22歳男性、初めて新宿へ行く(2024.6)

出張で東京に5日間滞在した。
初めての東京を仕事のついでに済ますのは良い気がしないが、仕事でもない限り東京に行く機会なんてない。私のフットワークはそれくらいの狭さでやらせてもらっている。

仕事で行くので、観光に使える時間は日が沈み始めた頃。行きたかった美術館や展望台は既に閉まってしまい、夜の東京しか楽しめない。少し残念な気持ちも抱えていたが、結果的に、初めての東京は外だけで十分に楽しめた。あと二回くらいは外だけで楽しめると思う。


一日目は、長距離移動with大きな荷物と仕事の忙しさでくたくたになったまま、新宿へと向かった。学生時代の友人と飲む約束をしていたのだ。

改札を出ようとして、一つ目の問題が訪れた。

どこの出口から降りるのが正解か分からない問題

電車が新宿駅に到着し、ホームを下っている最中、私は焦りながらLINEを送った。

ついた
どこからおりるの
たすけてくれ
どうすればいい

一向に既読が付かない。
ええいままよ、と西口から降りた。
目の前には全然見たことない景色が広がっていた。
何、このタクシー乗り場みたいなとこ。
ホテルの入口?なにここ。
困惑していると、友人からlineがきた。

東口を出たとこにいます

少し冷や汗をかきながらも、まだ余裕があった。
だいたい都心の駅は出口がいっぱいある。
私がよく利用している大阪駅でも、中央北口と御堂筋口、桜橋口などいろいろある。
産まれて初めて大阪駅を降りた時も、同じような困惑をした。しかし、結局ふらふら歩けば、改札外に出たあとでも御堂筋口から中央口まで回り込める。
いくら新宿とはいえ、大阪駅と同じように、ふらふら歩けば東口まで行けるだろ。私は東京をなめていた。
回り込もうと改札の外を歩くも、バス乗り場へと向かう道ばかり。私のイメージでは、バス乗り場に向かっても、バスしか乗れない。決して東口に回り込むことは出来ないだろう。「←バス乗り場」や「↑バス乗り場」という看板ではなく、「新宿東口→」という看板を探しているのだ。
探しているのだ。
探しているのに。
全然見つからない。
もう改札の中を通らずして東口に着くことは不可能なんじゃないか。そのとき改札内に戻るという選択肢がなかった私は、もう合流することは不可能なんじゃないかとさえ考えた。
そんなとき、着信が鳴る。

「助けてくれ」
「今何が見える?」
「新宿の○○ビル。入った方が良い?」
「いや、それは」
「あ、これ入れなさそう」
「そうだな、それは入れないと思う」

友人に一度改札口まで戻され、東口への道のりを教えてもらった。
途中Twitterでよく目にする、長ーいポスターが飾られがちな道に出た。あれがネットで見たあれと一緒のものなのか判別は出来なかった。
呪術廻戦のスマホゲームのポスターが貼られていた。

途中、スタジオアルタの地下に入った。
そういえば昔、笑っていいともの増刊号か何かで一度映されていたような気がする。高揚しながら階段を上る。
地上に降り立つと、新宿の東口が見えた。NCT DREAMのポスターがでかでかと貼られている。
そんなことより、人が多い。後から思い返せば大阪駅も、駅前の横断歩道で多くの人が並ぶ。人数はさして変わらないと思うのだが、その時は「東京やっぱ人多いな」と感じた。これが東京バイアスか。

友人となんとか合流し、先導されながら歌舞伎町へと向かった。
ここでやっと、脳内で「歌舞伎町の女王」が再生される。

JR新宿駅の東口を出たら
其処はあたしの庭 大遊戯場歌舞伎町

あ、そっか、新宿駅と歌舞伎町の位置関係ってそうだったのか。
東京に行ったことない田舎もんからして、東京ってそんなところなんです。
どことどこが近くて、どこが遠いのか、まるで分ってない。東京駅から新宿駅まで、電車でこんなに時間がかかることも知らなかったし、新宿駅から歌舞伎町は歩いてすぐそこだということも知らない。
だから、YouTubeなどで漫才・コントを見ていると、それなりの頻度で「きっとこれ面白いんだろうな」笑いをする。東京のコント師、漫才師の一定数は、東京以外の人間を置いていく。私はそれが少し寂しい。
この日以降まだ一度も「歌舞伎町の女王」を聴いていないが、次に聴くときは今までと違った耳心地だろう。

店を予約していなかった我々は、歌舞伎町を闊歩しながらご飯を探した。
地面にばらまかれた黒い名刺。地雷系ファッションの女性二人組に声をかけるも全く相手にされない男性。予約してないのに予約した客だと言い張る外国人。それらを見下ろすゴジラ。その下にでかでかと貼られたぼっち・ざ・ろっくのポスター。テレビやネットの世界に入り込んだみたいで、ずっと現実味がなかった。いや、むしろ現実すぎた故に、画面の前で見ていた景色とギャップがあったのかもしれない。
22年間で私が描いてきた「東京」像は、やっぱり頭の中だけの虚像だったのだ。

その後、友人と近況を語り合い、歌舞伎町タワーや大久保病院周辺、ホスト街などを探索し、1日目を終えた。
改札内でそれぞれの電車に乗るために解散したが、そこで口ずさんだ「チーム友達」は、通りゆく人の耳に残ることはない。


続?

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