差が教育の差につながることは仕方がないこと」という考えを受け入れる親が、ここ数年でどんどん増えているそうです。
「貧富の差が教育の差につながっている」ことは、悲しいけれど事実だと思います。実際、現状そうですよね。でも、今そうなっているからと言って、それを「しょうがないこと」と受け入れてしまってはダメだと思うのです。
自分が働く職場とか業界とかなら、「まあしょうがないよ…」というのも悲しいけれど仕方ないことでしょう。でも、子どもの教育でそれを受け入れてしまったら、次世代にも、そしておそらくはその次にもその次にもど、どんどんそれが未来へと引き継がれて常態化してしまうんですよ…。
オトナの皆さん。ここはしっかりNOを突きつけましょうよ!!

ところで、おれにとっては平田 オリザ氏といえば『下り坂をそろそろと下る』です(『わかりあえないことから』も好きだけど)。

1. 自国の文化を愛し、それを標準として他者にも強要してしまう人
2. 自国の文化を愛しつつも、それが他の文化にとっては標準とはならないことを知って、適切に振る舞える人
3. 自国の文化に違和感を感じ、それを強制されることに居心地の悪い思いをしている人。あるいは、自国の文化に自信を持てずに、他国の文化を無条件に崇拝してしまう人
4. 自国の文化に違和感を感じても、それを相対化し、どうにか折り合いをつけて生きていける人

2と4を増やすのが異文化理解であり、相互交流であると、『下り坂をそろそろと下る』には書かれています。

さて、コロナ禍での日々で、私たちは国際比較をする機会にたっぷりと恵まれました。
かつて、これほど世界同時進行で同じ問題に取り組まなければならなかったことはおそらくなかったですよね? 少なくとも、おれは聞いたことがありません。
さまざまな国や民族により、アプローチが異なること、そしてその要因がそもそもの文化とそれを生み出してきた考え方の違いにあることを目の当たりにしました。

日本…どうでしょうか?
おれは、これほどまで<1. 自国の文化を愛し、それを標準として他者にも強要してしまう人>が多い国だと思っていませんでした。いや、多いのは分かっていましたよ、でも、これほどまでとは…。

そしてもう一つ。
おれは、日本は「海外のいいとこどりが上手な国」というイメージをこれまで持っていました。「カイゼン」だったり「モノマネ」だったりが大得意で、「ベストプラクティス」が大好きな国だと。
でも、どうやら違っていたみたい。あるいは、それは過去の話だったみたい。


諸外国が試行錯誤しながらワクチン接種を進める様子をCNNやBBCなどで見ていただけのおれみたいな素人でも、何がボトルネックになるか、何をすればどんな議論が起きるか、そのために何を最低限準備しておくべきかなどは大体推測がつきました。
でも、接種開始までの数カ月のタイムラグがまったく活かされていない…。

『下り坂をそろそろと下る』からの引用をもう二つ。

私たちは、そろそろ価値観を転換しなければならないのではないか。雇用保険受給者や生活保護世帯の方たちが平日の昼間に劇場や映画館に来てくれたら、「失業してるのに劇場に来てくれてありがとう」「生活がたいへんなのに映画を観に来てくれてありがとう」「貧困の中でも孤立せず、社会とつながっていてくれてありがとう」と言える社会を作っていくべきではないか。そしてその方が、最終的に社会全体が抱えるコストもリスクも小さくなるのだ。失業からくる閉塞感、社会に必要とされていないと感じてしまう疎外感。中高年の引きこもりは、やがて犯罪や孤立化を呼び、社会全体のリスクやコストを増大させる。
本当に、本当に、大事なことは、たとえば平日の昼間に、どうしても観たい芝居やライブがあれば、職場に申し出て、いつでも気軽に休みが取れるようにすることだ。職場の誰もが、「あいつサボっている」などと感じずに、「なんだ、そんなことか、早く言ってくれよ。その仕事なら俺がやっておくよ。舞台を楽しんできな」と言い合える職場を作ることだ。
それが、私が考えるコミュニケーションデザインであり、コミュニティデザインだ。そのためのコミュニケーション教育だ。

■ おすすめバックナンバー

ビッグイシューは3冊以上で通販でも購入できます。
というわけで、おれのおすすめバックナンバーはこちら。

画像1

特集 | タネ、食の安全保障
国際記事 | コロナ禍の英国で、アイディアあふれる活動
国内記事 | 世論調査NOW! 新型コロナは、政府と憲法をめぐる世論を変えるかー三春充希


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?