Novelber 12th—昼と夜のはじまりのはなし

 むかしむかし、空には色がありませんでした。
 昼も夜もなく、生きものたちは起きるでもねむるでもなく、ずっとぼんやりしていました。
 しろくかがやく太陽と月は、そのようすを見て相談しました。
「これではとてもつまらない。地上のものたちを楽しませてはやれないだろうか」
「絵を描いて見せてやってはどうでしょう。あの空がちょうどあいています」
「それはすてきな考えだ。下地にはいっとうきれいな色を塗ろう」
「それはみごとな考えです。いっとうきれいな色を見つけましょう」
 太陽と月は、モモとナナというふたごを呼んできました。

「おまえたち、これから旅にでて、いっとうきれいな色を見つけておいで」
「きれいな色を見つけたら、空一面をお塗りなさい」
 モモとナナはかしこまってこたえました。
「おてんとうさまのおおせとあらば。これはとても名誉な役目」
「お月さまのおおせとあらば。これはとても光栄な仕事」

 モモとナナはかんがえました。
「ふたりいっしょに行くよりも、手分けしたほうがはやいはず」
「ひとりは北に、ひとりは南に。そうすれば倍もはやいはず」
 こうしてモモは南を、ナナは北をめざして旅立ちました。

 南へむかったモモは、海にでました。
 どこまでも遠くふかい青。波におどる白い泡。
「これがいっとうきれいな色にちがいない。きっとナナもそう思うはず」
 そうしてさっそく、空を色づけはじめました。

 北へむかったナナは、洞窟にはいりました。
 包みこまれるような闇。色とりどりにきらめく宝石。
「これがいっとうきれいな色にちがいない。きっとモモもそう思うはず」
 そうしてさっそく、空をいろどりはじめました。

 それはぴったり同じとき、ちょうど世界の反対がわ。
 ふたりが空を半分ずつ塗り終えたとき、太陽と月は言いました。
「これはどちらもきれいな色だ」
「絵を描くよりも、このままのほうがすてきです」
「けれども地上のものたちが片方しか見られないのは気の毒だ」
「それなら一日ひとまわり、空をぐるりとまわしましょう」

 モモが塗った海の色と、ナナが塗った洞窟の色は、いまでも毎日、私たちの頭のうえをまわりつづけているのです。

Novelber 12 お題「並行」

※お題は綺想編纂館(朧)さま主催の「Novelber」によります。


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