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期待はずれの言葉に愛が、

ブルーハーツの「人にやさしく」を聴くと、わたしは父のことを思い出す。
散々ケンカもしたし、どちらかと言えば怒られてばかりだったのに、なんでかわたしの頭に浮かぶ父は、優しい顔で笑っている。

今だから言うけど、わたしは正直、父のことがちょっと苦手だった。

頑固だし、すぐに大きい声で怒る。
妹たちに比べて、不器用で要領の悪かったわたしは、それはそれは叱られた。
頭を叩かれたこともあれば、「ちょっと、そんな言い方ないでしょ」というようなキツイことを言われたこともある。

わたしも素直に反省して、ごめんね、と言えばいいものの、そこは頑固親父の娘というべきか。
「なんでそんな言い方するの?」と反抗して、ますます父の怒りをヒートアップさせる結果になった。

ケンカばかりのわたし達だったが、お互いに歳を重ね丸くなったんだろう。
年々ひどい言い合いをすることも減り、やがてわたしは夫と結婚するために実家を離れた。

結婚式の数日前。わたしは、花嫁の手紙に頭を悩ませていた。冒頭の挨拶は書けたけど、両親とのエピソードの部分で、筆がとまる。

「お父さん、わたしたちはお互い頑固で、よくケンカもしましたね。でも、」

わたしの頭に、黄色い表紙のアルバムが浮かぶ。18歳で、はじめて親元を離れた時、父が作ってくれたものだった。散らかったわたしの部屋。
みんなで食卓を囲んでいるところ。当時遊びにきていたネコ。出発の朝、玄関でピースしているわたし。写真の横に、一言ずつコメントがあって、最後のページは、父からの手紙だった。

詳しい内容は忘れてしまったけれど、手紙の最後に「頑張れ!!ぽん子。」と、そこだけ大きな文字で書いてあったことは覚えている。

わたしは、ブルーハーツの人にやさしくの歌詞を思い出した。

優しさだけじゃ 人は愛せないから
ああ 慰めてあげられない
期待はずれの言葉を言うときに
心の中では ガンバレって言っている
聞こえてほしいあなたにも ガンバレ!

そうか、と思う。もしかしたら、父は、ずっとわたしに「頑張れ」って伝えたかったのかもしれないな。かなり、わかりにくい形ではあったけど。

「しっかりしろ!」「世の中は甘くないんだぞ」「お前があとで困るんだからな!」

父には厳しいことたくさん言われて、正直傷ついたことが何回もある。
もっと優しい言い方してくれたらいいのに、っていつも思っていた。

だけど、厳しい言葉の裏側には、わたしが自分の力で生きていけるように、後で困ることがないように、そういう気持ちがあったのかもしれない。

そう言えば、実家を離れる少し前に、父と二人で食事をしていたとき。
「おれは、三人の中でお前のこと一番心配してたんだよ」と父に言われた。

「お前が幸せになってくれて、お父さんは本当にうれしいよ」そう言って、父は照れたように笑った。

そんなことを思い出したら、わたしは夜中のリビングで涙がぼろぼろ溢れて止まらなくなった。
泣きながら、わたしは花嫁の手紙の続きを書いた。

わたしは今でも、ブルーハーツを聴くたびに、父のことを思い出す。
甲本ヒロトの「ガンバレ!」の声の向こうに、不器用な父の「頑張れ、ぽん子!」という声が聴こえるような気がする。








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