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2023年度国税専門官・財務専門官・労働基準監督官採用試験:専門試験解説(経済学・財政学・労働経済学)

 このnoteでは、2023年6月4日に開催された、国税専門官採用試験、財務専門官採用試験、労働基準監督官採用試験、第1次試験(ミクロ経済学・マクロ経済学・財政学・労働経済学)の事情系を除く問題の解説を行います。目下執筆途中ですが、速報性を重視して随時更新していきます。もし内容に誤りや、ご不明点がありましたら、TwitterのDMにまでご報告頂けますと、大変助かります。

【2023年度公務員試験解説noteリンク】

難易度の評価
★ Cake 一般的な知識のみで解ける問題
★★ Normal 一般的な知識についての簡単な応用問題
★★★ Hard 一般的な知識についての厳密な理解を必要とする問題
★★★★ Savage 専門的な知識を必要とする問題
★★★★★ Ultimate 専門的な知識についての深い理解を必要とする問題

ミクロ経済学

需要の価格弾力性(国税No.23,財務No.15,労基No.29)★

 需要関数$${X=-2P+70}$$より、$${P=0}$$のとき$${X=70}$$。よって需要曲線は下図のように描かれる。

 ここで$${X=10}$$のとき、需要の価格弾力性$${\varepsilon_{D}}$$は
$${\varepsilon_{D}=\frac{60}{10}=6}$$
と計算される。

(別解)
 需要の価格弾力性の定義より
$${\varepsilon_{D}=-\frac{dX}{dP}×\frac{P}{X}=-(-2)×\frac{P}{-2P+70}=\frac{P}{-P+35}}$$
$${X=10}$$のとき$${P=30}$$と求められるので
$${\varepsilon_{D}=\frac{30}{-30+35}=6}$$
と計算される。

最適労働供給(財務No.16)★

 1日(24時間)における労働時間を$${L}$$とすると、$${L=24-l}$$と表される。労働1時間あたり賃金は1なので、所得$${y}$$は$${y=1×L=24-l}$$となる。これを効用関数$${U=2yl-l^{2}+46l}$$へ代入すると
$${U=2(24-l)l-l^{2}+46l=-3l^{2}+94l}$$
となる。よって効用最大化条件は
$${\frac{\partial U}{\partial l}=-6l+94=0 \ \Leftrightarrow \ l^{*}=\frac{94}{6}=15+\frac{40}{60}}$$
よって最適な余暇時間は15時間40分となり、最適な労働時間はこの時間を24時間から引いて8時間20分となる。

最適労働供給(労基No.30)★

 効用関数$${U=Y^{\frac{1}{2}}C}$$、時間当たり賃金$${w}$$、消費財価格$${p}$$、与えられた時間$${T}$$のもと、コブ=ダグラス型効用関数の最適消費の公式より最適な余暇時間$${T~{*}}$$は
$${Y^{*}=\frac{\frac{1}{2}}{\frac{1}{2}+1}×\frac{wT}{w}=\frac{2}{3}T}$$
と求められる。よって最適な労働時間$${L^{*}}$$は
$${L^{*}=T-Y^{*}=T-\frac{2}{3}T=\frac{1}{3}T}$$
と計算される。

費用関数と費用の諸概念(国税No.24,財務No.17,労基No.31)★

 与えられた総費用曲線から、平均費用曲線、平均可変費用曲線、限界費用曲線、平均固定費用曲線を描くとそれぞれ以下のように描かれる。

 ここから選択肢を検討すると
A:$${x_{3}<x<x_{4}}$$の範囲でACは逓増しているので誤り。
B:点aにおいてMCは最小となっているので正しい。
C:$${x=x_{2}}$$のときAVCは最小となっているので誤り。
D:$${x=x_{3}}$$のときACとMCは交わっているので値は等しい。よって正しい。
E:AFCは右下がりの曲線であるため、点a~dのうちAFCが最小となるのは生産量が最も大きい点d。よって正しい。

上限価格規制(労基No.32)★★

 需要関数$${D=-P+18}$$と供給関数$${S=P-2}$$より、市場価格は$${P^{*}=10}$$、均衡取引量は$${x^{*}=8}$$と計算される。この状況では政府による$${P=8}$$を上限とする価格規制は有効に機能し、取引価格は$${P=8}$$まで引き下げられる。需要量は$${D=-8+18=10}$$である一方で供給量は$${S=8-2=6}$$であるから超過需要が生じており、ショートサイドの原理により取引量は$${6}$$となる。また、取引量が$${6}$$のときの消費者の限界支払意思は$${D=6}$$を需要関数に代入して$${P=12}$$と求められる。以上の結果を図示すると以下のように描かれる。

 市場均衡(点E)における消費者余剰は$${\triangle AEC}$$の面積となる。これを計算すると
$${CS_{E}=\frac{1}{2}×8×(18-10)=32}$$
となる。
 いま、この財の取引はこの財を最も高い価格で評価する消費者から順に割当てられると仮定されているため、市場は完備となっている。このとき、上限価格規制(点D)における消費者余剰は四角形$${ABDF}$$の面積となる。これを計算すると
$${CS_{D}=\frac{1}{2}×6×((12-8)+(18-8))=42}$$
となる。
 よって、上限価格規制による消費者余剰の変化は
$${CS_{D}-CS_{E}=42-32=10}$$
と計算され、10の増加となる。

※市場が完備ではなく、限界支払意思が$${8}$$以上の消費者にランダムに販売され、かつ購入した消費者によってそのまま消費されるとき、消費者余剰は$${\triangle ADF}$$となる。

マクロ経済学

帰属計算(労基No.33)★

A:キャピタルゲインはGDPの計算に含まれない。
B:持ち家の帰属家賃はGDPの計算に含まれる。
C:家事代行会社による家事労働はGDPの計算に含まれる。
D:外国の支店で生み出された付加価値はGDPの計算に含まれない。
E:公共サービスはGDPの計算に含まれる。

45度線分析(労基No.34)★

 生産物市場の総需要を$${Y_{D}}$$、総供給を$${Y_{S}}$$とする。三面等価の原則より総供給は総所得$${Y}$$と等しく
$${Y_{S}=Y}$$
と表される。一方で、総需要は家計部門、企業部門、政府部門、海外部門の有効需要の合計で
$${Y_{D}=C+I+G+X-M}$$
と表される。$${C}$$、$${I}$$、$${G}$$、$${X}$$、$${M}$$に与件を代入すると
$${Y_{D}=0.8(Y-0.1Y)+30+20+20+30-(0.12Y+30)=0.6Y+70}$$
と導出される。
 ここで完全雇用国民所得$${Y_{F}=200}$$における$${Y_{S}}$$と$${Y_{D}}$$をそれぞれ計算すると
$${Y_{S}=Y_{F}=200}$$
$${Y_{D}=0.6×Y_{F}+70=0.6×200+70=190}$$
よって
$${Y_{S}-Y_{D}=200-190=10}$$
と計算でき、$${10}$$のデフレギャップが発生している。
 45度線モデルにおいて完全雇用を政府支出(明示されていないが、財源は市中消化方式による国債発行とする)によって達成するためには、デフレギャップと同額の政府支出の増加が必要になるので、必要な$${G}$$の増加分は$${10}$$となる。このとき政府支出は$${30}$$となる一方で税収は$${T=0.1×200=20}$$であることから、政府の財政収支は$${10}$$の赤字である。

45度線モデルの図
デフレギャップの分だけ政府支出を増加させることで
総需要曲線を上シフトさせ、均衡国民所得と完全雇用国民所得を一致させる

IS-LM分析(国税No.25,財務No.18,労基No.35)★

 政府支出の増加による国民所得の変化は
$${\Delta Y=\frac{1}{1-c+bk}\Delta G}$$
で表される。本問においては$${c=0.8}$$、$${b=2}$$、$${k=\frac{0.4}{8}=\frac{1}{20}}$$より$${\Delta G=15}$$のときの国民所得の増加量は
$${\Delta Y=\frac{1}{1-0.8+2×\frac{1}{20}}×15=\frac{15}{0.3}=50}$$
と計算される。

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AD-AS分析(国税No.26,財務No.19,労基No.36)★

 総需要関数$${Y=300-4P}$$、総供給関数$${Y=20+3P}$$より均衡国民所得$${Y^{*}=140}$$、均衡物価水準$${P^{*}=40}$$と求められる。一方、完全雇用国民所得$${Y_{F}=150}$$より、$${Y^{*} < Y_{F}}$$であることから、完全雇用の実現のためには総需要曲線の右シフト(拡張的財政政策/金融緩和政策)または総供給曲線の右シフト(生産コストの低下)が必要である。
 以上の結果から選択肢を検討する。

1.正しい。完全雇用の実現のためには拡張的財政政策が必要で、これはAD曲線を右シフトさせ、均衡物価水準を上昇させる。
2.金融引き締めを行うと国民所得が減少するため、完全雇用を実現できないので誤り。
3.金融緩和政策は総供給曲線を右シフトさせるのではなく総需要曲線を右シフトさせるので誤り。
4.生産費用の上昇は総供給曲線を右シフトさせるのではなく左シフトさせるので誤り。
5.生産費用の上昇は総供給曲線を左シフトさせるが、物価は下落するのではなく上昇するので誤り。

為替レートの決定理論(財務No.20,労基No.37)★

 $${X=550+\frac{2}{5}e}$$と$${M=700-\frac{1}{10}e}$$に対して、貿易収支が30の赤字であるならば
$${X-M=(550+\frac{2}{5}e)-(700-\frac{1}{10}e)=-150+\frac{5}{10}e=-30}$$
$${\Leftrightarrow e=240}$$
と計算される。一方、貿易収支が均衡するならば
$${X-M=(550+\frac{2}{5}e)-(700-\frac{1}{10}e)=-150+\frac{5}{10}e=0}$$
$${\Leftrightarrow e=300}$$
と計算される。よって当初の状態から貿易収支を均衡させるためには、為替レートは60の減価*が必要となる。

※$${e}$$は『自国通貨建て為替レート』か『外国通貨建て為替レート』か記載がないが、輸出入と為替レートの関係式を見ることで自国通貨建て為替レートであると類推できる。ただし本来は自国通貨建てであることを問題文で明言するべきだろう。

財政学

二重価格制度(国税No.29)★★

 需要関数$${D=-P+400}$$、供給関数$${S=2P+10}$$より、この財は市場均衡においては市場価格$${P^{*}=130}$$、均衡取引量$${x^{*}=270}$$で取引される。
 政府が価格$${145}$$で生産者から無制限に買い取ると、生産者は供給曲線のもとで$${x=2×145+10=300}$$を供給する。また、政府が価格$${100}$$で消費者へ販売すると、消費者は需要曲線のもとで$${x=-100+400=300}$$を需要する。よって、この二重価格制度のもとでは需給は一致する。以上の状況を図示すると以下のように描かれる。

 完全競争市場における総余剰が$${\triangle AEB}$$の面積で表される一方、二重価格制度のもとでは消費者余剰が$${\triangle ACF}$$、生産者余剰が$${\triangle GDB}$$、補助金総額(政府の負の余剰)が四角形$${GDCF}$$の面積でそれぞれ表されるため、総余剰は$${\triangle AEB-\triangle DEC}$$の面積で表される。よって$${\triangle DEC}$$の面積は二重価格制度の導入による死荷重となる。この面積を計算すると
$${\triangle DEC=\frac{1}{2}×(300-270)×(145-100)=675}$$
と求められる。

公債負担論(国税No.30)★★

A:ブキャナン (1958)の負担の定義に基づけば、公債の購入の時点では負担はなく、公債の償還の時点で負担が発生する。

B:生涯消費の減少を負担と定義したのは、ボーエン=デービス=コップ (1960)である。

C:正しい。

D:正しい。

国の財政制度(国税No.31)★★

1.暫定予算ではなく、補正予算についての説明。また、補正予算は国会の議決が必要。

2.補正予算の作成に回数の制限はない。

3.建設国債は60年償還ルールに基づいて償還されている。

4.正しい。

5.財政投融資は地方債を引き受けている。

地方の財政制度(国税No.32)★★

1.地方交付税の配分を決定するのは総務大臣である。

2.正しい。

3.国庫支出金は一般会計から支出される。

4.地方交付税は消費税分を除けば特定財源ではなく一般財源である。

5.地方公営企業は地方自治体自身が経営している。

労働経済学

最低賃金制度(労基No.42)★★★

 賃金率を$${w}$$、労働量を$${L}$$、生産者の労働需要曲線を$${L_{D}}$$、労働者の労働供給曲線を$${L_{S}}$$とする。また買手独占時の生産者の限界要素費用曲線を$${MFC}$$とすると、これらを図示すると以下のように描かれる。

 労働市場が完全競争市場であれば、取引は$${L_{D}}$$と$${L_{S}}$$の交点Eで行われ、均衡賃金率は$${w^{*}}$$、均衡雇用量は$${L^{*}}$$となる。
 一方、労働市場が買手独占市場であれば、雇用量は$${L_{D}}$$と$${MFC}$$の交点Aにおける$${L'}$$で決定され、賃金率は$${L'}$$のもとで$${L_{S}}$$によって得られる点Fの賃金率$${w'}$$で決定される。
 いま、完全競争市場で最低賃金規制が設けられるとすると、最低賃金水準が$${w^{*}}$$を上回れば必ず雇用量は減少する。一方、買手独占市場で最低賃金規制が設けられる場合は、最低賃金が$${w"}$$を上回る水準で設定されると雇用量は減少する一方、$${w’}$$と$${w"}$$の間の水準で設定されると雇用量は増加する。
 以上の結果から、選択肢を検討する。

1.完全競争の労働市場では雇用量を減少させるので誤り。
2.完全競争の労働市場では雇用量を減少させるので誤り。
3.完全競争の労働市場では雇用量を減少させるので誤り。
4.買い手独占の労働市場では雇用量は増加する可能性もあるし、減少する可能性もあるので誤り。
5.正しい。

生産者理論(労基No.43)★★★

 生産関数$${Y=L^{\alpha}K^{1-\alpha}}$$より、労働の平均生産性$${APL}$$は
$${APL=\frac{Y}{L}=\frac{L^{\alpha}K^{1-\alpha}}{L}=(\frac{K}{L})^{1-\alpha}}$$ ①
と計算される。一方、生産者の利潤$${\pi}$$は生産物価格を$${p}$$、賃金率を$${w}$$、資本のレンタルコストを$${r}$$とすると
$${\pi(L,K)=pY-(wL+rK)=pL^{\alpha}K^{1-\alpha}-wL-rK}$$
となる。ここで市場は完全競争なので労働投入に関する利潤最大化条件は
$${\frac{\partial \pi(L,K)}{\partial L}=p\alpha L^{\alpha-1}K^{1-\alpha}-w=0}$$
$${\Leftrightarrow (\frac{K}{L})^{1-\alpha}=\frac{1}{\alpha}×\frac{w}{p}}$$ ②
と求められる。
ここで②式に①式を代入すると
$${APL=\frac{1}{\alpha}×\frac{w}{p}}$$
となる。ここで$${0<\alpha<1}$$と与えられているから、労働の平均生産性は実質賃金より大きくなる($${\frac{1}{\alpha}}$$倍となる)。

専門記述:経済学

逆選択★★★★

逆選択(逆淘汰、アドバース・セレクション)に関する次の問いに答えなさい。

(1)
 逆選択とは、取引が行われる前の段階において品質などの財の属性の情報について、財の買い手よりも売り手に多くの情報がある場合に発生する問題のことを指す。以下では、中古自動車市場を模したミクロモデルを作成し、逆選択のメカニズムと生じうる結果について説明する。

 中古自動車市場は競争的で、その品質を$${Q}$$と表し、簡単化のために市場に存在する品質は優良品(ピーチ)$${P}$$と不良品(レモン)$${L}$$の二種類であるとする($${Q\in\{P,L\}}$$)。当初、品質$${P}$$と品質$${L}$$の市場における総量は$${x_{P}:x_{L}}$$であり、売り手は自らの財の品質を知っている一方で、買い手は購入しようとしている特定の財の品質は判別できず、各品質が市場にある量$${x_{P},x_{L}}$$のみを知るものとする。
 売り手の中古自動車に対する留保価格を$${s_{Q}}$$とし、$${s_{L}<s_{P}}$$と仮定する。一方、買い手の中古自動車に対する支払意思を$${b_{Q}}$$とし、$${b_{L}<b_{P}}$$とする。また、情報の非対称性がない状況であれば全ての品質の中古自動車の取引が行われることを前提とするために、$${s_{L} < b_{L} < s_{P} < b_{P}}$$を仮定する。
 以上の仮定のもとで中古自動車の価格を$${p}$$、数量を$${x}$$とすると、買い手の市場(逆)需要関数は
$${\left\{ \begin{array}{l} p=b_{P} \ \ \textrm{if} \ Q=P \\ p=b_{L} \ \ \textrm{if} \ Q=L \end{array} \right.}$$
と表され、売り手の市場供給関数は
$${\begin{cases} x=x_{L}+x_{P} \ \ \textrm{if} \ s_{P} \leq p \\ x=x_{L} \ \ \textrm{if} \ s_{L} \leq p < s_{P} \\ x=0 \ \ \textrm{if} \ p < s_{L} \end{cases}}$$
と表される。以上の状況を図示すると、以下の図1のように描かれる。

図1:情報の非対称性がなければ、
それぞれの品質に相応しい価格で取引が行われることで総余剰が最大化される。

 もし買い手に品質についての十分な情報があれば、ピーチの取引は点Cで決まり、価格は$${b_{P}}$$、取引量は$${x_{P}}$$となり、レモンの取引は点Hで決まり、価格は$${b_{L}}$$、取引量は$${x_{L}}$$となる。このとき総余剰は四角形BCFE+四角形GHJIとなる。
 一方、情報の非対称性のもとでは、買い手がリスク中立的であると仮定すると、買い手の期待支払い意思は$${Eb=\frac{x_{L}}{x_{L}+x_{P}}b_{L}+\frac{x_{P}}{x_{L}+x_{P}}b_{P}}$$であり、これは$${b_{L}<Eb<b_{P}}$$となる。
 ここで$${Eb \geq s_{P}}$$であるとき、状況を図示すると以下の図2のように描かれる。

図2:期待支払意思が高いと市場の失敗は生じない。

 このとき、中古自動車の価格はピーチ、レモンともに$${p=Eb}$$、ピーチの取引量は$${x_{P}}$$となり、レモンの取引量は$${x_{L}}$$となる。総余剰は四角形BCFE+四角形GHJIとなるため、この場合には特に厚生損失は生じない。
 一方$${Eb < s_{P}}$$であるとき、価格より留保価格が高いピーチの売り手は自らの財を供給しなくなる。そしてこのような状況ではピーチが市場に存在しないことを知る買い手は、中古自動車の市場存在量の情報をアップデート($${x_{P}=0}$$)するため、$${Eb=b_{L}}$$となる。これを図示すると以下の図3のように描かれる。

図3:期待支払意思が低いと、ピーチが供給されなくなる。
それを察した買い手が情報をアップデートすることで需要曲線が下方シフトし、逆選択が生じる。

 このとき取引は点で決まり、価格は$${p=b_{L}}$$、ピーチの取引量はゼロ、レモンの取引量は$${x_{L}}$$となる。総余剰は四角形GHJIとなるため、四角形BCFEの分の厚生損失が生じる。本来取引されるべきピーチが市場で取引されないために厚生損失が生じる、本ケースのような市場の失敗を逆選択と言う。

(2)
 逆選択による市場の失敗を克服するためのアイデアとして、スクリーニングとシグナリングが知られている。以下ではこの2つのアイデアについて、(1)で作成した中古自動車のミクロモデルを元に説明する。

 まず、スクリーニングとは情報を持たない側、つまり中古自動車市場の場合は中古自動車の買い手が売り手の情報を引き出すために行う行為のことを指す。このとき、売り手自身が自らの品質に関する正しい情報を買い手に伝えたいと思うために十分なインセンティブを与えることが重要である。いま、中古自動車がピーチであれば故障しないが、レモンは故障することがあり、その修理費用は十分に高いものとする。このとき、買い手が購入の際に売り手に対して以下の契約Xを提示することを考える。

【契約X】
①買い手はこの契約を結ぶ手数料として売り手に$${t}$$を支払う。
②買い手はこの契約を結ぶことで、故障したときの修理費用の全額を売り手に請求することができる。

 $${t}$$は中古自動車の買い手にとって十分に小さな金額であるとする。売り手はこの契約Xを引き受けることもできるし、断ることもできる。もしピーチの売り手であれば故障しないことを知っているので、契約Xを引き受けることでノーリスクで手数料$${t}$$を受け取ることができるから、$${t}$$が正である限り契約Xを引き受ける。一方、レモンの売り手であれば、レモンは故障するので、契約Xを引き受けると売り手は故障した際に修理費用を支払わなければならない。この修理費用が十分に高いと、レモンの売り手は契約Xを引き受けることが割に合わないので契約Xを断る。以上から、この契約Xを売り手が引き受けるか断るかを見ることによって、買い手は売り手の中古車自動車の品質についての情報を引き出すことができる。以上がスクリーニングと呼ばれる対策である。

 次に、シグナリングとは情報を持つ側の中で逆選択の中で淘汰される者、つまり中古自動車の例であればピーチの売り手が、レモンの売り手には不可能な方法で自らの情報を買い手に伝える行為のことを指す。たとえば、ピーチの売り手が買い手に対して次の契約Yを提示する。

【契約Y】
①買い手はこの契約を結ぶことで、故障したときの修理費用の全額を売り手に請求することができる。
②買い手はこの契約を結ぶために追加的料金を支払う必要はない。

 ピーチの売り手は自らの中古自動車が故障しないことを知っているので、この契約を結んでも特に損失はない。一方でレモンの売り手は故障の可能性があることを知っており、故障すると修理費用を支払わなければならないため、その修理費用が十分に大きいと割に合わなくなる。従って、この契約を提示した売り手は必ずピーチの売り手ということになり、買い手は契約を提示されたか、されていないかで、売り手の品質についての情報を知ることができる。以上がシグナリングと呼ばれる対策である。

専門記述:財政学

租税理論★★★


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