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NFTの取引きは商標権で保護されるのか

Hermès v. Rothschild

NFT(NonFungible Token)、いわゆる代替不可能なデジタルデータが使われ始めて以来、知財の世界ではこのようなデジタルデータをどのように保護することができるのか、といった議論が活発にされています。

ブロックチェーンを使ったシステムについては、一般的なソフトウェア発明と同様に特許による保護も可能ですが、いわゆる「もの」として取引されるデジタルデータ(NFT)については、商標権による保護が期待されているのかな、と思います。

とはいえ、商標権の登録は、商標(いわゆるマーク)と、商品・サービス(マークを付す対象)をきちんと特定した上で行われるものであるため、これまでマークを付す対象として存在していなかった(あるいは法による保護が想定されていなかった)NFTというものを、既存の商標権で保護できるのか(商標権の保護は現実世界を超えて仮想空間にまで及ぶのか)というのは大きな話題となっています。

今回ご紹介するのは、NFTに対する商標権の保護が初めて主張されたケースであり、今週水曜日、2023年2月8日にニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所(U.S. District Court for the Southern District of New York)で判決が言い渡されました。

【事案の概要】
アーティストのMason Rothschild氏が、自己の作成したNFT、”Metabirkins”(メタバーキン)100個を出品したのに対し、エルメスが商標権の侵害を訴えた、というのが本件です。

エルメスの訴えに対しRothschild氏は、合衆国憲法修正第1条により、アーティストである自分の作品は憲法(表現の自由)により保護される、NFTはエルメスの商品とは類似しない(マークを付す対象が異なる)、という反論をしたようです。
の反論は、商標権の権利範囲は現実世界でのみ有効であり、仮想空間には及ばない、という主張と言い換えて考えて良いかと思います。

【判決内容】
連邦地裁裁判所は、Rothschild氏の主張をいずれも認めず、商標権侵害と、不当な利益を得ることを目的としたドメイン名の取得・売買行為(サイバースクワッティング:Cybersquatting) があると判断し、商標権侵害に対して11万ドル、サイバースクワッティングに対して2.3万ドルの損害賠償を支払うよう命じました。

【所感】
本件は、商標権の保護がNFTにも及ぶことを米国で初めて判示した件として非常に大きな意味を持つ事例ではないかと思います。
もちろん、まだ地裁での判決であるため、このあと連邦高等裁判所に上訴される可能性があり確定しているわけではないですし、仮に確定しても地裁の判断ということで、今後の議論に対してどの程度の影響力を持つのか、という点は未知数ですが、それでも大きな一歩目ではないでしょうか。

主張①については、アーティストとしての創造性があり、従来の製品と混同が生じないほどにオリジナリティがあれば保護を認める、とする過去の裁判例(Rogers v. Grimaldi)がありますが、本件は、画像を検索してみてみる限りでは色を替えただけじゃない?という印象です。
もちろん、配色だけで創造性が認められる場合もあると思いますが、私のセンスゼロな美術的感覚からは創造性がありそうな感じはしないです。中には多くの色を使い、柄模様も変わっているものもあるので、こうしたものは多少議論の余地がありそうですが、単色のNFTに関しては本来の製品との関連性が疑われない(混同が生じない)といえるほどの創造性を主張するのは無理があるのではないかな、と感じました。
特に、エルメスのバーキンという商品のブランド力、知名度の高さ(著名性)を考慮すると、混同が生じる心配がない、という主張はかなり苦しかったのではないかと思います。

主張②については、冒頭で触れた通り議論の余地があると思いますし、どこかで法による整備も必要なのかも知れません。
ただ、ここでRothschild氏の主張を認めてしまうと、議会で新法が承認されて施行されるまで、NFTのやり取りがされる仮想空間が無法地帯化してしまう虞があるため、法の解釈を活用し、既存の権利による保護を認めざるを得ない部分もある気がします。

余談ですが、唯一無二のものだったとしても、デジタルデータ(NFT)を所有して何が嬉しいのだろう・・・というのが私個人の正直な本音なのですが、そう思うのは、若者の感覚についていけなくなったおじさんだからなのでしょうか。笑

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