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USPTO新ガイドラインの発表

2024年1月10日付で、実施可能要件 (Enablement Requirements) に関する新たなガイドラインが米国特許商標庁 (USPTO) から出されました。

ガイドラインの全文はこちら

新ガイドライン概要

今回のガイドラインは、昨年に出された最高裁判決 Amgen v. Sanofi を受けて作成されたものになります。

なお、Amgen事件はバイオ関連技術の事件ですが、新ガイドラインは、審査及び審判において実施可能要件(米国特許法112条(a)項)を検討する際、技術分野に関係なく適用されるとのことです。

但し、何かが新しくなったというよりは、Amgen判決は出たけど、実施可能要件に関する考え方はこれまでと大きく変わるようなことはないですよ、というのを通知するのが本ガイドラインの趣旨のようです。
もちろん、Amgen判決を無視するという意図ではなく、①Amgen最高裁判決は新たな基準を導入するものではなく、②最高裁は、CAFCが採用したこれまでの判断要素(Wands Factors)の適用を否定していない、といった理由から、従来のWands要素に基づく判断方法がこれからも有効であるという宣言するようなもののようです。

Wands Factors

Wands Factorsは1988年の連邦高裁判決 In re Wands, 858 F.2d 731 (Fed. Cir. 1988) において示された、「クレーム発明の全範囲を実現するために必要となる実験の負担が合理的なものか」を判断するのに用いられる要素となります。

即ち、実施可能要件を具備するか否かは、明細書の記載により、当業者が、クレーム発明の全範囲を過度の実験を要することなく実施できるか、という観点で判断されますが、何をもって「過度の実験」となるか(言い換えれば、合理的な負担か)を判断するための要素がWands Factorsといえます。

具体的なWands Factorsは以下の通りです。
(1) 求められる実験のクオリティ
(2) 明細書により与えられている方向性・ガイドラインの程度
(3) 実験結果の有無
(4) 発明の性質
(5) 先行技術の状況
(6) 当業者の相対的スキル
(7) 当該技術の予測可能性
(8) 権利範囲の広さ

まとめ

実務家の視点としては、今回のガイドラインが出たことで何かが変わる、というのはあまりないかな、と感じています。
逆に言えば、実施可能要件を判断する際、USPTOや地裁・高裁はこれからも同じ判断基準(Wands Factors)を使って実験の負担の合理性・妥当性を判断してくるはず、ということを確認できた点が本ガイドラインの意義になるのだと思います。


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