シャッター

ベッドのへりに寝ころんでいる。体を横に向けている。部屋を眺めている。ベッドのすぐそばには椅子が置いてある。ベッドから外へ投げ出した両足を椅子の上に預けている。部屋を眺めている。冬から吊りっぱなしでクリーニングにも出せずじまいのコートを眺めている。夏が終わる。まとめられることなく地をさまざまに這う電気コードを眺めている。いつかつまずくと思う。洗濯物が干してある。生活を眺めている。いつかつまずく。

私はシャッターを切った。奥歯の横に仕込んだ(サイボーグ009の加速スイッチを真似ている)シャッターボタンを舌で押した。自分の視界が一瞬白く光って、その視界の画像は脳へ保存された。何気ない一枚であった。

人間の視界は実際の物体の長さや奥行きとはズレているという。網膜像の知覚像の違いだ。広大に見える山も、写真で見ると自分の目で見たよりもずっとちっぽけに見える。この今切り取った視界のうちどれくらいが真実なのか、誰にもわからない。わかることはない。

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