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家をリゾートにしたかった


旦那がうどんを作ってくれるらしい。

私はポテトフライを作ることにした。

屋上に持っていって
2人で食べた。

日中に雨が降っていたせいで
夜は涼しく
風も吹いていた。

「うどん、ボウルに入れたから動物の餌みたいになっとる、おいしい」
「でも外で食べるのにちょうどよくておいしく感じる」
「皿に入れなくてよかった。おいしい。」
「外で食べるときはこれくらいのラフさが逆においしさを引き立てるのかもしれん、おいしい」

夜風に吹かれながら食べるごはんは癖になる。

暗闇に、そう高くない屋上から見える近くの家の明かりと
ぶら下げた一つの小さなランプ。

下の芝生の緑は見えないけど足裏で感じる。

大きな声を出せば静かな街に
響いてしまいそうで、
でも自分たちしかいないこの暗闇に
こんな気持ちのいいことをしているのは
見渡す限り自分たちだけではないか、
秘密の気持ちよさがある。

ああ、またこれも、誰にも
理解されようと努めなくていい、言わなくてい、第三者には関係ない幸せなんだ、そう思った。

食器を片付けようと
屋上からキッチンにドタバタ戻る。

屋上への階段は2階のバルコニーから螺旋階段になっていて
下りが特にこわいのだけれど
保育園に自分が通っていた時、
途中から避難用に螺旋階段が建設されて
それになぜか心が踊ってしまって以来、
螺旋階段に心が握られ離されていなかったっぽい。
この家にしようと即決してからわかった。
あの時と同じ心臓の締め付けを感じて、誰にもバレず1人で面白い。
同じ卒園生のみんなはそんなことないのだろうか。
みんな螺旋階段のある家に住んではいないだろうか。

「旅行に行って帰ってきた感じがするな」
「屋上に出ただけなのにね」

私は屋上に出ただけなのに
満足感があって楽しかったなあ、ほんの少しの手間を惜しまずに場所を変えてよかったとそんな単純なことしか言葉にできないでいるうちに
皿洗い家事マンは、旅行に行って帰ってきた感じがすると、的確に表現していて少し悔しかった。けれど、それよりも全くもってその通りだったのでそれの念を押すブースト返答をした。


旅行から帰ってきたので風呂に入って寝る。


「明日の朝、ベーコンエグーを作りますからね。パン、作るんだろ?ちょうどいい」
「作るよ、ちょうどいいね、楽しみだ」

彼が作るものは
あまり気にしてなかったけど
私は明日は朝から黒糖レーズンパンを作ると決めてあり
もう今日の夕方のうちに生地を仕込んであった。

朝、眠くてまだとろとろしようかとしていたら
「ほら、パンを作りなさい」とせっつかれ
そうだなと思いベッドを抜け出し
冷蔵庫で眠っていた生地も叩き起こし
分割し、焼く。

しばらくしてパンがいいにおいだと言いながら
ベーコンエグーシェフが階段を上がってきた。

熱々の焼き立てパンに
バターものせようと真剣になっていたら
シェフの料理も完成したようで
かわいくて美しい、たまごの黄色とベーコンのピンクの2色が机に運ばれた。

元々卵料理が大好きだったから
スクランブルエッグなんて自分でおいしく
何度も作っていた。

とろとろのエッグをスプーンですくう。
口に入れ、脳みそに衝撃が走り、目を見開いてしまった。

「自分よりおいしくスクランブルエッグを作る人を初めてみた」

おいしくて笑えるほどだった。
シェフは「もっととろとろにしたい」と言っていたけど
「いや、いや、これで完璧」
本当にそうだった。
「ホテルよりうまい、おいしい」

まだおいしそうなものが並んでいるのが目に入り、
焼き立ての熱々の黒糖レーズンパンに手をのばし、バターをのせ、かじる。
のせたバターがとけ、コクのあるほのかな甘さにしょっぱさが混じり、ふわふわでもちもちでレーズンは膨らんでぷりぷりで
しあわせだった。
黒糖はコクがあるのに甘さが優しく上に広がるから好きだ。
パンは熱々だとなぜこんなに幸せな気持ちになるのか。

「大したものは作ってないし、一つ一つはシンプル簡単だけど、全部の料理がおいしくて相性がよくてバランスがいいよね」
「これはもう、昨日に引き続き旅行の朝ごはん」
「夜が外で朝がこれだともうホテル」
2人とも旅行に全然行かないインドアだから
旅行判定の基準が狂ってるのかもしれない。
いや、でも、確かに、これは外泊だった。

おいしくて2人とも外泊気分になっているのも面白かったけど
「僕たちのすごいところは各々が好き勝手に作ってたまたまこのメニューになってるところ」
「うち合わせしたみたいになっとる。自分勝手にやっただけなんだよなあ」
やはり確実に要所を抑える発言をしてくる。

両親に彼を食の好みが合う人だと紹介した時
母親に「B型同士のカップル?!危険じゃない?!」と頭を抱えられたことをうっすら思いだす。
昔見たテレビ番組で
A型の園児を集めて大きな紙にキリンを書かせると
みんなで協力して1つの大きなキリンを描いたのに、
B型の園児を集めると大きな紙に
みんな各々小さな好きなキリンを描いていたのも
うっすら思いだす。
他の血液型はどうしてたか忘れてしまった。

そのあと解散して
日中は好きなことをして過ごした。
翌日、仕事に行って
三連休しあわせだったなあと。
LINEで送り合った。


人のしあわせってどういうところにあるのだろうか。
2年前にわりとどん底で精神状態がおかしかったとき
しあわせについて考え、答えが出ていた。
のちの専属シェフとなる彼と初めて電話をした時
「しあわせについて考えていた」と話をしたら
「僕はもうそれについては答えは出ていて」と
意気揚々と返されたことをよく思いだすので
彼と関係を作ろうと思った初めのきっかけはそれかもしれないなと勝手に脳みそが理由付けをしている。
彼のした返答は、
コミュニケーションとしては横取りに近いものであまりよくないけれど、
しあわせやそういうことについて考える深さのある人だとは思った。
茶化されなかった。それがたぶんこの連休中にご飯を一緒に食べた時に出てくる彼の的確ワードセンスにもつながっているのかもしれない。


1人暮らしをしていた時
カフェでよく作業をするけどなんか勿体無いな?
家でカフェのように作業ができたらいいじゃないか
と考えて家の空間をカフェだと捉え家具を選び整え
おいしいものを作り
コーヒー豆を挽いたりしていた。
もちろんそれでとても充実した時間になった。

結婚してから、
お互いの家具を持ち寄って暮らし始めると
暮らせはするけどなんだか違う気がした。
各々暮らしていけるけど充実感がない。
家のことだけじゃなくて
彼との関係性もあまり良くなかった。

カフェではダメなんだ、たぶん。

じゃあ、どういうテーマでいくか。

屋上もあるし、休みに楽しくしっかり疲れを癒して
のんびりできる場所にしたいな。

リゾート?

よし、リゾートだ。
そう思い家具配置も変えて家具も選び直して
ご飯やお風呂をしっかり自分を癒すものであったり楽しいものだと思えるように少し意識を変えた。
自分を癒せると人も癒せる。
これまで通りではダメなのかもしれないと家具を選び直して配置を変えるように、
自分たちの関係性もこれまで通りではダメなのかもしれないと思い、新しい行動をして大きく変わったと思う。
正直、大変だった。変えようと思って前向きにできたわけではなかったから。
問題に気づいたり直面した時はやっぱり楽じゃない。
直面して初めてどうにかしなきゃともがく。
それでも、選び直してよかった。
大きな喧嘩をして泣いて
「僕たちの関係は僕たちがゆっくり作っていけばいい」
また大事なことを言ってくれていた。

カフェで1人で作業するように
暮らすのは独身時代に
最適だった。

ライフステージに合わせた
居住空間のテーマの必要性。

リゾートは
親愛なる人と一緒に
楽しく保養する地だ。

この連休を振り返った時、
達成されていることに気づいた。

家を、リゾートにすることができたのではないだろうか。

シェフから今、
「盛岡冷麺やるか」と
LINEが来たことをここに報告して
結びとする。

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