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家族愛と不理解──メギド72「不死者バエルの切なる願い」感想文


それからしばらくして…あいつは老人みたいにしわくちゃになって…死んだの
最後まで…私の名前を読んで…せめてお前だけは生きてくれって勝手な願いを口にして…

…吐き気がしたわ

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より


シビれるテキストですね。



絶望を希望に変えるRPGことメギド72にて現在復刻中のイベント「不死者バエルの切なる願い」。
不老長命で人外の力を使える追放メギド「不死者」であるバエルが、姉・プランシィにずっと隠していたその真実を初めて打ち明ける話になります。

物語を通して描かれる種族差を超えた家族愛の中でひときわ異彩を放つのが、主役であるバエル・プランシィ姉弟のバッドエンド対比といえるモブ、エリク・シール兄妹の存在。

どちらも成長しない追放メギドの男性と人間の女性。
しかしあまりにも純粋に「妹と生きる」ことに固執した兄・エリクとそんな兄の暴走を止められなかった妹・シールは、主役二人と違い悲劇を迎えてしまいます。何が二組のきょうだいを分けたのか?

(※この記事は去年にふせったーに公開した文章の改訂版となります)




まずエリクについて。
アジトのアスモデウスの言動を見てみましょう。

「元来ヴィータという生物はフォトンに完全に順応していない…だが魂が持つメギドの力により身体がフォトンに順応するようになる
力が強ければそれだけ順応率も高い
(中略)その中でも順応率の高い者がいわゆる『長命者』となり…」

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より

エリクは長命者に分類されるので、「力の強い」メギドといえます。当然追放メギドの中でもメギドの魂が強く、メギドの自我が濃い方になります。猟奇的な描写が目立ちますが、小動物やヴィータの扱いなど、メギド時代の延長と思うと不自然ではありません。

そんな強いメギドの自我を持ったエリクがただのヴィータである妹に強い愛情(愛着がより近いかも)を抱いてしまったことが悲劇の始まりとなります。

一方のシールは普通です。本当に普通のヴィータ。
兄の猟奇的な行動を諌めるが優しい彼を慕ってはおり、兄と隠れ住む生活も厭わない家族愛の持ち主です。
ただ彼女が「追放メギド」としてのエリクを受け入れていたかというと「否」といえるでしょう。

シールの言動を見てみます。

「ねえ、もうやめたら?そうやって毎日毎日生き物を切り刻んで…なんになるの?それを知ったら町のみんながなんて思うか…きっと不気味がるわ」
「ち、ちょっと成長が遅いだけよ もう少ししたらきっと身長も…」

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より


彼女は「不気味な行動をする兄」「成長しない兄」を受け入れられていません。これは生理的な嫌悪感も含まれるので彼女が悪いという話ではないのですが……。


「兄さん、なにも…なにも殺さなくても…!」
「だったらどうしろというんだ!こいつらはボクたちを殺そうとしたんだぞ!」
「で、でも…」

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より


迫害を受けて尚、シールは他人を気にかけます。
「はやく助けてあげないと」というセリフから、彼女が善い心の持ち主なのは間違いありません。しかし兄と他のヴィータの間で板挟みになり、「ボクがおとなしく殺されてれば…」と言わせてしまいます。

このシーンではシールの胸の内に僅かに存在する「おかしい自分たち(兄)に落ち度がある、迫害されても仕方ない」という気持ちが伺えます。


「…怖がらなくていい、シール 大丈夫だ…大丈夫」
「に…兄さん…おかしいわ…まさか本当に悪魔が…」
「…っ!」(シールを気絶させる?)

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より


直後のシーンです。

「シールに悪魔と言われた(受け入れられなかった)ことで、いよいよ一線を超えるエリク」の描写と言えるでしょう。

非人道的な研究に没頭していたエリクですが、実行には移していなかった。また移住を繰り返すつもりだったエリク、でもシールは嫌だと言う。他の人も助けたいと。

エリクの苦しまずに殺すというセリフから、元来命を軽視する人ではないことがわかりますね。おそらく妹の言うことを聞いてあげたかったエリクはここで最悪の閃きをします。
そしてその引き金を引いたのは、愛する妹の「悪魔」という言葉……。




兄によって人でなくなってしまったシール。
場面は飛んで、シールの回想に移ります。

兄さんは…悪魔に取り憑かれた…
優しかった兄さんは…もう…どこにも…いなかった…

「違う…あんたは『兄さん』じゃない!『悪魔』よ!兄さんを返してっ!この悪魔!」
「シール…」
その日から…兄さんに取り憑いた悪魔は…
より凶暴になっていった…

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より

昔から「優しかった」とはいえ猟奇的だった兄エリク。シールはそれを諌めながらも兄を慕っていました。
しかし彼女の中の「受け入れられる」ラインを超えると、彼女はエリクを悪魔と呼ぶようになります。

エリクは変わっていません。歪んではいますが、ずっと妹が隣にいることを望んでいる。
方法がいくら非人道的で「間違って」いたとしても、家族として愛してはいる。

「悪魔」と言われて行動が凶暴化するのも、おそらくショックを受けたのでしょう。



それからしばらくして…あいつは老人みたいにしわくちゃになって…死んだの
最後まで…私の名前を読んで…せめてお前だけは生きてくれって勝手な願いを口にして…

…吐き気がしたわ

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より


冒頭のシーンです。
家族間の、家族間だからこその、激しい拒絶。「BEHEMOTH」のアモンと父を彷彿とさせます。

もう「兄」と呼ぶことすらなく、吐き捨てるように言うシール。非常に人間らしい真の「家族愛」に満ちた最期の言葉を送るエリクと対照的に、エリクへの家族愛は消え失せています。

徐々に人間になっていく兄と徐々に人間でなくなっていく妹。愛失くした人は何になるか。

彼女は創造主を呪い自分を呪い、生き続けるだけの怪物となってしまいました。





バエルとプランシィに戻ります。
プランシィはシールと違い、人としてはちょっと、ううんそこそこ困ったところのある女性です。悪い人ではないのですが、口に出すのが憚られるようなことをバンバン言ってしまう人です。

しかし彼女はバエルの、コランの欲しい言葉をくれるのです。 

「違っててもいいの!コランちゃんがなんだろうとコランちゃんだもん!」

メギド72「不死者バエルの切なる願い」より

バエルの素朴な「明日も一緒にいたい」という願いを叶えたのは、抜けていて、大らかで、ちょっと困ったところのある姉・プランシィの言葉。

世間一般的に善い姉かはわかりません。でも彼らはこの対話を経て、人間か人間でないかを超えた「家族」の形に収まります。


エリクは確かにしてはいけないことをしました。
シールは善い妹でした。
コラン・プランシィ姉弟と彼らを分けたもの──悪魔の兄を、人間の妹を、目の前の人を愛してやること。

ただそれだけです。


原文(2022年7月2日):


大変おもしろいゲーム メギド72


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