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CAFC判決:誤記の取扱い

本日は、誤記の取扱いに関する最近のCAFC判決を2件紹介したいと思います。

1. Pavo Solutions. LLC v. Kingston Technology Company, Inc. No. 2021-1834
裁判所による誤記訂正および誤記と侵害の故意との関係

1件目は今年の6月3日に出されたこちらの判決です。
本事件では、特許クレーム中の誤記を裁判所が自発的に訂正することの可否(訂正が認められる場合の要件)と、クレームに誤記があった場合に侵害の故意を否定できるか、という点が主な争点となりました。

事件の背景

本特許(USP 6,926,544号)はフラッシュメモリに関するものであり、下記のように、カバーの部分が回転する構造を特徴とした特許となります。

特許6,926,544号【図1】(注釈は著者による)

本件特許では、独立クレームに記載されていた「フラッシュメモリ本体(30)に対してケース(31)が回転する」という記載が問題となりました。

上記の図をみていただければわかると思いますが、本件のフラッシュメモリの基本的な構造は「フラッシュメモリ本体(30)」と「カバー(40)」とから成っているため、「フラッシュメモリ本体(30)」に対して回転するものといえば、「カバー(40)」であることは一目瞭然です。
ただし、本件特許ではこの「カバー」となるべきところが「ケース」と記載されていた上、そのまま権利化されてしまいました。

そのため、特許権者(Pavo)側による侵害の訴えに対し、Kingston側は非侵害を主張する(ケースは回転しないから)と共に、仮にこれが侵害に当たるとしても、(誤記を含んだ)クレームの文言通りであれば権利侵害に当たらない、と信じて実施していただけなので、侵害の故意が認められない、と主張しました。

争点1:裁判所による訂正の可否

本件では、連邦地裁において上記クレームの誤記が職権で訂正されました。

これに対しKingstonは、裁判所が誤記を訂正するのは許されない、といった旨の主張をしています。しかし、CAFCは裁判所による訂正が認められる場合の基準を示した上で、本件の訂正を適法と判断しました。

即ち、
①前提として、訂正の対象となったのが明白な誤記で書き間違い(obvious minor clerical error)に当たること、
②合理的な議論の対象(subject to reasonable debate)となっていないこと、かつ
③審査等において異なる解釈が示されていないこと、
という要件を満たす場合であれば、裁判所による訂正が認められるとしました。

本件では、①~③の全ての要件を充足することがCAFCによって確認されました。

争点2:侵害の故意は成立するか

訂正が認められたことで、Kingstonの実施製品は本件特許の権利範囲に入る(専門的にいえば文言侵害が成立する)と判断されたKingstonですが、「自分たちはクレームが訂正されるなんて予想できなかった」、「訂正前のクレームであれば自分たちの製品は権利を侵害しないことは明らか(要するに、自分たちは侵害をしていたという認識はない)だから、侵害の故意が否定される」、と主張しました。

結論からいえば、Kingstonの主張は完全に否定され、侵害の故意が認められました(ただし、懲罰的損害賠償:punitive damageの適用は見送られました)。

CAFCの判断は、今回の誤記は明らかであり、明細書の記載等からも正確な権利範囲を把握できていたハズだから、侵害は意図的なものと認められる、といった主旨になります。

所感としては、シンプルに妥当な判断かな、というところですが、認められなかったとはいえKingstonの主張も面白いなぁ、という印象を受けました。
なお、本件では証拠調べの中で出てきた専門家証言の取扱いについても争われていますが、その点は割愛させていただきました。

2. LG Electronics inc., v. Immervision, Inc. No. 2021-2037, 2038
誤記は先行技術になるか

2件目は、今週月曜日、7月11日に出されたこちらのCAFC判決であり、誤記の部分が先行技術となって後願の特許出願発明の特許性を否定できるか、という点が争われたケースです。

具体的には、対象特許(USP 6,844,990)よりも先に出願・公開された特許出願によって公開された内容が対象特許の非自明性に影響を与え得るものであった場合において、当該記載が誤記と認められる場合でも先願としての地位(後願排除効)は認められるのか、という点が争点となりました。言い換えれば、誤記に後願排除項があるのか、という点が問われました。

結論としてCAFCは、当該誤記部分は当業者にとって明らかなものであり、記載は無視されるべき性質のものであるから、後願排除効が発生しないと判断しました。

個人的には、誤記であろうと何であろうと実際に記載がある以上、発明への示唆を与え得るように感じられるので、逆の判断が出ても不思議ではなかったように感じています。時間があれば、CAFCによる理由付けなど深堀してみたいと思います。


なお、1件目の事件については、今年の12月25日に予定されている弁理士会の研修(国際活動センター米州部判例セミナー)の中でもう少し詳しく紹介させていただく予定です。弁理士限定になってしまいますが、E-Learningとしても動画が残るはずなので、もしよろしければご覧いただければと思います。
また、2件目の事件も誤記繋がりということで上記セミナーの中に追加してしまおうかな~、と考えていますので、もしかするとこちらの事件も併せてご紹介できるかもしれません。

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