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2019.12.29

「美味しいだけが料理じゃない」

みたいなことを誰かが言っていました。

全然流行っていないけど、食べてみるとすごく美味しいお店もありまし、専門誌やメディアに取り上げられるお店がすべて連日満席なんてこともあり得ません。めちゃくちゃ美味しいけど潰れてしまうお店もたくさん見てきました。

逆に行列が出来たり流行のお店で実際食べてみるとガッカリすることも結構あります。ただ大体そういうお店は長続きしていない気がしますが。

何が言いたいかというと、それでも僕は結局レストランは「美味しい」がすべてだと思うのです。

ただ、大切なのはお客様が美味しいと「感じる」こと。心から美味しいと感じるのは、その時間を通して心が満たされることで生まれると思うのです。

僕が東京で働いていたレストランの尊敬するサービスマンが「100点の料理を120点にしてサービスする」と言っていましたが、逆に100点の料理がそれ以下になってしまうこともあります。どれだけ美味しくてもサービスが最悪だったり、居心地が悪かったら料理の美味しさは伝わりません。100点の料理を100点のままお客様に届けるっていうのは結構大変なことだと思います。

僕の尊敬する和歌山県のvilla aidaの小林シェフが著書の中で「料理と空間の世界観を整えること」が非常に大切と仰っていました。

例えば能登のホッとするような自然の恵みを表現した料理なのに、キラキラと輝いた器に盛られ、煌びやかな空間でゴージャスなカトラリーがセットされている。これではせっかく僕が料理に込めた思いは伝わらない。お客様は僕が料理に込めた思いと空間の違和感を感じ、それがストレスとなりせっかくの美味しい料理も美味しくなくなってしまう。そしてそれは作り手である僕たちのストレスにも繋がります。

本当に料理で自分の作りたい世界を表現するなら、食器やカトラリー、合わせるワインなどの飲み物、お店のテーブルや椅子、お店全体の空間、更に言えばお客様が駅からお店まで来る間にどのような景色を見るのか、お店がどんな場所でどんなロケーションにあるのか、そこでどんな時間を過ごすのか。そこまで全部ひっくるめて自分は「料理」と考えています。大袈裟かもしれませんが、どれか一つでも欠けていたら、僕の中のどこかに妥協があるのです。

僕は店名の頭に「Villa」と付けたのは、将来的には自宅と宿泊施設を併設し、庭で野菜を作ったりしながら生活できる一つの集落的な空間を作りたかったからです。なのでお店を開いてからもずっと理想の場所を探して続けていました。


昨年の夏、七尾市内のある場所を見に行きました。その辺りはちょうど七尾湾の奥まった海沿いの場所で、僕が初めて能登を訪れたときに波が穏やかな海の景色が印象的でそれが平和的に感じられ、店名を「Pace」と付けたきっかけになったエリアです。昔は海水浴場として使われていた場所で、その後は町会の集会所になり、今は何も使われていません。直感で、「この場所で料理を作りたい」と思いました。自分の気持ちを確かめるようにそれから何度も足を運び、その度にその場所で料理を作る将来の自分の姿を思い描くようになりました。


1年以上かけた交渉の末、その場所は正式に使えることになり、僕のお店はその場所に移転をすることが決まりました。オーベルジュとして生まれ変わります。時期はまだ正式に言うことはできませんが、早くても来年の秋以降になります。しばらくは今のお店を営業しながら、準備を進めていこうと思っています。

お店づくりは僕だけで出来るものではありません。実際に店舗を設計をするのも工事をするのも僕ではありません。家具やカトラリー、器も作れません。僕が作れるのは料理だけで、あとはそのイメージと世界観を伝えること。今回移転に関わってくれる人達すべてが僕の世界観を共有できるよう1年以上かけて話し合い、理解してくれる素晴らしいチームが出来上がりつつあります。


来年は大きな挑戦となりますが、楽しみながら進めていこうと思っています。ここまでの経緯や、進行状況も追って記していくつもりです。

2019.12.29

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