見出し画像

天気予報を漸化式で推測しよう

ローレンツアトラクタ

『宇宙人ⷶは数学̟を使って世界を理解しようとするのか』さま作成のローレンツアトラクタです
美しい動画なので引用させていただきました
ローレンツアトラクタとはローレンツ方程式という大気変動の簡易数学モデルの解を視覚化したものです
ちなみにローレンツ方程式とは
 $${\displaystyle \frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}t}=\sigma(y-x)}$$

 $${\displaystyle \frac{\mathrm{d}y}{\mathrm{d}t}=x(\rho-z)-y}$$

 $${\displaystyle \frac{\mathrm{d}z}{\mathrm{d}t}=xy-\beta z}$$

で、$${\sigma,\ \rho,\ \beta}$$ はパラメータで、この動画では
 $${\displaystyle \sigma=10,\ \rho=28,\ \beta=\frac{8}{3}}$$
初期値として
 $${(x_0,\ y_0,\ z_0)=(1,\ 1,\ 1\pm \{0,\ 0.001,\ 0.002 \})}$$
が与えられたものです
最初は1本の曲線と思っていたものが、$${z_0}$$ のわずかな誤差から分岐していく様子が見て取ることができます
この初期値のわずかな誤差からの変化のことをバタフライ効果といいます
これはローレンツの言葉で「蝶が羽ばたく程度の非常に小さい撹乱でも遠くの気象に影響を与えるか」という問いかけと、もしそれが正しければ、観測誤差をなくすことができない限り、正確な長期予測は根本的に困難になるというものに由来しています

この美しい曲線群を得るためにはローレンツ方程式を解かなければならないのですが、基本的に一気に解は得られないので時間の刻みを細かくとって(今回は $${\varDelta t=0.005}$$)少しずつ解を得ていきます
その過程で漸化式を使うのです
雰囲気は
 $${x_{i+1}=x_i +\varDelta x}$$
 $${\displaystyle y_{i+1}=y_i + \frac{\varDelta x}{6}(k_1 +2k_2 +2k_3 +k_4)}$$
 $${k_1=f(x_i,\ y_i)}$$
 $${\displaystyle k_2=f(x_i+\frac{\varDelta x}{2},\ y_i +\frac{\varDelta x}{2}k_1)}$$
 $${\displaystyle k_3=f(x_i+\frac{\varDelta x}{2},\ y_i +\frac{\varDelta x}{2}k_2)}$$
 $${\displaystyle k_4=f(x_i+\varDelta x,\ y_i +\varDelta x k_3)}$$
ですが、もっと複雑な式で計算しています
(雰囲気の6つの式では $${x_i}$$ と $${y_i}$$ の関係式を解く(数値解を得る)手順のための式でしたが、ローレンツ方程式の数値解を得るには $${x_i,\ y_i,\ z_i,\ t}$$ の関係式を解く手順(漸化式)を得なければなりません)
そして実際の気象モデルではもっと膨大な計算が待っていますが、そんな中にも漸化式は活用されています

確率漸化式

もう少し簡略化したモデルで考えてみましょう
問題1 Aの箱には『晴れ』と書かれたカードが1枚、『雨』と書かれたカー
    ドが4枚、Bの箱には『雨』と書かれたカードが4枚入っています
    Aの箱に『晴れ』が入っているとき、翌日の天気の予報を『晴れ』
    とします
    それぞれの箱から同時に1枚ずつ取り出し入れ替える作業を繰り返
    します
    この操作を $${n}$$ 回繰り返したときAの箱に『晴れ』のカードが入って
    いる(翌日の天気が『晴れ』と予報する)確率を $${a_n}$$ とします
    (1) $${a_1,\ a_2}$$ を求めなさい
    (2) $${a_{n+1}}$$ を $${a_n}$$ を用いて表しなさい
    (3) $${a_n}$$ を $${n}$$ の式で表しなさい

解答を折りたためないので5行ほど空白を空けています





解(1) 1回目にAから『雨』のカードを引けばいいので $${\displaystyle a_1=\frac{4}{5}}$$
   2回目のあとAに『晴れ』が入っているのは
    [1] Aから2回連続『雨』のカードを引く
    [2]1回目Aから『晴れ』のカードを引き、2回目Bから『晴れ』
      のカードを引く
   の2つの事象でこの2つは背反である(同時に起こらない)
   よって、
    $${\displaystyle \frac{4}{5} \times \frac{4}{5} + \frac{1}{5} \times \frac{1}{4}=\frac{69}{100}}$$

解(2) 

   となるので、
    $${\displaystyle a_{n+1}=\frac{4}{5}a_n +\frac{1}{4}(1-a_n)}$$

   $${\displaystyle \therefore a_{n+1}=\frac{11}{20} a_n +\frac{1}{4}}$$……①

解(3) 式①は
    $${\displaystyle a_{n+1}-\frac{5}{9} =\frac{11}{20}\left(a_n-\frac{5}{9}\right) }$$

   と変形できるので、数列$${\displaystyle \left\{ a_n-\frac{5}{9} \right\}}$$の一般項は

    $${\displaystyle a_n-\frac{5}{9}=\left( a_1-\frac{5}{9} \right) \left( \frac{11}{20} \right)^{n-1} =\frac{11}{45} \left( \frac{11}{20} \right)^{n-1}}$$

   したがって $${\displaystyle a_n=\frac{11}{45} \left( \frac{11}{20} \right)^{n-1}+\frac{5}{9}}$$


問題2 箱Aには『晴れ』カードが2枚、箱Bには『雨』カードが2枚入ってい
    ます
    はじめに箱Aから1枚カードを引いて箱Bに入れて、次に箱Bから1枚
    カードを引いて箱Aに入れます
    この操作を1回の操作とします
    この操作を $${n}$$ 回繰り返した後にAに『晴れ』の入っている枚数
    によって、その確率を、2枚なら $${P_n(\mathrm 晴れ)}$$、1枚なら $${P_n(\mathrm 曇り)}$$、
    0枚なら $${P_n(\mathrm 雨)}$$ とします
    このとき、次の各問いに答えなさい
    (1) $${P_1(\mathrm 晴れ),\ P_1(\mathrm 曇り),\ P_1(\mathrm 雨)}$$ を求めなさい
    (2) $${P_n(\mathrm 晴れ),\ P_n(\mathrm 曇り),\ P_n(\mathrm 雨)}$$ を求めなさい
                        2016名古屋大学(改)

解答を折りたためないので5行ほど空白を空けています




解(1) 初めに箱Aから『晴れ』カードを引いて箱Bに入れる
   箱Bの中には『晴れ』『雨』『雨』カードが入っているから
   $${\displaystyle P_1(\mathrm 晴れ)=\frac{1}{3},\ P_1(\mathrm 曇り)=\frac{2}{3},\ P_1(\mathrm 雨)=0}$$

解(2) 

   図より
    $${\displaystyle P_{n+1}(\mathrm 晴れ)=\frac{1}{3} P_n(\mathrm 晴れ) + \frac{1}{6}P_n(\mathrm 曇り)}$$……①

    $${\displaystyle P_{n+1}(\mathrm 曇り)=\frac{2}{3} P_n(\mathrm 晴れ) + \frac{2}{3}P_n(\mathrm 曇り)+ \frac{2}{3}P_n(\mathrm雨)}$$……②
   が成り立つ
   また、晴れか曇りか雨の事象は互いに背反で、かつどれかの事象になる
   ので、
    $${\displaystyle P_n(\mathrm 晴れ) + P_n(\mathrm 曇り)+ P_n(\mathrm雨)=1}$$……③
   が成り立つ
   これを②に代入すると
    $${\displaystyle P_{n+1}(\mathrm 曇り)=\frac{2}{3}}$$
   $${\displaystyle \therefore P_n(\mathrm 曇り)=\frac{2}{3}}$$……④
   これを①に代入すると
    $${\displaystyle P_{n+1}(\mathrm 晴れ)=\frac{1}{3} P_n(\mathrm 晴れ) + \frac{1}{9}}$$

    $${\displaystyle P_{n+1}(\mathrm 晴れ)-\frac{1}{6}=\frac{1}{3} \left( P_n(\mathrm 晴れ) - \frac{1}{6}\right)}$$

    $${\displaystyle P_n(\mathrm 晴れ)-\frac{1}{6}= \left( P_1(\mathrm 晴れ) - \frac{1}{6}\right)\left(\frac{1}{3}\right)^{n-1}}$$

           $${\displaystyle{}= \left( \frac{1}{3} - \frac{1}{6}\right)\left(\frac{1}{3}\right)^{n-1}=  \frac{1}{6}\left(\frac{1}{3}\right)^{n-1}=  \frac{1}{2}\left(\frac{1}{3}\right)^n}$$

   $${\displaystyle\therefore P_n(\mathrm 晴れ)=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{3}\right)^n+\frac{1}{6}}$$……⑤

  ③に④, ⑤を代入して
   $${\displaystyle \frac{1}{2}\left(\frac{1}{3}\right)^n+\frac{1}{6} + \frac{2}{3} +P_n(\mathrm雨)=1}$$

  $${\displaystyle \therefore P_n(\mathrm雨)=\frac{1}{6}-\frac{1}{2}\left(\frac{1}{3}\right)^n}$$


初めに書いたように実際の天気の移り変わりはこんなに単純なものではないです
でも、どんなに複雑でも漸化式という形で少しずつ少しずつと解析を進めれば未来の予測がかなり正確にできるところまできています(スパコンは超強力)
(台風の進路予報、エルニーニョ、ラニーニャ、偏西風の蛇行など)

今回の例では漸化式を考えるのに
 $${n}$$ 回目(現在)⇒ $${n+1}$$ 回目(1つ先の未来)
を取り上げましたが、問題によっては
 $${n-1}$$ 回目(1つ前の過去)、$${n}$$ 回目(現在)
                   ⇒ $${n+1}$$ 回目(1つ先の未来)
やもっと複雑な関係の図が必要になることもあります
でもその図を正確に把握できれば漸化式をつくることは怖くないと思います

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?