既存のルールに、どのような方法で向き合っていくのか、ルール自体を更新していくことについて

Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]
青田真也、吉田有里

今回、PARADISE AIRとのピアレビューを経て、以下のようなことに気づきがありました。項目立てて、記述しています。

*PARADISE AIRの活動を松戸、名古屋港での活動を港として表記しています。

①組織体制

各自職能を持ったフリーランスの人たちが技術を持ち寄る組織体系に関して、松戸も港も同様に働き方の工夫を感じることができました。松戸の話で印象的だったのは、全体予算をスタッフで均等に分配しているということでした。それぞれの無理なスケジュールでやらなければいけないタスクを設けず、各々の趣味として得意分野の仕事を引き受けるということは新しい発見でした。実際に事務所内でどのように機能しているかを学んでみたいと思いました。またこの方法で有用な点としては、フリーランスの仕事の不安定さを少しでも補えることだと感じました。

②地域との付き合い方

まちなかでプロジェクトを行う上で避けては通れない事柄だと思いますが、アーティスト自身がやりたいことと、それを遂行するうえで地域からの要望とを擦り合わせていく活動について、松戸の壁画のプロジェクトのプロセスはとても参考になりました。人と関わるという点では、アートプロジェクトもまちづくりもプロセスとして、近いところにありますが、やはり目的の大きく違うもの同士が同居する際のバランスの取り方が重要だと思います。それは港の活動初期から一貫して自分たちにも問い続けています。

③行政との付き合い方

港まちの場合、主催者である名古屋市と、念密に共有をしながらの進行のため時間がかかることもあります。松戸の場合は法人化しているということもあり、窓口として行政が担う補助金申請などは別にして、事業内容に関しては、自由度を持っており行政との関係性に風通しの良さを感じました。行政のシステム上、数年毎に担当者が異動するという現実があり、フレキシブルに行政と関係性をつくっていくことが理想的だと思います。一方で行政と密に関係性をつくることの良さもあり、文化事業での経験が他の部署に移ってからも伝播したり、支援が続くという場合もあります。縦割り構造などの行政の既存のルールについて、どのような方法で向き合っていくのか、ルール自体を更新していくことが大きな課題だと考えています。

④予算

予算計画で、見習いたい点が多数ありました。市の負担金、外部からの補助金、家賃収入での予算の仕組みです。どこか一箇所に依存せず、バランスよく組み立てることで、不測の事態にも耐えうる運用が参考になりました。全体予算の1/3を収入で賄っている点は、自立性や今後の継続性を考える点でも重要だと感じました。先ほども書いたように行政と連携において柔軟な対応をするための法人化も大きく関わっていると思いますし、港でも積極的に収入を得ることも議論していかなければいけない課題だと思います。

⑤アウトプットについて

港の活動でいうと、レジデンスでの滞在の先にも、展覧会やイベントなどのなにかしらのアウトプットがあることが大事だと考えています。それはワークショップやトーク、滞在の記録でもいいと思いますが、AIRがアーティストと地元住民だけに閉じず、鑑賞者やその地域を拠点とする外部のアーティストにとっても繋がる場となるような活動を考えています。これは地域性によっても異なるかと思いますが、その場所にとどまるアーティストが多い名古屋という場所でやるには大事なことだと再認識しました。

⑥WEB

なかなか可視化の難しいAIRの活動を誰もがアクセスできるウェブ上にまとめ、アーカイブとしても機能し、デザインの良さ、見せ方の構造そのものがユニークな作りをしていると感じます。実は今回折に触れて、松戸のWEBサイトを参照させていただいておりました。


プロフィール

吉田有里(よしだ・ゆり)
アートコーディネーター/名古屋芸術大学准教授
1982年東京都生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科芸術学専攻修了。
2004年-2009年、横浜市創造都市事業として歴史的建造物を活用したアートセンターBankART1929のスタッフとして勤務。
2004年-2006年、横浜馬車道エリアでの都市開発のプロジェクト「北仲 BRICK」で、プロジェクトスペース「YOSHIDATE HOUSE」をアートコーディネーター・芦立さやかと共同運営。
2009年-2013年あいちトリエンナーレのアシスタントキュレーターとして、まちなか展示の会場である長者町エリアを担当。トリエンナーレスクールやアートラボあいちの立案に関わる。
2014年から名古屋港エリアでMinatomachi Art Table, Nagoya[MAT, Nagoya]、アッセンブリッジ・ナゴヤの共同ディレクターをつとめる。

青田真也(あおたしんや)
アーティスト
1982年大阪府生まれ。身近な日用品など、さまざまなものの見慣れた表層をヤスリで削る作品シリーズを中心に、本質や価値を問い直す作品を制作している。主な展示に、2010年「あいちトリエンナーレ2010」、2014年「日常/オフレコ」(神奈川芸術劇場)、「MOTアニュアル2014」(東京都現代美術館)、2018年「青田真也|よりそうかたち」(Breaker Project、大阪)など。
名古屋港エリアでMinatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]、アッセンブリッジ・ナゴヤの共同ディレクターをつとめる。


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